【19話】気持ちを伝えるきっかけ ※ラルフ視点


 冒険者ギルド内に設けられている酒場。

 そこのテーブル席で、ラルフはぐびぐび酒を飲んでいた。

 

「これは驚いたな」

 

 やって来たルークが対面に座る。

 

 ここへ呼んだのはラルフだ。

 相談したいことがあるから来て欲しい、と昨日声をかけた。

 

「来てみたら、お前が酒を飲んでいるんだもんな。しかもこんな大量に」

「そういう気分なんだ」

「そうかそうか。まぁ、そういう時もあるよな!」


 嬉しそうに頷いてから、ルークも酒の入ったジョッキに口をつける。

 一気に飲み干し、「クゥッー!」と声を上げる。

 

「で、相談ってなんだ?」

「その前に言っておかなければいけないことがある。いいか、驚かずに聞いてくれ」

 

 真剣な表情になるラルフ。

 ただならぬ緊張感が、全身から溢れ出ている。


「俺は、ミレアのことが好きなんだ」

「おう、それで?」


 顔色一つ変えず、ルークは平然と先を促してきた。

 

「どうして何も驚かないんだ」


 ルークの反応が、不可解でしょうがない。

 

 ミレアのことが好きと打ち明けたのは、今日が初めてのはず。

 普通なら、もっと驚く場面だろう。

 

 それを見越しての前置きだった。

 それなのに、どうしてそんな反応になるのだろうか。

 

「知っているからに決まってんだろ」

「なぜ知っている。俺はこのことを、誰にも話していないぞ」

「……まさかお前、気づかれていないとでも思っていたのか」

 

 ルークが大きなため息を吐く。

 

「お前が話さなくたってな、そんなものはもうとっくにバレてるぞ。俺だけじゃなく、エリザだって絶対に気づいているはずだ」

「どうしてだ!?」


 クワッと目を見開くラルフ。

 バレた理由に、これっぽちも心当たりがない。


「そんなのは、お前の態度を見れば分かる。ミレアちゃんへ向ける態度は、他の人と全然違っているからな」

「……気づかなかった。驚きだ」

「俺も驚いたよ。気づかれてないと、お前が思っていたことにな」


 ミレアへの好意が、そんなにも漏れていたのだろうか。

 自覚がないとは恐ろしいものだ。

 

「まぁいい。本題に入ろう」

 

 ジョッキに入っている酒を、一気に喉へ流し込む。

 ふーと長く息を吐いてから、ラルフは口を開いた。

 

「ミレアへの想いは日々高まっていくばかりだ」


 見目麗しい容姿。純粋無垢な雰囲気。

 湖でミレアと初めて出会った時から、ラルフは彼女のことが気になっていた。

 

 その気持ちは三か月という歳月の中で、日々成長し続けている。

 今では破裂しそうなくらい、パンパンに膨れていた。

 

「だが、その気持ちをどうすればいいのか分からない」

「そんなの簡単だろ。ミレアちゃんに気持ちをぶつけるんだよ」


 非常にシンプルで分かりやすい、単純明快なルークの答え。

 

(それができれば苦労しないのだがな)

 

 ラルフは首を横に振る。

 

「もし拒否されて、ミレアがいなくなったらと考えると怖いんだ」

「それは大丈夫だろ。ミレアちゃんなら絶対頷いてくれるって」

「どうしてそう言い切れるんだ!」


 少なくとも、ミレアに嫌われているということはないと思う。

 むしろ、好かれていると感じることもある。

 

 しかしミレアのそれが、恋愛感情とは限らない。

 

 気持ちを伝えて、『私、そういう目でラルフ様を見れません』、なんて言われてしまったら立ち直れそうにない。


「お前って、変なところでネガティブだよな。面倒くさいヤツめ」


 再びため息を吐いたルークは、「まぁ、そういうのは嫌いじゃないがな」と言って、豪快な笑い声を上げた。

 

「こういうのは、何かのきっかけがあるとうまくいくもんだ」

「きっかけ?」

「あぁ。二人で特別なことを体験したあとに言うと効果的だ」

「……なるほど。それはいいかもしれないな」


 一理あると思い至ったラルフ。

 きっかけになりそうなものを、頭の中で必死に探す。


「ちなみにこれは俺の実体験でもある。エリザに婚約を申し入れる時は――」

「これだ!」


 勢いよくラルフが立ち上がる。

 きっかけを見つけられたような気がした。

 

「ありがとうルーク。礼を言うぞ!」

 

 早口で礼を言い、ラルフはギルドを飛び出していく。

 おい、待てよ! というルークの声は届いていなかった。

 

 

 家に帰ると、いつものようにミレアが出迎えようとしてくれる。


「ラルフ様、おかえり――」

「ミレア、俺と一緒にパーティーに出てくれないか?」


 おかえりなさい、その言葉の前にラルフは話を切り出した。

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