わたしが生涯をかけて学ぶことは、自らの死についてである

 彩瑛さんを亡くしてから、わたしは学校に行っていない。周囲がどうこうではない。わたし自身が学ぶ気力を失くし、生きる意味を見失ってしまったのだ。わたしには彩瑛さんしかなかった。彩瑛さんがいればそれでよかった。

 なのに……彩瑛さんがいなくなっても、わたしは生きている。生き方も死に方も選べず……無為に日々を過ごしていた。もう二週間もすればわたしは十七歳になる。誕生日をキーワードにふと思い出す。


「……手紙」


 一月にもらったお年玉は結局手を付けずにしまい込んでいる。あのお金を用意する時にはもう、春を待たずに命を絶つことを決めていたのだろう。

 封筒から手紙を取り出す。彩瑛さんは書く文字すら綺麗だった。


『愛弥へ


 この手紙を読んでいるということは、私はもうこの世にはいないのでしょう。いたら恥ずかしくて読む前に没収しているから。

 人は死ぬために生きている、私はそう結論付けた。私の人生は私だけのものだから、この結果について愛弥は考え込まないでほしい。愛弥のせいじゃないのは、書かなくても分かると思うけど、念のために書いておく。私がいなくてその利口な頭があまりはたらいていないかもしれないから。

 文章で書くと堅苦しいからボイスメッセージにしようかとも考えたけれど、手紙のようなアナログな媒体の方がいつか劣化して捨ててくれるのではないかと思って手紙にした。デジタルの音声なら一生残ってしまう。残ってしまえば、貴女は私を忘れられない。そうでしょう?

 貴女は優しいから、私のことばかり考えて過ごしていたでしょう。これ以上、貴女の人生に私が介入するわけにはいかないから、貴女の人生を送りなさい。

 誕生日を祝ってあげられないこと、本当に申し訳なく思っている。私の身勝手で貴女に辛く苦しい思いをさせてしまった。けれどいつか、貴女が私を忘れてくれるその日まで貴女の思い出で生きているから。こちらに来ないで頑張りなさい。

 愛弥が私の最初で最後の恋人でよかった』


 支離滅裂だよ……。覚えていてほしいのか忘れてほしいのか分からないよ。ていうか、忘れられるわけないじゃん……。彩瑛さんのせいで、もう女の子しか愛せないだろうし、彩瑛さん以上の人なんていてもわたしを選んでくれっこない……。

 彩瑛さんが抱えている問いに、わたしは結局答えてあげられなかったんだ。わたしが弱いから、彩瑛さんに依存して、彩瑛さんは何かに執着する生き方を拒んだ。そういうこと、なのかな。


「生きるよ……彩瑛さんのためじゃなくて、自分自身のために。死に方はまだ選べないけど……生き方を選んでみせるよ」


 自分が死ぬとき、納得できるよう……生きる。そのためにわたしができることは――――

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