狐耳少女inおっさん~少女が手に入れた力は最強のおっさん!?~【TS連載中・物語の卵集】

ランドリ🐦💨

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【TS】狐耳少女inおっさん~少女が手に入れた力は最強のおっさん!?~

少女inおっさん第1話 おっさんインストール

 ――あらすじ――

 終末戦争による魔導文明の崩壊から百年。

 人々は戦争の爪痕である魔力汚染や暴走するゴーレムに怯えながらも、文明の残骸から必要な物資を集め、自らの肉体を捨て魔力汚染に耐えうるゴーレムへと身を変えて生き延びていた。

 ゴーレムの体は頑強だが人体との相性は悪く、移植後の基本的な耐用年数は二十年程度と短命、先天的に魔力汚染による変異がある場合は更に短くなる。

 人々の中でも先祖が大きな成果をあげた一部の上流階級や自力で成果をあげた上級探索者のみが、新たな肉体を与えられて魔力汚染を除去された楽園で暮らすことを許されていた。


 このお話は、成り上がりを望む狐耳の少女ミーナが探索者に成るため、闇市で見つけた怪しげな戦技模倣術式入り魔術媒体を購入して使った結果、代わりに入っていた最強のおっさん探索者が体を乗っ取り、無双してミーナを成り上がらせてしまう物語。

 おっさんは様々な戦技模倣術式と探索・戦闘経験完備な欲張りセットだった模様。


 ――お話はここから――


  ――z__

 魔導核への術式書き込みが終了しました。

 ――z__


 ボロい部屋にあるベッドで狐耳の金髪少女が薄い体にボロ着とかなり痛んだショートパンツをまとい眠っている。部屋にはベッドと壁に掛けられた少女のものと思われる上着以外、大した物が置かれていない。


「なんだぁ? この低スペックな体はよぉ? クソッ! 情報処理が遅すぎて頭がいてぇぜ! 常駐術式を解除しねぇと……」


『何コレェ!? 体が勝手に動いてる!? 変な術式だったの!? 怖いよ!』


 パッと金色の目を見開き顔を腕でこすりながら目覚めた少女は、ピンとした狐耳を震わせながら内心と口の二重で第一声を上げた。そのまま手で耳付きの頭を抑えた彼女は甲高い声で現状の不満を垂れ流している。


「あん?」

『えっ?』


「お前さんは誰だ? 俺様の頭の中でベラベラと喋りやがって」

『こっちの台詞だよっ! 私の体を返して!』


 周囲を見回した少女は小さなお尻に敷いていた赤い宝石を眺めると笑い出した。


「くはははは!」

『何!? 何なの!?』


 ひとしきり笑って落ち着いた彼女は、面白くてたまらない様子で問いかける。


「お前さん、コイツを使ったな?」

『だから何っ? それは私が買った戦技模倣術式入りの魔術媒体だよっ! それにお前じゃなくって私にはミーナっていう立派な名前があるのっ!』


「それじゃあ立派なお名前のミーナさんよぉ? コイツをどこで買った?」


 赤い宝石を軽やかにもてあそびつつ金の目で見つめて一人自問するミーナ。


 薄暗い部屋で真っ赤な宝石に金色の光が二つ映し出される。


 しばらく彼女が宝石を見つめていると、沈黙を破った『ミーナご本人』からのばつの悪そうな返答がきた。


『闇市……』

「だろうな。闇市は当たり外れが大きいが、コイツは俺様のバックアップ用記録媒体だ。当りも当り、大当たりってなモンで、戦技模倣術式なんてチャチなモンじゃ無いぜミーナさん」


『嘘……』


 他人の人格を自らの魔導核、ゴーレムとしての最も重要な場所へ書き込んでしまった事に呆然とする『ミーナご本人』。


 ショートパンツのポケットに宝石を押し込んだミーナは服をひっつかむと、部屋のドアを開けて外に出てきた。部屋はアパートの二階にある一室だったようで、カンコンと朽ちかけの金属の廊下と階段を下りつつ周囲の地形を確認し、ボロ着に上着を羽織りながら好奇の視線を無視して進んでいく。


『ちょっと! 人の体でどこに行くの!? 上着をちゃんと着て!?』

「おいおい、新しい術式を書き込んだなら、やる事は一つ、だろ?」


 基本的な記憶は共有されているらしく、勝手知ったると言った調子で汚い路地裏の道を『ミーナご本人』は絶対しないような堂々とした様子で通り抜けていく。


 そんな彼女に因縁を付けようと、ナイフを片手に持った暴漢が飛び出してきた。


 対するミーナは即座に自分の魔導核に刻まれた戦闘模倣術式を並列起動する。


  ――z__

 【窃盗A】【早業A】【反撃B】

  ――z__


「ぶっころ……ぇっ? ぐば!」


 脅し文句を言おうとした暴漢のナイフをかすめ取ったミーナ。

 目を細めた彼女は一気に至近距離へ近づくと、一瞬の早業に困惑する暴漢の首へ手に持ったナイフの柄を叩き付けた。

 覆い被さるように沈んだ暴漢をするりと避けた彼女は、吐き散らされたツバを暴漢の服で拭いてから、何事も無かったかのように進む。


「汚ぇな。じゃコイツは貰っていくぜ」

『ひぇ』


 歩きながらナイフをもてあそんだ後、シャキンと柄の中に刃を収納し懐に忍ばせたミーナは、質の変わった視線に満足しつつ呟いた。



「侮られ具合は上々、初回は友釣りがいけそうだな。喜べ、経験豊富な俺様がこのクソスペックな肉体の良い運用方法を思いついたぜ」

『何をする気なの!?』


「俺様をお買い上げいただいたミーナさんには、ご満足していただかねぇとな!」


 ――ミーナの金目が弧を描く。


 邪悪に細められた自らの目に嫌な予感を感じたらしい『ミーナご本人』が問い詰めるが、それをどこ吹く風と無視して進むミーナは転がっている石を一つ二つ更に懐に忍ばせると酒場に乗り込んだ。


 いかにも場末の酒場といった様子の店内にはカウンター席といくつかのテーブル席があり、カウンター席の奥では店主らしきジャケットを着た男が使い込まれて少し変色したコップを磨いている。


 早朝なのでガラガラな店内では数人の客が酒を飲んでおり、店主から迷惑そうに睨まれていた。


「マスター。探索の終了した遺構の情報はありますか?」

『えう!? 何事なの!?』


 急なしゃべり方の変更に驚いた『ミーナご本人』は騒いでいるが、外部には何ら影響を与えることなく。

 ぼろを纏ったミーナがお嬢様感のある言葉遣いで、マスター含む酒場にいた人間を驚かせた。

 その懐は先ほど拾った石とナイフで膨らみ、何かを持っていますと言わんばかりな様子になっている。


 その様子はまるで、こっそりとぼろを着て出てきたお金持ちのお嬢様だ。


「少しならあるよ。お代は無事に帰ってきた後で一杯注文してよ」

『お酒はダメ!』


「むぐっ……アルコール以外で頼みますのよ」


「少しならあるよ。香料入りの味付き砂糖水なら」

『ほっ』


『ミーナご本人』の意向を受けてお嬢様の仮面を崩しつつもお酒はやめておいたミーナは、店主の返答に愛想笑いを返すと情報の書かれた紙を受け取り、酒場から立ち去った。


「おい」

「おう」


 酔い潰れていた二人の客達は短い言葉でわかり合い、手早く会計を済ませて足早に立ち去る。


「こんなこともあるよ。探索者は弱肉強食だからね」


 その様子を静かに見送った店主は表情も変えずに感想を呟くと、グラスを磨く作業に戻る。閑散とした店内には黙々とグラスを磨く店主だけが残された。

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