第139話 まずは……

「どうぞ、まずは紅茶を」

 第二王子が手ずから淹れてくれた紅茶は美味しかった。

 物凄く緊張はしていたんだけど。

「その、招待した用件なんだけど」

 いきなり第二王子が立ち上がった。

「は、はい?」

「申し訳なかった!」

 流れるような土下座に俺達三人は固まった。


 土下座はもうこの世界で文化として違和感なく馴染んでるの?


「ア、アリファーン殿下?」

 ルーンが目に見えておろおろしだした。

「私が、その、グフルーンからいろいろ君たちの話を聞いていて、父に、こういう二人がいると話してしまったんだ」

 ルーンがびくっとして恐る恐る俺たちの方を見て首を横に振っている。

「父はルヴェールの献上品をお喜びになっていて、凄く気にかけていたみたいで……そのご子息が優秀なのはよいことだと言ってくれて、私はその場で終わったと思っていたんだ」

「喜んでいただき光栄です」

 そういうしかないよね? というかもう頭上げて!

「側近候補とか、そんな話が行ってるとは思わなかった! そもそも、全然三人に利益がない話なのに」

 そうなんだよね。文官を目指していたり、近衛を目指していたりしたら、ありがたい話なんだけど。

 王族の側近は第二王子のために心を砕ける人じゃないとダメだと思うんだよね。

 第二王子のことは多分忠誠心を抱くところまでいかないと思う。俺はガラス工芸作家になる夢は捨てられないから。


「アリファーン殿下、顔を上げてください」

 タビーが焦って声をかける。

 ゆっくりと第二王子は頭を上げる。捨てられた子犬のような目で見るのは反則だ。

 この人、王族なのになんで腰がこんな低いの? もしかしてこっちが素?

「側近は困ります。師匠を通じてお断りの文書をもうお返ししてます」

「ああ、それならよかった」

 床に座り込んでほっとしている第二王子。

「グフルーンが少し羨ましかったのかもしれない。敬ってくれるクラスメイトはいるけれど、私に友人はいないから」

 俺たちは顔を見合わせる。

「ええと、ちょっと誤解があるようなんですが、グフルーン、ルーンとはまだ友達になれるかなチャレンジ中です」

「ええっ」

 ルーン、まだそんな段階なんだよ?

「そうだったのか」

 タビーもしみじみ言わない!

「え、そう、なんだ?」

 きょとんとした顔をする第二王子は王族とはいえ、同じ年ごろの男の子なんだなって思った。食事をした時だって、話題に気をつけてくれたりした。

 第二王子はいい人だとは思う。


「う~ん、アリファーン殿下、商談をしてみませんか?」

「商談?」

「側近はデメリットが大きすぎて却下です。でも友達になれるかなチャレンジは可能です」

「ええっ」

 タビー、わかるけど、ちょっと押さえて。

 まあ、王子と仲良くなったら、結構大変なことになると思う。でも友人居ないし寂しいって思ってる同級生を突き放すのもちょっと違うと思う。

「でもアリファーン殿下の傍にいると危険がありますよね?」

「あ、ああ……身の危険はあると思う。一年に何回かは危ういことはある」

 マジか。王族っていうだけで狙われるのか。そうだな俺だって色眼鏡で見ているし。

「では、危険手当をください」

「はあ?」

 第二王子とタビーとルーンの声が重なった。


「友達といえるほど、傍にいたら嫉妬されると思うんですよ。逆恨みで襲われるかもしれない。下手したら、護衛の代わりをする羽目になるかもしれない。護衛はお給料出るでしょう? お友達だからタダっていうのはちょっとね。側近候補に取り立てるから、力を見せろとか言われてタダ働きも嫌です」

「それって友達じゃなくてもはや護衛か侍従では……?」

 ルーン、それは言っちゃだめ。

「それと、ガラスの研究する時間は確保させてください。それでいいなら、ルーンと同じような付き合いは可能です」

「ガラス……? ああ、ルヴェール家は鏡を献上してたね。自領の特産品を学ぶ姿勢は素晴らしいと思う」

 第二王子凄いな! ナチュラルに誉め言葉を入れてくる。師匠の苦笑いが浮かぶけど。


「タビーとルーンは?」

「私はもともと、同じクラスだし」

「マナーが完璧じゃないのを許してくれるなら、まあいいかな?」

 タビー、いい奴!

「僕、師匠の仕事手伝うの有料だし、師匠が僕の仕事手伝う時はお金とられるし、親しき仲にも礼儀ありっていうし!」

 俺は第二王子に手を差し出して立ち上がってもらう。

「とりあえずお金くださいね!」

「え、あ、ああ?」

 第二王子の顔はキツネにつままれたようだった。


 夜、師匠にまた呼び出された。


「ルオ、何かやったのか?」

「え? お金くださいって第二王子殿下に言ったこと?」

 師匠が頭を抱えた。

「側近は嫌だけど、友達ならいいと言ったとあるが?」

 師匠は手で摘まんでひらひらと手紙を揺らす。

「違うよ? ルーンと同じで友達になれるかなチャレンジだよ? でも、正直危険がいっぱいだと思うから危険手当は欲しいってお話だったんだけど」

「友達はお金をもらってなる物じゃないぞ?」

「僕もそう思う。でも、僕たちには利益がないって第二王子殿下が思ってるから、利益をもらえばいいかなって言ってみたんだ。それに、第二王子殿下はいい人っぽかったからルーンも王族扱いなんだし、同じような付き合い方でいいならって思って」

「いいのか?」

「どのみち、中級魔法のクラスで会うし。お昼くらいは付き合うよ」

「わかった。交渉は任せとけ」

 あ、きっちりお金巻きあげる感じだ。

「師匠! 頼りにしてます!」


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