第43話 パンダはパンチの始まり




 シムローよりフィクトゥスを受け取った後日。




 俺達はディア教国へと向かう足として、馬車護衛の依頼をギルドに見繕ってもらっていた。

 町と町の間を行き来する馬車護衛の依頼は、毎日冒険者ギルドへひっきりなしに舞い込んでくる。単純に交通量が多いという理由もあるが、もう一つは護衛を専門でやっている傭兵団よりも依頼金が安く済むからだ。


 その為、依頼の斡旋自体はさほど問題にはならない。

 依頼を受注し、移動日となる翌日を迎えた俺達は王都の西部城門前で依頼人と対面した。


「それじゃあよろしくお願いします!」

「よろしくお願いしますぅ~」


 今、俺とアータンの目の前に居るのは一組の男女。


 一人は溌剌とした挨拶をしてくれた女性だ。癖毛で赤みがかった茶髪をポニーテールにまとめる彼女は、鼻と頬に点々と付いたそばかすも相まって、随分と活発そうな印象を受ける。


 そして、もう一人は伸ばし気味な語尾の男性だった。色素の薄い茶髪を指で梳いている彼は、緩い口元と優しそうな眦から、隠しきれぬ好青年オーラがにじみ出ている。


 女性の方はベアティ、男性の方はリキタスと名乗った。

 彼らが今回の馬車護衛を頼んだ依頼人である。


「それじゃあディア教国の聖都まで護衛を務めさせていただきます、ライアーです」

「ア、アータンです! よろしくお願いします!」

「すみませんね、この子緊張してんで」

「むぺっ!?」


 依頼人を前にガチガチに緊張しているアータンのほっぺをモチッと摘まむと、目の前の男女が微笑ましそうな笑い声を漏らす。


「ライアーさんにアータンさんね! それじゃあ聖都まで頼みました!」

「頼みましたぁ~」


 はきはきと喋るベアティに反し、リキタスの方はのんびりと口調を崩さない。

 このように一見対照的な二人ではあるが、彼らの薬指には銀色に輝く指輪が嵌められていた。


「へぇ~! お二人はご結婚されてるんですね!」

「はい! 小さい頃からの幼馴染なんですけれど、この度晴れて……」

「幼馴染!」


 『素敵……!』と瞳を爛々と輝かせながら、アータンとベアティは女子トークを繰り広げている。

 お仕事そっちのけで何をしていると思うかもしれないが、アータンは後衛だから無理に前に出張る必要がない。有事以外は依頼人の傍に居た方が合理的という判断の上でのこの配置だ。


 しかし、こういう時の男の肩身は狭いぜ。

 なあ、リキタスさんよぉ!?


「景色が綺麗だなぁ~」


 あら~、すんごい朗らかな表情でお外眺めてるわぁ~。

 疎外感なんてミドリムシほども感じてなさそうに景色を楽しんでるわぁ~。


 どうやらぼっちなのは俺だけのようだ。ちくしょうめ。


「それでお二人は王都に新婚旅行に?」

「まだ式は挙げていないので婚前旅行ですけど……指輪なんていらないって言ったのに、お父さんが無理やりお金を押し付けて『王都まで行って買ってこい』って」

「素敵なお父さんじゃないですか……娘さん想いで」

「……えへへっ、あたしもそう思います」


 照れるようにベアティははにかむ。

 しかし、王都までの旅費や指輪代を出してくれるとは太っ腹な父親だな。


 俺もちょっと気になってきたな。

 周りに魔物も居ないことだし、俺も会話に参戦することに決めた。


「親父さんは何をしてる人なんだ?」

「お父さんですか? 料理、洗濯……」

「家事親父ってか」


 いや、家の中の話じゃなくって。


「仕事の方は?」

「あっ、そっちですか? うーん、何をしているかと言われると……」

「専業主夫?」

「いえいえ! 男手一つでアタシのことは育ててくれましたけど、しっかり働いてますよ!」

「あら、凄いじゃない」

「ただ色々手広くやってるので……畑で野菜作ってますし、家の建築もしますし。あと時々村の周りの魔物を倒して素材を売ったりも」

「ほとんど何でも屋さんだな」


 ともすれば、ギルドマンくらい手広い職種に手を付けてそうだ。

 それに今の会話で一つ謎も明らかになった。


「魔物を倒すってこたぁ、親父さんは昔冒険者でもしてたのか?」

「冒険者ではないです。お父さんは騎士だったって」

「騎士ぃ? はぁ~、そりゃまた立派な」

「アタシもそう思うんですけどねぇ~。でも、お父さんあんまり昔の話したがらないから……」


 はぁ、とベアティは溜め息を吐く。

 過去を語りたがらない騎士の父親、か。ちょっと聞いただけで俺の中のオタクの血が騒ぎ出しそうになってしまう。

 並々ならぬ過去があったのかもしれない──が、妄想も過ぎれば邪推だ。あまり深堀はしないところで話は留めておこう。


 ところでアータンよ。


「ジー……」


 その視線はなんだい?

 そんなにも熱烈な視線を送られても、俺にはアータンがカワイイということしか分からないぞ? 既知の事実か。


「あっ、ライアーさん! あそこに魔物が!」


 のんびりと馬車の旅を続けていたが、俺達がミレニアム王国では珍しい竹林地帯に差し掛かったところだった。

 馬車から景色を楽しんでいたベアティが、真っ先に何かに気付いたらしき、身を乗り出して指を差してみせる。


 するとそこには、


「あれはもしや……パンダか!?」

「えっ、パンダ?」

「パンダだぞ、アータン!」

「わぁ! 私パンダ初めて見る!」

「俺もだ! すげぇ!」


 大人げなくはしゃぐ俺達の視線の先で笹を食っていたのは……そう、パンダだ。青々しい緑が生える竹林に一ミリも擬態できない黒と白の毛。

 ふてぶてしく地面に居座り笹を貪る姿は、休日にタンクトップとパンツで胡坐をかきながらスルメをしゃぶるおっさんを彷彿とさせる。


 そんなパンダが今目の前に居るのだ!

 ギルシン世界に居るなんて知らなかった俺は、この時完全にテンションが最高潮に至っていた。


 これだから……冒険はやめらんねえんだ!


「へぇー、この辺にパンダなんて居たんだな。初めて知った~!」

「あっ、気を付けてください!」

「大丈夫大丈夫。たかがパンダだろ? フッ……俺を誰だと思ってるんだ? プルガトリア一の勇者ライアーとは俺のこと──」

「あんまり近づくと……!」



「ンダァッ!!?」



「パあああアアアッ!!?」

「ライアーッ!!?」

「肩殴られたぁ!!? え゛っ、なになになになに!!? 怖いんだけど!!?」


 パンダを近くで見ようかなぁ~、なんて近づいたのが浅はかだった。

 おもむろに立ち上がったパンダは全速力でこちらに駆けてくるや、ヤンキーみたいな雄叫びを上げながら肩パンしてきた。超痛ぇんだが?


 肩に走る鈍痛に蹲っている俺にアータンが駆け寄る。

 一方で『あちゃあ』と言わんばかりに呆れているベアティは物知り顔で語り始めた。


「そのパンダは肩撃猫熊カタパンダというれっきとした魔物なんですよ」

「カタパンダ? もしかして肩パンしてくるパンダだからカタパンダ?」

「自分と目が合った生意気そうな生き物相手には肩パンで喧嘩を売り、どっちが上か白黒つけないと気が済まない魔物なんです」

「白黒つけようとすんじゃねえよ、パンダがよぉ……」


「ンダァ!!? ア゛ァ!!?」


 怖ぁ。


 控え目に言って害獣だろ、こいつ。

 何かにつけて叫んでくるが、完全にヤバいタイプのヤンキーみたいな鳴き声している。よく見たら頭頂部の毛もポンパドールみたいになっているし、若さを盾に何でもしていいと思い込んでいる古い時代の不良そのものだよ。


「穏便に済ませるなら元気よく頭を下げて挨拶するのが一番だったんですけれど、もう失礼を買っちゃったので……」

「白黒つけるしか道はねぇと。なるほどな……おらぁ、かかってこいよパンダ畜生がぁ!! 世の中にはカフェオレみたいに白黒つけなくていいこともあるって教えてやらぁ!!」


「ンダァ!!?」


 カタパンダとの激闘は十数分間に及んだ。

 多少喧嘩を齧った動きをしていたが、所詮パンダはパンダだ。人間様の手足の長さを存分に活かしたアウトレンジからの拳で分からせてやった。


 はっはっは、どうだ。これが人間の力よ! 思い知ったか、パンダめ!

 ……それはそれとしてボディー喰らったとこがめっちゃ痛い。


 いいパンチするじゃねえか……。

 俺は尻もちをついているカタパンダの手を取り、立ち上がらせる。


「今度から相手見て喧嘩売れよ」

「ンダッ……ンダョ」

「今『んだよ』っつった? ねえ、今『んだよ』って言わなかった?」

「気の所為じゃない?」

「アータンが言うなら気のせいか……」


 完全に『んだよ』って不貞腐れていた気がするが、アータンの言うことは絶対である。

 深いことは考えず、先へと進む。


 しかしだ。


「あっ、パンダだ」

「またカタパンダか? 先手必勝だ、挨拶してやろうぜ」

「うん、そうだね」


 アータンが道の先に居座るパンダを見つけてしまった為、俺達はそれもう丁寧に腰を折って頭を下げる。

 そして頭を上げればそこには満足げなパンダが……あれ? なんかこっちに近寄ってきてる?


「待ってください! その魔物は違います!」

「ベアティさん? カタパンダなら挨拶すればいいんじゃなかったの?」

「あの芯の通った立ち姿……あれは拳撃猫熊グーパンダです!」

「あいつグーパンしてくんの?」


 肩パンとグーパンの何が違うってんだよ!

 肩パンもグーで殴ってるだろうが!


 そう叫びたかった俺だが、眼前まで歩み寄ってきたグーパンダがカンフー染みた構えを取ったのを見てやめた。

 やべえよ、なんか達人のオーラがプンプン漂ってるよ。


 そんな中、パンダの事情に精通するベアティはこう語った。


「幾たびもの拳闘を通して武の道に目覚めたカタパンダの上位種、それがグーパンダです!」

「格闘家の道に目覚めたヤンキーかよ」

「礼儀を重んじるのでカタパンダのように誰彼構わず喧嘩を売ることはありませんが……」

「ありませんが?」

「相手が試合を申し込んだ時は、それはもう快く引き受けちゃうんです」

「もしかしてさっきのお辞儀、申し込み判定もらっちゃった?」


 真逆の性質持ったパンダ近くに配置してんじゃねえぞ、ボケが。


「……ンダッ」


 心の中で生息分布に悪意を感じていると、構えを取っているグーパンダが指先チョイチョイやって挑発してくる。

 これは『さっさとかかってこい』という意味なのだろう。完全に俺達が試合を申し込んだと思われたようだ。


「仕方ねえ。アータンをパンダ如きと殴り合わせるわけにはいかねえ」

「ライアー……」

「待ってろ──勝ってくる」

「ライアー!」


 信頼を背中で感じながら、俺は竹林という名のリングに上がった。

 戦いを終えたのはおよそ半刻後。

 剣を用いず、拳のみの戦いはいまだかつてないほどに熾烈だった。カタパンダに洗練された技の数々は、学生時代多少武道を齧っていた俺では比べものにならないくらいのパワー、そして鋭さであった。

 真正面から戦っては勝てない。


 ではどうするか?


 全ての動物を比較した時、人間の身体能力はお世辞にも優れているとは言えない。

 しかし、ただ一つ──スタミナという点において、人類は他の動物よりも圧倒的に優れているデータが報告されている。


 すなわち、ド根性だ。


 耐えて、耐えて、耐え抜く。

 何度殴られようとも、不屈の闘志で立ち続ける。そうすると長時間戦闘に慣れていないグーパンダの動きには乱れが出てくる。

 残念だったな、グーパンダ。やっぱ笹食ってるだけじゃスタミナはつかないんだよ。

 かくして俺は長時間の粘りの末、動きに綻びが出てきたグーパンダの顎を打ち抜き……奴の膝を地に着けた。


「アータン……俺は、勝ったぜ……」

「ライアー……」


「ちなみになんですけど、グーパンダは降参したら普通に受け入れてくれますよ」


「この戦いの意味!!」


 俺は今日という日ほど、この拳に虚しさを覚えた日はなかった。

 俺が掴んだ勝利は……栄光は……一体何の価値があったんだ。


「だ、大丈夫だよッ! カッコよかったから! ね!?」


 アータンはこう励ましてくれるが、今はその心遣いが苦しい。

 力とは……なんて虚しいものなのだろう。


「あっ……」


 再び、アータンの足が止まった。

 トボトボと足を進めていた俺も止まり、前を見据える。

 そこに立っていたのは、さらなる白黒の刺客だった。


「あれは……肩パンしてくる方か? グーパンしてくる方か?」


 ここまで二回も道行くパンダに殴られてきただけあって、俺も流石に慎重になる。

 幸いにもここにはベアティという有識者が居る……よくよく聞いたらクマみたいな名前してるな、あの人。


 とにもかくにもパンダ判定は彼女に任せれば間違いない。

 ……なんて思っていたのだが、どうにも彼女の様子がおかしい。何か恐ろしい物でも見たかのように、顔を蒼褪めさせて小刻みに震えている。


「あれはまさか……?」

「あのぉー……ベアティさん。あのパンダは……?」

一撃猫熊ワンパンダです!」

「とうとう一撃で仕留めに来やがったよ」


 グーパン超えてワンパン来ちゃったよ。

 ゲームだったら絶対会心の一撃を繰り出してくる奴じゃん。


 もう殴り合うのは嫌だぁー! と、俺は外聞も恥もなくアータンに縋りついた。

 よしよしと頭を撫でてくれるアータンの眼差しも、悲しいくらいに同情的だ。


 アータン、分かってくれるのかい? パンダと殴り合う恐ろしさが……。


 一方、そんな俺を横目に神妙な面持ちを浮かべていたベアティは、静かに首を横に振った。


「心配する必要はありません。ワンパンダはカタパンダやグーパンダよりも温厚なので、こちらから攻撃しない限り拳を振るうことはありません」

「ほっ。てっきりお辞儀しただけで殴られるかと思ったぜ……」

「そんなむやみやたらに拳を振るうパンダじゃありません。ワンパンダは己が拳で相手の命を殺めてしまったグーパンダが、過ぎた力の虚しさを悟り、戦場から去ったパンチパンダの最上位種ですから」

「試合で相手を殺しちゃった格闘家みてえな悲哀背負いやがって」

「でも普段はその拳を封印してはいますが、むやみやたらと命を奪おうとする存在が現れた時、その拳は天地を割くと言い伝えられています」

「パンダが割くのは竹だけにしとけよぉ……」


 思わず情けない声でツッコんでしまった。

 なんだよ、『天地を割く』って。パンダの説明テキストに入れるべき文言じゃないだろ。


「パンダをなんだと思ってんだよ……」

「ま、まあ力は凄まじいですが何もしなければ大丈夫ですので。このまま通り過ぎましょう」

「はーい……」


 とにもかくにも、ワンパンはされたくないので言われた通り静かに横を通り過ぎる。

 その間、ワンパンダは笹を口に咥えながらこちらを見つめていた。目の周りが黒い所為で瞳の向きが分かりづらいが、それでも見られていると自覚できるくらいには凝視してきていた。


「……」


「「っ!!?」」


 だが、不意にワンパンダが動きを見せたことで、一瞬にして俺達の間に途轍もない緊張感が走った。


「(なんでだ!? 何か今ダメなことしたか!?)」

「(わからない! でもこっちに歩いてきてるよ!?)」

「(あわあわあわあわわわ慌てるのはまだ早い。こういう時はおおお落ち着いてだな)」

「(かつてない動揺!?)」


 パンダとの二連戦ですっかりパンダアレルギーになった俺は、近づいてくるワンパンダ相手に酷く動揺してしまう。


 たぶん、サンディークと戦った時よりも動揺具合は上だ。


 一歩、また一歩とワンパンダが歩み寄って来る。

 残る距離は、あと数メートルといったところだろうか。


「(……命乞いしたら助けてくれねえかな)」

「(完全に心が折れてる!? 諦めないで!!)」

「(パンダ相手に何を諦めなきゃいいんだよ……)」

「(それはそうだけども!!)」


「……」


「ひぃ!? ……あれ?」


 おもむろに腕を伸ばしてくるワンパンダに、アータンが飛び跳ねるように驚いた。

 けれども、ワンパンダが差し出したのは拳などではない。何やら尖った三角錐のような物体……。


「……たけのこ?」

「……」

「く、くれるんですか?」

「……ンダ」

「あ……ありがとうございます!」


 アータンがたけのこを受け取り丁寧にお辞儀すれば、ワンパンダは鬱蒼とした竹林の中へと消えていった。

 竹林の中に響き渡る、笹を踏みしめる足音。

 いつしかそれが聞こえなくなった頃、止まっていた時間が動き出すように、馬車の車輪がカラカラと音を立てながら回り始めた。


 そして、俺達の時間もまた動き出す。


「……たけのこ貰っちゃった」

「あとで食べるか?」

「うん!」


 その日、立ち寄った宿場町でたけのこを調理した。

 久しぶりのたけのこご飯は滅茶苦茶美味しかった。




 ***




 パンダ三連星との出会いから約一か月。

 のんびりとした馬車旅もとうとう終わりを迎えようとしていた。


「あそこがディア教国の! アッシドです!」


 馬車から指を差し、ベアティはそう告げた。

 俺達の目の前に広がる灰色の武骨な印象を与える大都市。あれが旧聖都ドゥウスに代わり、新たな聖都として制定された新聖都ことアッシドだ。


 さて、依頼内容は二人を聖都に送り届けるまで護衛すること。

 聖都に到着したとなれば依頼は完了。名残惜しいがベアティとリキタスの二人とはここでお別れになる。


「ここまでありがとうございました! 少しの間でしたが、お二人と話せて本当に楽しかったです!」

「こちらこそ! ベアティちゃんもリキタスさんも、幸せな結婚生活を送ってください!」

「ありがとう、アータンちゃん!」


 いつの間にかお互い『ちゃん』呼びになっていたアータンとベアティは、涙目で抱きしめ合いながら別れを惜しむ。


「もし機会があればアタシ達の住んでる村まで来てください! 歓迎しますから!」

「うん! 絶対……絶対行くからね!」



「女の子同士の友情……ええわぁ」

「ですねぇ~」



 アータンとベアティが仲良くなった一方で、俺とリキタスだって仲良くなったさ!

 例えば好きな女のタイプ!


 リキタスは『ベアティ以外考えられない』と語っていた。ヒュ~、お熱いね。

 ちなみに貧乳と巨乳、どっちが好きか訊いたら巨乳だとのことだ。惚れている女と性癖はしっかりと切り離すタイプらしい。


 しかし、このように性癖を語り合ったリキタスともお別れだ。


 俺達は仲良く手を繋ぎながら去り行くベアティとリキタスを見送る。


「ずびっ……」

「ハンカチ使うか?」

「ゔんっ……ありがとう」


 ちーんっ! と鼻をかむアータン。

 余程ベアティと仲を深めた彼女は、その寂しさに比例するかのように涙を流していた。


 だが、いつまでも泣いているわけにはいかない。


 そもそも俺達はなぜディア教国まで訪れたのか!?

 そう……アイベルを探す為だ!


「リーン曰く、アイベルはディア教国に訪れていたみたいだが……ま、こういう時はまずギルドに向かうのが鉄板だろ」

「ねえ、ライアー。そう言えば気になってたんだけどさ……」

「ん? どうした……」




「あっちゃ~~~!」




「「?」」


 俺達が会話する横で、乗ってきた馬車の御者を務めていた男性が声を上げた。


「どうすっかなぁ~、これぇ……」

「どうしたんすか?」

「いやぁ~……今馬車ん中整理してたら、こんなもんが出てきてよぉ」

「こんなもん?」


 御者が取り出したのはしっかりとした革が張られたトランクだった。

 断りを入れて開けてみれば、そこには何とも綺麗な布地のドレスが──。


「……これ、ベアティとリキタスのじゃね?」

「……もしかしてウェディングドレス?」

「……」

「……」

「──ヤダァ! お嫁にいけないじゃない!」

「それはそうなんだけどなんで女口調なの?」


 アータンの冷静なツッコミが、俺とアータンと御者しか居ない駅馬車乗り場に響き渡る。




 いや、本当にどうするんだよコレ。




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