第12話 ツーリング事件


 凛の父清が大樹の母亜美に狂い、それが原因で父清が妻泉と愛人直美とお腹に宿った赤ちゃんまでも殺害してしまったのだろうか?


 そして偶然にも高校生になった清の娘凛と亜美の息子大樹が同じ高校で友達以上恋人未満の関係になった。


 そこには達也という幼馴染の存在が欠かせない。凛は達也をどんな些細な悩み事も聞いてくれてある時は子分でもあり、ある時は用心棒的な存在だった。


 一方の達也はもう遥か彼方幼稚園の頃には、心のどこかに💛ハートマーク的な物がくすぶり続けていたに違いない。何の取り柄もない達也は凛だけが誇りでもあり、宝物でもあった。それはいつの頃からか、形を変え凛と自分は一つとなり、自分の分身に近づくものは何が何でも払い除ければならない。そんな境地に達してしまっていた。


 だから……桐谷正幸が凛の彼氏だと言いふらして、凛に余計な虫が付かないよう防御した。


 ★☆


 田口は凛殺害事件の件で以前取材に行き父の隆から色々聞き出していたが、その時に凛の高校のグループ仲間大樹、翔、舞、美穂と14歳の愛は自転車でツーリングに出掛けた時に男の子に強姦され瀕死の状態に追い込まれた事があったと聞いた。


 この件からでも何か容疑者に繋がる手掛かりが発見されるかもしれないと踏んだ田口は、20年前の事件当初、凛の高校のグループ仲間からすでに聞き出していた。


 まず大樹君はこのように答えてくれた。


「嗚呼……もうこれが最後のツーリングになるかも知れないね。と言って多摩川までツーリングしようという話になったのですが、妹の愛ちゃんがいたので近場で済ませました。八王子市内の「富士森公園」に行きました。スポーツ施設が充実している公園で、緑豊かで広々とした場所で、木々も多く季節豊かな花々も咲いているため、散歩する感覚でサイクリングするのにぴったりなスポットだったのでみんなで決めたのです」


「その時に……愛ちゃんが強姦されたのは本当ですか?」


「大変な事でした。木々も生い茂ってあの時は夏場で人通りもまばらだったので、木々の生い茂った場所に引きずり込まれて、『キャ——ッ!』という悲鳴で一斉に探し回りました。広々していますから……夏場の暑さで朦朧となり発情してしまったのでしょう?」


「それで犯人は誰だったのですか?」


「そこには既に凛ちゃんがいまして……僕と翔が到着して……その後美穂と舞がやって来ました。只々愛ちゃんが泣くばかりで……」


「犯人はグループ内の1人だと聞いたのですが……」


「それは違います」


 確かに大樹と翔ではなかったが、実は犯人は身近にいた。


 ★☆ 


 実は……凛は家では「蚊帳の外」的存在となっていた。それどころか、愛が誕生してからというもの、口には出さずとも態度に【いらない子】という扱いを受ける時が度々あった。


 それでも……発達障害で問題を起こしていたので一時的に凛に愛情が戻って来たかに見えたが、何と愛は「サヴァン症候群」という発達障害の中の天才であった。


 両親もおばあちゃんもテレビに取り上げられるほどの愛が、自慢で自慢で有頂天になっていて凛は血のつながらない邪魔者となってしまった。


 あれだけ優しかったおばあちゃんまでもが、凛には全く関心を示さくなった。


 それはそうだろう。水島家の祖母だから……父隆の母親という事になる。これが母順子のおばあちゃんであれば血の繋がりがあるので、凛も愛も同様に愛してくれる筈だが、ハッキリ言って血が繋がっていない。

 

 こんな事が積み重なり凛は我慢できなくなり、反対に愛が邪魔で憎しみすら感じる今日この頃。


 そこで思い付いたのが、この14歳なったばかりの愛を達也に強姦させて絵を描く気力を奪おうと思い立った。


(私がこんなに勉強でもスポーツでも頑張って、両親やおばあちゃんに以前のように振り向いてもらおうと頑張っているのに、見向きもしないどころか、最近は邪魔者扱い。私だって……昔のように全身全霊で家族の全員から愛されたい)


 急遽変更になって動揺したものの「富士森公園」だったら木々も生い茂っているので尚更好都合だと思った凛は達也に目で合図を送った。


 実は……前夜達也に頼んでおいた。


「ねえ達也お願い!私が家でどんな辛い立場に追いやられていると思っているの。家族全員に邪魔者扱いにされて……あの時は……父から強引に私を奪っておきながら自分の子供が生まれたら、私はいらない子、そんな勝手な話ある?それでも妹の世話を一手に引き受けている私の見方をしてくれる可愛い妹ならこんなこと言わないわよ。宿題は私に丸投げで頭に来ちゃってるって訳!」


「……分かったよ」


 こうして愛強姦事件の幕は切って落とされた。

 凛と達也と愛がサイクリングを楽しんでいる。その時凛が急にスピードを上げ猛スピードで、たちまち消えてしまった。


「凛がいなくなったので愛ちゃん一緒にサイクリングを楽しもうよ。僕の後に付いておいで」


「分かったよ」

 こうして木の生い茂った森の中に連れ込んだ。誰もいないか確認して一気に愛に覆いかぶさり、可哀そうだと思ったが、途中から若い欲望が勝り可哀そうだとか、悪い事だとか、達也には考える力は残されていない。只々欲望が体の中を荒れ狂い一気に押し倒して荒々しく事に及んでしまった。


「わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭ヤメテってば!バカい痛い!キャ—―――ッ―!ヤメテ—―――ッ―!わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」


 全てが終ってハッと我に返った達也は、何という事をしてしまったのかと、改めて自分のしたこの行為に罪悪感と情けなさで一杯で、呆然と立ちすくむだけだった。


「達也兄ちゃんなんか大嫌い顔も見たくない!」


 そう言うと泣きながら駆け足で走り去った。そこに凛がやって来た。


「愛どうしたの?そんな恰好で……」


「達也君が……達也君が……わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」


「分かったわ。私がこっ酷く𠮟ってやるから……ほら……身なりを整えて……それと擦り傷のバンドエイド張ろうね。ほーらもう大丈夫!この事はお父さんとお母さんには内緒ね。あっ!おばあちゃんにもね!」


「でも……でも……痛いし……」


「大丈夫!お姉ちゃんが付いているから!」


 ★☆

 凛は帰ってからも愛に付きっきりだった。処女を奪われた衝撃で余程痛かったのだろう。恐怖で泣き叫んでいる。


 あいにくおばあちゃんと母順子は温泉旅行に出かけて留守だった。凛が母と祖母がいない日を狙って皆にこの日をプッシュしたのだ。


 父は夏休みという事で朝から出掛けていなかったので、この日は気付かれなかった。


 

 そして……翌朝、凛は大学受験で朝から友達と勉強で家にいない。


 それを良い事に、あれだけ凛が口止めしたにも拘らず……余りにも恐怖だったので、愛は父に強姦された事を話してしまった。それは小さいころからの習慣になっていた。怖い事があった時はお父さんに甘える事で恐怖は消えた。

 

 父はたった一人の宝物が、まだ14歳で強姦されて怒り心頭どころの騒ぎではない。犯人を八つ裂きにしてやりたい思いだ。


 この怒りをどこにぶつける事も出来ずに日にちだけが過ぎて行った。それでも……妻たちが帰って来て悲しませては折角の旅行が台無しだと思い、自分の胸三寸に納めようとした。


 只々娘が可愛そうで父は娘の側を片時も離れない。


「愛血は出ないか?」


「大丈夫!それより……あの時は……あの時は……凛姉ちゃんが急にスピードを出していなくなったので……」


「犯人は誰だい?」


 愛は頑なに話さなかった。それは……凛に口止めされていたのもあるが、いつも凛と愛と一緒の達也に愛は秘かに恋をしていた。だから……この事だけは言ってはダメだと直感が働いた。


 だが、発達障害の愛はコミュニケーション能力はゼロだ。凛に不利になるとは分からずにペラペラ状況を話した。


 学校の先生たるもの子供の心理は分かる。凛が何故急にスピードを出していなくなったのか?そして……犯人は達也だという事も薄々感ずいていた。


「愛をそんなにした子は達也君でしょう?」


「違う!違う!」


 達也が犯人だと分かっていても、そこまで言うので怒鳴り込んでもいけない。只娘を傷物にしてくれて、悲しませた憎しみは日に日に倍増して行った。


 あんな温和な達也君がこんな凶暴な事をするとは思えない。あの凛は今までもそうだが、人を悪者にして自分を主人公にしたがる傾向がある事は見抜いていた。

 

 それはどうしてかというと……あの時の絵日記の一件も、隆は目に入れても居たくないたった一人の我が子が、絵日記を隠したことを徹底的に問い詰めていた。


 そんな悪い事を野放しには出来なかったからだ。自分の命より大切なたった一人の我が子が、善悪の判断も付かなくては生きていけないと思って問い質していた。


「絵日記を隠した覚えはない」

 

 ハッキリそう言った愛を信じた。愛を犯人に仕立て上げる。こんな事をいとも容易く出来る凛の事を隆は見抜いていた。それは……そんな事が何度もあったからだ。


 一方の凛にすれば、絵は上手いが会話もままならない愛が、理屈立てて話せるとは思ってもいなかった。


 一方の愛も全く話す気はなかったが、父が余りにもしつこいので仕方なく話した。


 こんな事が度々起こって父は凛を娘として愛せなくなった。


「大切な我が子を傷物にして!」


 凛に対して憎しみが増幅して行った。こうしてあの日欲望の対象として凛を強姦してしまった。

























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