第4話 意外な一面
「ま、まあそんなに落ち込むことはないよ」
いつもは何事があっても笑い飛ばしてくれる父でさえこの表情。母も母で馬車の外から見える景色を右から左へ受け流すようにして見つめている。
女神の言うプレゼントがコレだったのなら……いやステータスは全て同年代の平均値だったし、普通に考えればプレゼントというのはこのスキル『普通』としか考えられない。
「父さん、母さん本当にごめんね」
「謝ることはないぞ。お前はそれだけ器用だということだ」
「そうよバルト。スキルを授かっただけでも尊いことなんだから」
両親にここまで気を遣われると逆に申し訳なさが募る。
ふと顔を上げ車内を見回すと行きで出会った(というか、一方的に見ていた)竜人族の少女がいないことに気がついた。教会がるのは港町から少し内陸部に入った小さな町だ。滅多に来られない場所だろうから観光でもしているのだろう。
馬車に揺られうとうとと睡魔に襲われかけていた頃、ようやくオームの街に到着した。乗合馬車の集まる広場には留守番をしていた兄の姿が見えた。どうやら迎えにきてくれたらしい。
「お疲れさん」
兄は僕の荷物を持ってくれ、それ以上は何も言わなかった。3人の顔色から吉報か凶報かなんとなく察したのだろう。
それからしばらくはステータスを開いては閉じを繰り返し、その普通すぎる運命に落ち込む日々が続いた。近所に出掛けてはクスクスと笑われる始末。本来ならスキルを与えられたことは名誉であるはずなのに、どうして嘲笑されなくてはならないのか。僕の中にもやもやと感情が渦巻いていた。
我がオーム領では10歳から納税の義務が発生する。だからずっと落ち込んでいるわけにもいかず、漁師である父の手伝いをしながら慣れない仕事もそれなりに頑張っていた。
そんなころ、オームの領主であるピグレット伯爵が何の前触れもなく突然船着場に現れたのだ。当然、漁師たちは大慌てで船小屋に皆を集め領主を歓迎した。
「7日後、インヒター王国の王女シュリア嬢がこの町へ視察に来る」
数秒間が開いた後、一同は悲鳴にも似た驚きの声を上げた。普通ならひと月前から聞いていてもおかしくはない話を数日前の今聞かされたのだから無理もない。
「今から準備なんて……」
「私も先程手紙が来たばかりでな。驚いているところだ」
伯爵も内心大慌てだったようで、威厳も何もない困り顔を浮かべた。
海産物でもてなすにしても大物が釣れる時期ではない。沖に出たとしても釣れる保証は無いし、とても数日では用意ができない。
その日、役職を持つ者と漁師たちは徹夜で作戦会議をしていた。町の母たちは宿屋や食堂と協力しながら今ある食材で何か作れるもの、王女殿下に出せるものはないかと試行錯誤していた。
「ちょっといいか?」
「どうしたの兄さん」
両親が大忙しな夜、僕の部屋にボルト兄さんが神妙な面持ちで入ってきた。兄さんは「ずっと聞けていなかったから」と僕のステータスについて尋ねてきた。正直忘れかけていたことだったけど、兄も兄なりに弟を心配してくれていたようだ。
「ステータスオープン」
*****
名前:バルト・クラスト
年齢:10
レベル:1
腕力:15
器用:15
頑丈:20
俊敏:15
魔力:15
知力:20
運:20
スキル【普通】
*****
「凄いな。こんなスキルは見たことも聞いたこともないよ」
兄さんは分厚い本を取り出すと「これじゃないし、これでもない」と呟きながら何かを探し始めた。僕が不思議そうに見つめているのに気がつくと少々照れ臭そうにその本を見せてくれた。
「これは教会が出している【スキルブック】というやつなんだ」
【スキルブック】とはその名の通り今までに神託の儀を受けた者たちに現れたステータスの中から、他者と被りの少ないスキル、いわばレアスキルをまとめている専門書だそうだ。
何を隠そう兄の趣味はこの本に書かれていないスキルを見つけることだという。
「こんな身近に超レアスキルを持っている人がいるなんてラッキーだよ」
「な、なるほど……」
専門的な用語や早口になるところを見ると、かなりオッタッキーな匂いがしてくる。この世界にオタクなんて言葉は存在しないけど、間違いなく彼はそれだろう。
「そのスキルのことで何かわかったら教えてな!」
そう言うと、兄さんは自分の部屋へと帰っていった。
普通が珍しいのは分かったけど、このスキル本当に使えるのかな。
逆に不安が増すばかりである。
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