第3話:無能サポーター【ユーリ】
というわけでね。頑張ってさっきの男の子見つけようとしたんですけど、見つかりませんでした!あの一瞬でいったいどこまで行ったのやら。
それとは別でそこら辺にいる通行人にこの世界の話について色々聞いて回った。
まずこの世界は今、魔物を従える【魔王】が出現したことで窮地に追いやられているそうだ。
元々、魔物自体は存在していて、そこまで驚異でもなく簡単に対処出来ていたのだが、魔王が出現したことで魔物の強さが跳ね上がり、簡単には倒せなくなったらしい。
それ故に冒険者という職業の需要が高まり、冒険者になって強さを誇示し、地位を上げようとするヤツらが増えているそうだ。だからこそ、弱いやつを排斥するような実力主義社会になっているのだろう。
確かに弱いやつはいらないもんなぁ。
俺だってそう思うし、命がかかってる仕事で明らかな役立たずが居たらそりゃ追放もやむを得ないよな。
だがしかし!今回の場合は強さに気づけていなかったパターン、もしくは才能が開花しなかったパターンと見た!つまりこのまま既定路線に乗れば彼の才能は開花し、ハーレムパーティーを築き上げるだろう。……だから雑魚である今のうちにあの男の子を確保しなければならないのだ!最悪本当に弱くても、雑用には使えるしな。
……にしても、ホントにいねぇな。
どこ行った?街の外は魔物居るし、少なくとも街の中、それも1人になれるような場所にいると思ったんだがなぁ。
おっ、この路地裏とかありそうじゃね?路地裏の中を覗いてみると、先程の男の子がうずくまって泣いていた。ほらっ!やっぱり居たぞ!
……あ〜でも、見つけたのはいいが、どうやって話しかけようか。第一に彼にとって俺が特別な存在であると認識させる必要がある。上手くできるかは彼のチョロさにかかってるが、なんとかなるだろう。
俺は意を決して彼に話しかけることにした。突然話しかけたことにより、驚いた彼はビクッと震え、涙を浮かべながらこちらを見つめる。
「……はぁ……はぁっ……!」
若干過呼吸になってるので、落ち着いて深呼吸をするように促す。ゆっくりと彼の側に近づいて、背中をさすって安心感を与える。初対面の人間だから逆に恐怖を与えるかもしれないと思ったがどうやら大丈夫だったようだ。
徐々に呼吸が一定のリズムに戻り、落ち着きを取り戻し始める。これでようやく会話出来るくらいまで戻ったかな?よし、攻略を始めよう。
会話の起点として、何故こんなところでうずくまっていたのかについて聞いてみることにする。
すると、少年はポツポツと話し始めた。
話を要約すると、彼の名前は【ユーリ】。
幼なじみと一緒に世界一の冒険者になることを目指して頑張っていたらしいのだが、みんなはメキメキと強くなっていくのに対して、彼はある日を境に成長が止まってしまった。
そしてリーダーである少年はそんな彼を邪魔だと判断したそうだ。日頃から「約立たず」「無能」などと蔑まれていたらしい。
その内、他のメンバーからも疎まれ始め、味方がいなくなり、先程の追放へと繋がったそうだ。
正直聞いた感想としてはお前が弱いのが悪いというものだが、それを口にしたらきっと彼の心に深い傷を刻んでしまうだろう。慰めの言葉は現状回復にはなるが、後々響いてくる恐れがある。
……なら俺がかけるべき言葉は。
「強くなりたいか?」
欲望を刺激する言葉。
彼は今、強さを求めているはずだ。
それに自分の才能の無さを自覚してなお努力し続けたということは世界一の冒険者になるという夢も諦めてはいないはずだ。
彼の目の前に手を差し伸べる。綺麗事を並べ、この手を取れと促す。
そして彼は迷わず、差し出された手を強く握りしめた。
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「ユーリ。お前、このパーティーから追放な。」
「……えっ?」
ダンジョンから無事に帰還して、いつものように酒場で祝杯を上げている最中に僕は突然、リーダーである少年【レオ】に追放を告げられた。
「……な、なんで」
「なんでじゃねぇよ。お前だって分かってんだろ?今回のダンジョン攻略でお前がどれだけお荷物だったか。」
……その言葉に僕は何も言い返せなかった。図星であるからだ。僕の職業は【サポーター】みんなを支援し、力を底上げするというもの。本来ならパーティーにおいて必須級の役割を果たす……本来なら。
「最近ユーリの支援魔法が役に立ったと思うやついるか?お前らどう思う?」
「……正直、少なくともあと3倍は効果が強くないと使い物にならないわ。」
口を開いたのはこのパーティーのメインアタッカーである魔法使いの【アリア】。
「あ、アリア……っ」
「事実でしょ?あの程度の支援魔法なら私にも使えるし、ダンジョンに連れて行っても基本的に守られてばかりじゃない。」
そう、僕の支援魔法は他の人と比べて弱い。昔はみんなの役に立てていた。だけどある日を境に成長がピタリと止まった。それからはみんなとの差が開いていくばかりで、どんなに努力しても差が埋まることは無かった。
「……【ギル】も……そう思ってるの?」
このパーティーのタンクであり、僕の相談によく乗ってくれた【ギル】に対して僕は問いただす。ギルならまだ僕を必要としてくれるんじゃないかって……そんな自分本位な期待を持ってしまう。
「……すまんが、俺もそう思う。」
しかし返ってきたのはそんな期待を打ち砕く予想通りで僕の心を深く抉る答えだった。
「な?分かったろ?お前は誰にも必要とされてねぇんだよ。お前は冒険者に向いてねぇってことだ、もう諦めろよ。」
「……みんなで……世界一の冒険者になるって夢は……?」
声を震わせながら、絞り出すように言った。僕は最後に仲間との思い出にかけた。……だが。
「お前がいたら世界一になんてなれるわけねぇだろ!お前は俺たちのパーティーには要らねぇんだよ!さっさと出ていけ無能!!」
僕を否定する言葉が胸に突き刺さる。その瞬間、グシャッ。と僕の中で何かが壊れた音が聞こえた。
……気づいた時には酒場から飛び出していた。目に涙を浮かべながら1人になれる場所を探してただひたすらに走った。
街の中をしばらく彷徨い、誰にも見つからなさそうな薄暗くジメッとした路地裏に逃げ込んで、地面に座り込んだ。
「……ぅぐっ……ひぐっ……ぉぇっ……」
……吐き気がする。涙が止まらない。寂しい。つらい。苦しい。苦しい。苦しい。苦しい。
頭に浮かぶのは冒険者になりたての頃、仲間と世界一の冒険者になろうと誓った記憶。
その美しい記憶がぐしゃぐしゃにされていく。「無能」「約立たず」「ゴミ」といった言葉によってドス黒く塗りつぶされる。
みんなに追いつくために必死に努力した。でも差は開いていくばかりだった。
僕に少しでも才能があれば、みんなと一緒に笑いあえたのだろうか?そんなもしもがあったのだろうか。……だが現実は無情で、そんな理想とはかけ離れている。
……このまま消えてしまえば、楽なんだろうな……
心が黒へと染まりかけたその時、街の喧騒に混じってコツンと、靴の乾いた音が響いた。音のした方向を見ると、自分より2回りくらい背の高い布の服を身にまとった男がこちらを見ていた。
「大丈夫か?」
「……はぁ……はぁっ……!」
突然話しかけられたことによる不安と焦りで呼吸が早くなっていく。そんな僕を見据えながら彼は徐々にこちらに近づいてくる。何をする気なのか目的が分からず、更に不安を煽られる。
そして彼は僕のそばまで近寄ると、僕と同じ目線にしゃがみこみ、僕の背中をゆっくりとさすり始めた。
「大丈夫。落ち着いて。ゆっくり呼吸して。ゆっくり。」
彼が優しく僕に語りかける。とても暖かくて安心する声が耳へと入ってくる。男の指示に従い、ゆっくりと呼吸することを意識する。すると徐々に苦しさが消えていき、呼吸が正常に戻った。
「……落ち着いた?話せそう?」
「……は、はい」
「それじゃ、質問なんだけど。なんでこんなとこでうずくまってたの?」
「そ、それは……」
説明しようとしたが、苦い記憶が再び脳裏に浮かび、思わず口を噤んでしまう。
「あっ、言いたくないなら言わなくても大丈夫だよ。何かつらそうだし。そこらへんはキミの判断に委ねるよ。」
「………………は、話します。」
なぜかはわからないけどこの人になら言ってもいいんじゃないかと思ったんだ。そして僕は今までのことを話していく。自分のこと、仲間のこと、今までの冒険のこと……そしてつい先程追放されたこと。全てを話し終わると、彼は僕が話している間、閉じていた口を開いた
「なるほど、大体わかった。……それでこれから君はどうしたいの?」
「……え?」
「そんな事があったんだから色々思うとこもあるでしょ。なんで僕だけがこんな目に、とか見捨てた奴らが許せない、とか。」
「……そ、そんなこと……」
否定しようとしたが途中で言い淀んでしまった。思い当たるところはたくさんあったからだ。僕に対しての罵詈雑言が飛ぶたび、仲間との才能の差を痛感するたびに周囲を恨んだ。なんで僕に才能を与えてくれなかったんだと神を恨んだ。そして何もできない自分を恨んだ。
そんな僕を見て彼は更に言葉を続けた。
「否定しないってことは図星ってことだね。あっ、そんなに暗い顔しないでよ、君を責めるつもりはないからね。今から俺がするのは提案だ。」
「……提案?」
僕が聞き返すと彼は笑みを浮かべながら、僕の目の前に手を差し出した。
「強くなりたいか?」
彼の言葉に僕は呆然としてまう。
「きっと君はこの手を掴んでくれると信じている。だって君は夢を諦めていないだろう?」
「……っ!?」
「無能と蔑まれても君は努力をし続けた。それは何故か?夢を諦めたくなかったからだろう?」
「…………」
「俺が手助けをしてやる。その夢を叶えられるくらいお前が強くなれるまで。」
「なんで僕にそこまで……」
「君の夢が美しいと感じた。ただそれだけだよ。」
「もう一度聞く。」
「強くなりたいか?」
…………あぁ、これはきっと僕に与えられた最後のチャンスなのだろう。理由は無いが、そうなのだと本能的に理解した。
だからこそ僕は迷わず、差し出された救いの手を掴んだ。
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