第30話 迎撃

 冒険者たちの前衛が剣を抜いて前に進み始めたところでいきなり壁沿いの1人の姿が消える。

 テニアスはスケルトンに前進と攻撃を命じた。

 デュラハンは事前に指示した通りの行動を始める。

「え? デュラハン?!」

 冒険者側の後衛から驚愕の声があがった。

 デュラハンは前衛を避けるようにして回りこむと、向かって右端にいる幅広のストールを垂らした者をあっさり斬り倒す。

 その間にスケルトンは前衛2人と接敵していた。

 テニアスを追ってきたパーティはウッドゴーレムを倒したメンバーで構成されている。

 その戦績のおかけでかなりの成長を遂げていた。

 1対1ならスケルトンを余裕で圧倒できるぐらい強くなっている。

 視界ぎりぎりに白く目立つ骨が見えた当初は楽勝だなと考えていた。

 しかし、左端に黒い鎧姿を見て訝ったところから驚きの連続になる。

 右端の戦士が「わっ」という声を残して消えたのと同時にモンスターたちが距離を詰めてきた。

 光の輪の中に黒い鎧姿の上半身が入ってきて首がないことが見て取れる。

 後ろからデュラハンという驚きの声があがって、ベテランの盗賊の目から見ても強敵であることが明らかになった。

 大回りをしたデュラハンが後衛に襲いかかるのを左端の戦士は見送るしかない。

 まずは目の前の骨を片付ける。

 そう決意を固めてスケルトンに斬りかかった。

 しかし、簡単に倒せると考えたスケルトンは想像以上にしぶとい。

 なんとか倒した時には右隣にいたリーダーはさらに右側にいたはずの戦士が消えていたために防戦一方になっていた。

 2対2になればと思ったが、前方から煌めく何が飛んでくる。

 的外れなところを通過したと思った時に魔法の光が消えた。

 最初にデュラハンに倒された神官の手から離れ虚しく地面を照らすカンテラの灯りだけになって戦士たちは急に視覚が制限された状態となる。

 ベテランであれば対応できたかもしれない。

 しかし、この2人はまだその域には達していなかった。

 スケルトンはそもそも目で見て戦ってはいない。

 この差は致命的だった。

 残った前衛2人は格下相手に苦戦をする。

 なんとかスケルトンを倒すが、それまでにも手傷を負っていたリーダーはがっくりと膝をついた。

 前衛が手間取っている間、パーティ後衛の1人の盗賊はデュラハン相手に守りに徹することで致命傷を受けないようにしのいでいる。

 この盗賊は元々は中級者で構成するパーティに所属していたが、親衛隊にベテランの戦士や魔法使いが取られたことであぶれた立場だった。

 攻撃力はそれほど高くないが、今までの経験と実績の積み重ねで身体が強化されている。

 本来ならば戦士でも受けたり躱したりするのが難しいデュラハンの攻撃に耐えていた。

 ただ、それも彼方から飛来したナイフが魔法の灯りを提供していた魔法使いを倒すまでだった。

 デュラハンの長剣が盗賊の体を切断する。

 残された戦士はデュラハンに向き直ることなく前方に向かって駆けだした。

 走る速度の差で逃げ切るつもりである。

 前方にカンテラの灯りが見えエウボニア人の生き残りがいることを悟った。

 奴隷を身代わりにすれば生存の可能性が上がる。

「おい、エウボニア人。命令だ。後ろから来るモンスターを足止めしろ」

 近くに寄って、カンテラを持つ者の他にもう1人いることに気付いた。

 これは好都合、稼げる時間が増える。

 戦士はそう考えると、その2人目は進路を塞ぐように前に出た。

 カンテラの陰になってよく分からないが、その相手の衣装が先にダンジョンに入ったエウボニア人のものとは違うことに気付く。

 戦士は邪魔だとばかりに剣を振り下ろした。

 自分の進路を邪魔するのであればエウボニア人だろうとなかろうと排除すべき敵である。

 テニアスは腕を上げて頭を庇った。

 散々スケルトンと戦って疲労していた戦士の腕の振りは力強さを欠く。

 テニアスの腕は弾いたものの、額をカバーする障壁膜を切り裂くことができない。

 衝撃でテニアスを少し後ずらせるに留まった。

 攻撃が通らなかったことで戦士は実際以上にテニアスを脅威に感じてしまう。

 良く観察すれば衣装に魔法で焦げた部分があることに気付いたはずだ。

 その部分の障壁膜は再生していない。

 そこを攻撃すれば簡単に傷つけることができた。

 それ以外の場所であっても繰り返し攻撃すれば障壁膜を破壊しテニアスを傷つけることが可能である。

 しかし、戦士は反撃をしてこない相手の態度に勝手に余裕を見てとってしまった。

 あえて攻撃を受けてみせたが魔法でいつでも倒せるのだぞ、というデモンストレーションだと判断してしまう。

 実際にはテニアスも手詰まり状態だった。

 エウボニア人パーティの生き残りもナイフを投げてしまって戦士を睨みつけることしかできない。

 テニアスの意図も読みかねていた。

 恐ろしげなモンスターを使役していることから相当な実力を持つ高位の者と知れる。

 見た目は人に酷似しているが、容赦なく冒険者を襲わせたことから人と敵対する存在であることは明らかだった。

 冒険者の間で噂になっているいけ好かない謎の存在であるらしい。

 ただ、なぜかエウボニア人に対しては好意のようなものを抱いているようだが、他の5人のエウボニア人を黒く馬鹿でかい犬が襲うのを止めなかった。

 誤解と逡巡に基づく睨み合いはリーダーを片付けたデュラハンがやってくることにより終わりを告げる。

 戦士は向き直って応戦しようとしたが、斜めにバッサリと斬り下げられた。

 血飛沫が飛び、テニアスと生き残りのエウボニア人にかかる。

 テニアスの方は障壁膜の表面を滑り落ちたが、エウボニア人の方は頬から肩、胸にかけて赤く彩った。

「ひゃあ」

 気の抜けた声を上げてシャーガルが後ろに宙返りをする。

 空を飛びながら腕を振り回した。

「血がかかったらどうすんのよ! 汚いじゃない」

 吸血鬼が聞いたらひと悶着おきそうな文句を言う。

 その声にテニアスはふうと息を吐き出した。

 安堵すると同時に障壁膜を汚した熱い血潮の匂いが鼻を打つ。

 金気交じりのその匂いは決していい香りと感じないはずであった。

 しかし、なぜかテニアスは陶然とした気持ちが湧き上がってくる。

 そして、急激に喉の渇きと空腹を感じた。

 ダンジョンで生活するようになってから1度も覚えなかったものである。

 血が欲しい。

 胸の奥底から湧き上がってくる欲望を打ち消すようにテニアスは強く首を振った。

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