第12話
前回のあらすじ、四天王討伐。
「スズぅううう、それでですね、親分がいうわけですよ!」
なんか気絶する前に格好をつけたが、結局骨は折れていなかったようだった。打撲と捻挫だけで済んだ俺は、町長の屋敷のベッドで休んでいた。
「気合が足りないって、お姉ちゃんあの時カチンと来ましたね!」
ベッドのそばではスズが俺に背を向けるようにし、リリーと向かい合って座っている。延々とリリーが喋り続け、四天王戦の話が終わったと思うと、リリーの盗賊時代の話をし始める。
なんでも、能力が発動した時になんらかの理由で自分が本当にスズの姉だと悟ったようで、孤児院を出て盗賊の一員になったらしい。
「親分を洞窟に連れ込んでボコボコに殴っていたら、スズが兵士を連れてやってきたんですよ。スズは覚えていますか?」
リリーみたいな化け物が捕まったのってそういう経緯だったのか... スズに追い詰められても、リリーなら勝てるのだろうか?
「実を言うと、あの時お姉ちゃんは怖かったんです。スズの物語への好奇心は知っていましたから、お姉ちゃんの方へ、その好奇心を向けているんじゃないかって。それを知るのが... 怖かったんです」
一拍置き、俯かせた顔を上げるリリー。
「でも、お姉ちゃんはちゃんと覚えています。あの時のスズの感情は好奇心でも、憐れみでもなかった。純粋に私の事を心配してくれていたんです!その時、とても嬉しかったんです」
スズはさっきから何も言わない。また一拍置き、喋り出すリリー。
「この事をずっと言いたかったんです。でも、言えなくて...」
言い終わるが早いか、スズはリリーを抱きしめ、背中に手を滑り込ませてしまう。少しすると、リリーは椅子に寄りかかって目を瞑る。
そう、昨日からなぜかリリーの魂の鍵だけを外さなかったスズが、今、鍵を外したのだ。
「ええと、スズ。何というか二人の話を聞いてしまって申し訳ないと言うかその...」
スズは何も言わず、俺が横たわっているベッドのある、壁の方に顔を向ける。
その時、スズの顔が見えた。
両手をお祈りするように組み、目を瞑っているスズ。軽く微笑み、目を開けると... そこにはなじみの好奇心の目が宿っていた。
う、嘘だろスズ... あの話の後でもその表情なのか...
「スズゥ!一旦王都に戻るぞ!!報奨金貰って美味い物でも食おうぜ!!」
ノックすらせずに勢いよく扉を開けて入って来るタイラン。後ろにはメイドが控えていた。
そういえばメイドの兄ってどうなったんだろうか... 多分俺を追いかけて来た奴らの中にいたんだろうけど... あ、タイランが親指立ててこっち見てる、何したんだよ。
「つ、次はどんな物語が待っているか、楽しみですね」
「今回はリリーとへっぽこに全部持ってかれたからな!俺もそろそろ戦いたいぜ!」
結局タイランは一度も戦えず、痺れ薬を受けて、自制心を失って、恥ずかしい所を見せただけか... 全く気にしていないみたいだけれど。
「あの、勇者様達は王都に戻られるんですよね?王都で思いだしたのですが、こんな新聞が出回っていまして...」
メイドに渡されたのは、ついこの間も見たようなただの新聞。上の方には派手に号外と記されている。
な、なんか嫌な予感が...
『四天王の一人目を勇者パーティーが討伐!だがおもらし勇者は少女にボコボコに負ける!?』
「なんっじゃこりゃああああああっっ!!」
新聞を縦に割き、視界にはメイドが映る。
「こ、これは新聞と呼ばれるものでして、情報を拡散させるものです。それが先ほど王都へも運ばれて行きました... どうやら昨日の庭での様子が誰かに見られていたようでして... 申し訳ありません!」
お、俺のイメージが... 四天王の一人を倒せば少しは良くなると思っていたのに、また...
「で、ですがそこには勇者様が特訓されている模様が記されているので、そこまで悪い記事ではないかと...」
「タイトルに悪意がありすぎるだろうが!どこの世界でもマスコミってやつは...!」
騒がしい中、リリーが目を覚ましたのか立ち上がる。
「おはようございます、リリーさん」
スズの目は変わっていない、好奇心の目だった。
スズゥ!リリーにその顔を見せていいのか!いい話が台無しになるぞ!
リリーはスズに目を向けず、タイランの方を見る。
「リリー、終わったし王都に戻ろうぜー」
「ええ、四天王の一人を倒したということで、あの阿呆から金を貰いに行きますよ。へっぽこ勇者も、足が治ったらとっととまた走り込みをしますよ。後、スズ...」
スズの方を見るともじもじし出して...
「あ、ありがとうございます...」
「リリーさん、顔が赤くなっていますよ?」
「な... これは暑いだけです!さあタイラン、へっぽこ勇者!行きますよ!!」
え、えーとつまり... これはどういうことなんでしょう...
ずんずんと部屋から出て行ってしまうリリー、タイランも元気に後をついていく。後に続くスズの顔には、心なしか好奇心の中に、少し嬉しさも混じっているような気もした。
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