第39話 凱旋し
騎士学校の卒業式典が終わり、配属先が決まった翌日に僕は1人馬に揺られていた。配属となった海洋騎士団は僕の地元であるオーム領にある。偶然か必然か――ともかく1年ぶりに帰る町外の風景は、復興は進んでいるものの、あの最悪の日以降ほぼそのままの姿だった。
「お、騎士様が帰ってきたぞ!」
「よう、久しぶりだな」
「兄さん、それにザンジリさんも」
一年前、町を出た時には大きく見えた門も、この制服を着ていると何だか小さく見える。
僕は馬を降り、皆と再会を喜んだ。
「大きくなったな、バルト」
「本当に立派になったよ」
彼らは絵画でも眺めるようにこちらを見回しながら、口々に成長を褒めてくれた。皆嬉しそうにはしてくれているが、警備隊員にはどこか活気が無い。目の下にはクマができ、笑顔も不自然だ。
「父さんと母さんが待ってるぞ。家に帰ろう」
「う、うん……そうするよ」
愛馬を引き、団欒の実家へと向かう道すがら、兄さんとこれまでのオーム領の様子を教えてもらった。
あの最悪の日――“オームの大災害”が起こった後、オーム領の治安の要である警備隊の隊長と副隊長が前線で戦うも、そのまま行方不明となった。死体も遺品すらも発見されることはなく、死亡判定も警備隊員からの猛反発のおかげで出されることはなく、そのまま1年が経過しようとしていた。日々の復興作業の傍ら、2人の捜索が続けられていたが、結局発見されることはない。
「隊員の中にはもう諦めている者もいる。それが懸命なのだろうが、認めたくない者もいる以上は捜索は続けられるみたいだ」
「そんな、通常の勤務もあるのに……」
僕は口を噤んだ。
助けたい、見つけたいと思う気持ちは僕だって同じだ。でも、1年も見つからなければそれはもう――。
「でも、悪いことだけじゃないぜ」
「そうなの?」
「ああ、お前が帰ってきてくれた」
兄さんの笑顔が夕焼けに照らされる。見えてきた町の東部、僕の実家はほぼ完全な形で元に戻っていた。
「「バルト、おかえり!!」」
久しぶりに感じる両親の温もりは僕の心に温かさを取り戻してくれた。母は半泣き、父に至っては鼻水まで流しているがこの愛情がいい。
「ただいま、父さん、母さん」
「よく頑張ったな」
「今日はパーティよ」
食卓に並べられた魚料理の数々。相も変わらず豪勢で美しい景色だ。
1年ぶりに再会したクラスト家は積もる話も話きれぬまま夜を迎えた。
明日は入団式か――と何も残されていない自室の天井を見上げる。僕が騎士学校で訓練を受けている間に落ち込んだオームの町はここまでの活気を取り戻し、更には「前よりも良く」と皆それぞれの方法で盛り上げようとしている。
「僕も頑張らなくちゃ」
明日への決意と希望を抱きながらゆっくりと目を瞑った。
「いってらっしゃい」
「も、もう行くのか……?」
なぜか父の方が涙脆くなっている。歳のせいだろうか。
「またすぐに帰ってくるよ」
僕は愛馬を引きながら家族の姿が見えなくなるまで手を降り続けた。
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