わらべの檻
久住ヒロ
あらすじ ※結末まで記載しています
八津川睦子は幼い娘、紗代子を育てているシングルマザーの小説家である。
分譲団地で新たな生活を始めた睦子は、紗代子がトージくんという空想の友だちと遊ぶようになったのを気にしながらも、仕事が軌道に乗り、運が上向いてきたことを実感していた。そんな中、部屋のオーナーである武藤一家が交通事故で亡くなったという知らせを受ける。
一方、未解決事件を専門に扱う部署――警視庁捜査一課特命捜査対策室第五係に所属する矢上警部補は『松濤事件』の情報提供者、結城と接触する。
松濤事件とは、14年前、高級住宅街・松濤に住んでいた資産家、笹木圭吾が家族ともども殺害された未解決事件。そして結城の証言から、事件現場となった邸宅には被害者一家とは別にもうひとり子どもがいた可能性が浮上する。
子どもの名前はトージくん。矢上は14年前、事故死した刑事からもおなじ名前を聞かされていたことを思い出し、調べ始める。
団地に不穏さを感じ始める睦子。やがて団地から転出した人間が全員、不審な死を遂げていること、団地の子どもたちには全員トージくんが見えていることを知る。
そして団地を束ねる女性、守部に誘われ、睦子は団地内で行われるオリベ祭りに参加させられる。そこで目にしたのは、オリベと呼ばれる存在を称える異様な儀式だった。
矢上は直属の上司、真鶴警部が動きだしていることを知る。卓越した捜査能力を持つ彼女には「この世ならざるものの気配」を感じ取れるという噂があった。
真鶴は、笹木邸には何者かが監禁されており、犯人によって連れ去られた可能性があると考えていた。真鶴の指揮のもと、矢上たちは松濤事件の再捜査に乗り出す。
団地での生活を受け入れようとする睦子だが、団地に住む子どもたちが迎える悲惨な未来を知ってしまう。
さらに紗代子はトージくんに魅入られ、団地の給水塔へと連れ去られる。意を決して、給水塔に忍び込んだ睦子は、給水塔にいたオリベの正体を目の当たりにし、その恐ろしい姿に震える。そこへ現れた守部は当代のオリベがまもなく死に、次のオリベとして紗代子が選ばれたことを話す。
再捜査を始めた矢上は、後輩の岡崎と共に、トージくんの正体を探る。やがて矢上たちは、被害者の笹木一家がオリベ童子と呼ばれる存在を自宅に祀っていたことを知る。
オリベ童子は座敷童のように居ついた家に富をもたらす童子神。トージくんとはこの童子を指し、オリベとは童子を憑依させた人間のことだと突き止める。
その矢先、被疑者として久能早苗という人物が浮上。彼女は被害者の笹木瑞穂がドナーとして骨髄を提供した人物だった。矢上たちは真鶴の命令により、早苗が住む団地の張り込みを開始する。
紗代子を守るため、睦子は団地の住民、芹沢真一が企てるオリベ誘拐計画に協力する。しかし守部に思惑を見抜かれ、団地の周辺に現れた刑事たちの排除を強要されてしまう。追い詰められた睦子は童子の力を借りて、刑事たちの排除を決行。重傷を負わせ、団地に監禁してしまう。
その直後、当代のオリベに異変が生じ、継承の儀を執り行わざるを得なくなる。
矢上たちは団地の内偵を続け、オリベが給水塔に監禁されていると推測するが、その直後、何者かに急襲され、団地に監禁される。
拘束を逃れた矢上はオリベを囲み、儀式を行う者たちに介入。しかし団地の住民たちに取り囲まれ、絶体絶命の危機に陥る。
そこへSITが出動、団地の住民を取り押さえる。さらに現れた真鶴警部は団地内に隠れていた早苗およびオリベを発見、逮捕する。
早苗の正体は殺されたと思われていた笹木家の長女、笹木瑞穂だった。
真鶴警部は瑞穂に警察手帳を示す。
そこには「真鶴紗代子」の名前が記されていた。
――平成初頭。
継承の儀に立ち会った睦子は芹沢と共に紗代子を連れて脱出しようとするが失敗。芹沢が死亡する中、オリベの正体に気づいた睦子はある方法で童子を自分に憑依させる。睦子の意識と一体化した童子の祟りにより、守部を始めとする団地の住民たちは火事に巻き込まれて死亡する。そして睦子は芹沢の協力者だった男性、圭吾に拉致される。幼い紗代子はその場に置き去りにされた。
――令和。
オリベとなった睦子を保護した真鶴紗代子は矢上の立会いのもと、笹木瑞穂を取り調べる。オリベ童子の支配に囚われた笹木邸から逃れるため、自分の家族を殺し、オリベを連れ去った瑞穂。しかし結局、彼女も最後までオリベ童子の支配から逃れることはできなかった。
その後、瑞穂は謎の突然死を遂げる。オリベとなった睦子も息を引き取り、事件の幕は引かれる。
事件の決着がつき、矢上は真鶴と会話する。そこで今回の再捜査はすべて、自らを縛る檻から解放させるためにオリベ童子が仕掛けたのではないかという真鶴の推測を知る。ある予感を抱いた矢上は結城のもとを訪ねる。
そこで矢上は、檻から解放された童子が結城の子どもに憑りついたことを知るのだった。
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