:飢餓姉弟
第40話:縄張り拡大・文野綾子視点
杉野勇平君を保護してから4日で母親と、母親と恋人が逮捕されました。
明らかな虐待痕があるのに、全く認めようとしませんでした。
特に恋人の男の方は、知らぬ存ぜぬを押し通しました。
ですが、黒子さんたちが手をまわしたのでしょう、検察と警察の追及は熾烈を極め、こども病院の診断書が有無を言わせない証拠となりました。
更に余罪が徹底的に調べられました。
少しでも長く刑務所に収監されるように、徹底的に調べられました。
同時に、黒子さんたちらしい交渉も行われました。
以前も行われたそうなのですが、杉野勇平君と母親の縁を完全に切るために、親権喪失審判が行われ、認められたのです。
実母の親権に配慮し過ぎた事で、殺された子供が数多くいた事例を、審理する裁判官に訴えたのが利いたのかもしれません。
虐待母の持つ杉野勇平君への親権を喪失させるまでは、完全に安心できませんでしたが、心のつかえが無くなりました。
杉野勇平君を助けるために、黒子さんたちは従妹たちを呼び寄せられましたが、その姿は見分けがつけられないくらい瓜二つです。
間違わないように大きな名札を付けてもらって、ようやく誰だか分かるくらい、瓜二つの顔形をされています。
従妹6人だけでなく、従弟の男性もたくさん手助けに来られたそうです。
当然従妹の兄弟で、里親の手伝いをしているそうですが、会った事はありません。
会うのは太郎さんたちの従兄弟だという大男ばかりです。
「黒子さん、この子たちのご飯をお願い」
黒子さんの従妹の代表は玉藻さんと言う名前の方で、杉野勇平君、谷口香ちゃん、谷口南ちゃんの里親になっています。
毎日子供たちを連れて子ども食堂に来ます。
子供たちの食事を子ども食堂任せにしています。
最初からその心算だったのでしょう、黒子さんたちは喜んで迎えています。
まだ3歳の杉野勇平君には、玉藻さんが食べさせてあげる事が多いです。
単に食べさせるだけでなく、マナーも教えています。
ですが決して急いで教えようとはしていません。
愛情を込めて、ゆっくり時間をかけて教えています。
その愛情は、杉野勇平君だけに注がれていません。
同時に里親になっている、谷口香ちゃん、谷口南ちゃんにも注がれています。
焼きもちや嫉妬を感じないように、同じ愛情を注いでいます。
施設の子供から正式な里子になったのに、杉野勇平君よりも少ない愛情しかもらえないと、ひがむのが当然ですから。
妹の谷口南ちゃんだけでなく、普段は活発で虐待のトラウマなど全く感じさせない谷口香ちゃんまで、赤子に戻ったように甘えるのです。
ですが香ちゃん南ちゃん甘える相手は正式な里親である玉藻さんではありません。
以前一時里親になっていた天子さんに甘えるのです。
家の鈴音のように、全身で甘えられるようになっています。
「天子お母さん食べさせて」
「こら、食べさせてあげるのは小学校に入るまでと言っただろう?」
「でも、でも、でも、南も勇平君も食べさせてもらっているよ」
「2人ともまだ小学校に行っていないだろう。
他の子たちも小学校に入るまでだよ、みんな食べさせてもらっていないだろう」
「今日だけ、今日で最後にするから、お願い、天子お母さん」
「私はみんなのお母さんだから、香だけ依怙贔屓はできないんだ。
その代わり、香が食べるのを見ていてやろう。
膝の上に座らせて、上手に食べられるか見ていてやろう」
「ほんとう、ほんとうにひざのうえにすわらせてくれるの?!」
「ああ、食べさせてはやれないが、膝の上に座らせてはやれるぞ」
「わたしも、わたしもすわりたい!」
「じゃあ香が左で南が右だ、座って食べな」
「「うん!」」
天子さんは女の子座りをして、2人が左右に座れるようにしました。
天子さんたちは虐待された子供や恵まれない子供に食事を与えていますが、それ以上に愛情を与えています。
本当は、もっと細やかにたくさんの愛情を与えたいと思っているはずです。
ですが、天子さんたちに比べて恵まれない子供が多過ぎるのです。
公平に愛情を与える為には、ここまでと決めた限度を作るしかないのです。
「天子お母さん、これ食べさせて」
南ちゃんが天子さんに思い切り甘えています。
来年になったら甘えられなくなるのを、分かっているのかもしれません。
香ちゃんは食べさせてもらうのを諦めて、別の甘え方をしています。
単に膝の上に座るだけでなく、できるだけ天子さんにひっ付いています。
全身で天子さんの愛情を感じたいのでしょう。
天子さんもしかる事無く抱きつかせています。
それに、直接口に食事を運ぶようなお世話はしていませんが、箸の使い方、フォークやナイフの使い方を教えてあげています。
どんな高級店に行っても恥をかかないように、和食のマナーも洋食のマナーも教えてあげています。
そういう私も見よう見まねで、全く知らなかったマナーを覚える事ができました。
高級店に行くような事はないと思いますが、鈴音に教えてあげられます。
鈴音なら、ここで勉強できるなら、将来は高級店に行けるようになるはずです。
ですが、鈴音を頑張らせ過ぎるのは良くないと分かっています。
親の身勝手で押し付けすぎると、それも虐待になってしまいます。
ここに通う親たちが、天子さんたちから厳しく言われる事の1つです。
美味しい食事を何時ものようにお腹一杯頂いて、そのまま残って勉強していると、あっという間に時間が過ぎて行きます。
勉強しているうちに眠くなった鈴音が、私の膝に頭を乗せて眠っています。
私の隣には、同じ様に天子さんの膝に頭を乗せ眠る香ちゃんと南ちゃんが、幸せそうな笑顔を浮かべています。
ここに通う子たちの中には、今だに虐待されていた時の悪夢に苦しんでいる子がいますが、香ちゃんと南ちゃんは苦しまずに眠れているようです。
施設を出て里親に引き取られたら、夜も一緒に寝てもらえるので、安心して眠れるのかもしれません。
「黒子さん、見廻りに行ってきます」
「ああ、頼んだよ」
名前を憶えていない、太郎さんたちの従弟だという男の人が、天子さんに声をかけて勝手口の方に行きました。
「天子さん、見廻りって何ですか?」
子供たちを起こさないように、小さな声で聞きました。
「綾子さんが勇平君を助けてくれただろう。
だがあんなギリギリでは、1つ間違えたら死んでいた。
だから、他にそんな子供がいないか見廻る事にしたんだ」
「見廻るだけで虐待されている子供を見つけられるのですか?」
「男たちだけでは難しいが、番犬を連れて見廻るから、少しの泣き声や血の臭い、哀しい気配も見逃さずに見つけてくれる」
「そうなのですね、それなら安心ですね」
「ただ、近所や柏原市なら番犬だけで見廻っても保健所に通報されないのだが、八尾市だと、ここから少し離れたら保健所に通報されてしまうんだ。
だから八尾市の方を見廻る時は、従弟たちとペアを組ませている」
「私も手伝いましょうか?」
「いいのか、仕事や勉強が忙しいんじゃないのか?」
「番犬たちがリードしてくれるなら、暗記問題を繰り返し頭で思い出しながら、見廻りできますから、大丈夫ですよ」
「そうか、そう言ってくれるなら遠慮せずに頼もう。
少しでも広い範囲を見廻って、虐待されている子を探し出してやりたい」
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