第20話 ヒマワリ

 行商人がやってきた。

 前回の商人たちはほとんどいなくて、一人だけ、俺がウィスキーグラスを買ったところの商人さんがいた。

 父は商隊の代表と屋敷で挨拶していた。師匠と一緒に。

 師匠と仲のよさそうなところを見たので、信用のおける商人さんたちなのかと思った。師匠によると毎年この時期に来てもらえるそうだ。師匠の成果物を買取するらしい。

「いやー暫くここにいると知れただけで大変助かります」

 にこやかに言っていたのは見た。俺の作った練習ポーションも買取してくれた。代金は父が預かるんだって。ぐぬぬ。だからいくらで売れたかは知らないんだ。


 行商人からの買い物は基本、財布は師匠だった。

 色々見て回ったけど、欲しいものはなかった。帰ろうとしたときに見覚えのある作物を見た。そういえば見たことがない。食べた記憶もない。

 ヒマワリ油ができるはず。と、言うことは!?


「師匠、これ欲しい!」

「は? どうするんだ?」

「食べるの! 決まってるでしょ!」

「毒があるぞ?」

「取り除けばいいはず」

「家畜の飼料用ですよ?」

「大丈夫!」

「仕方ない、ください。どのくらい?」

「あるだけ!」

「え」

「え?」

 師匠と商人の胡乱な目を受けながら三十キロほどのジャガイモを手に入れた!

「まあ、重いし邪魔ですから売れて嬉しいんですけど」

 複雑そうな顔で呟いた商人さんに師匠が頷いていた。あとで、屋敷に運んでくれることになった。


 日光を避けて乾燥した冷暗所の倉庫へ入れてもらった。

 木のすのこの上において麻袋をかぶせて通気性のいいところに置いてもらう。もちろん、一個一個離してだ。前世でいうところのジャガイモ。

「僕、管理する」

 ネリアに頼んで、干し肉ジャーマンポテトを作ってもらった。ベーコンてないのかな? 干し肉でも充分美味しかった! 塩味や油は干し肉だよりだったけどね。塩は貴重品らしい。ちょっと甘みが少ない品種だった。マッシュしてバターとか牛乳であえた方がいいかな? ジャガイモのポタージュでもいいか? あれ? 乳製品てあったかな?

 油であげたらどうなのかな? ヒマワリ油出来るの二か月くらい先なんだけどな。

 ジャーマンポテトを食べた師匠が驚いた眼で見てきた。

「美味い」

「でしょう?」

 俺は満面の笑顔で胸を張った。ネリアにはヒマワリ油が採れたらそれで揚げて欲しい、とお願いしてある。ヒマワリ油ができるのが楽しみだ!


 そして季節は初夏から真夏へと変わっていた。毎日のルーティーンは変わらない。いや、増えたかな? ガラス作りとその道具を作ることが加わった。

 でも、障害がある。

 まず、鍛冶屋がない。

 材料もない。

 予算がない。

 ないない尽くし。

 この工房だって、ほとんど師匠の持ち出しだろうから頼れないし、頼りたくない。

 俺にできる金策はポーション作り。

 だから毎日、薬草をとってきて干して乾いたものを薬草にする。

 それを師匠の用意したポーション瓶に入れて保管。

 その繰り返し。

 ラヴァに頼り切るのも産業を広げようという時に障害になる。

 だから、焚き木も拾う。本当は炭を焼けるといいんだけれど、その技術も炉もない。

 野焼きだといい炭はできないって話だしなあ。そもそも、炭ってどう作るの。

 炉で蒸し焼きにするぐらいしかわからないし、その炉の作り方もわからない。

 ガスや電気の燃料の仕組みは知ってても、作れって無理。

 工房の炉は火を使う材料作りに使うって師匠が教えてくれたからそこで作ってもいいけれど、小さいし、この炉をガラス作り用に変えたいんだよね。吹きガラス方式にしたいからるつぼの作成が第一目標。

 吹く棒もどう作るのかな?

 前途多難だなあ。

 そもそも天職が錬金術師になるかもわからないし、頑張ってるけど、違う職業をもらったら?

 諦めないだろうな。前世でギフトなんてなかったし、それでもできたんだから出来る。きっと。


「鍛冶屋さんてないんだね」

「街に行けばあると思うぞ」

「街」

「近いところは隣の子爵領の領都だな。四日くらいか? ただ、鉄製品は高いぞ」

「お高い」

「剣を買わされそうになってただろう? あの剣、なまくらだったが、吹っ掛けられるくらい、高い」

「鍋も?」

「高いな」

「ううむ。お金稼ぐしかないんだ」

「そうだな。頑張ってポーション作れ。高品質ならぼったくれるぞ」

「ぼったくる」

「当たり前だ。技術を安売りしてはダメだ」

「そっかー」

 対価はちゃんともらうってことか。俺の練習ポーションが売れるのは師匠が錬金術師ギルドに所属してるからだ。所属してないと売ることはできないらしい。


「今日は午後村に行こう」

「村に?」

「ヒマワリが満開だそうだ」

「行く――!」

(行くー!)

 ラヴァが真似して前足をあげる。めっちゃ可愛い。


 屋敷から村への道をてくてく歩く。

 小麦を収穫した後に植えたヒマワリが見えた。前に見た時はまだ蕾だった。

 上から見えても花弁の黄色が鮮やかに見える。

「うわー綺麗!」

 俺の背を完全に埋没させる高さのヒマワリ。師匠も背が高い方なのに大分埋もれている。

 背が高くて花が大きい種類なんだろうな。

 蜂が結構飛び回っててちょっと怖い。でも受粉のためにはいないと困る感じかなあ?

 魔物の蜂もいるから油断できない。

「うひー綺麗だけど、ちょっと離れてるほうが安全かなあ」

 俺の背だと完全に空の上のほうを飛び回ってるから安全といえば安全なんだけど。

「鳥もやってきて種をとろうとするからな。気を付けないと。他にもいい作物があれば植えてみるのもいいかもな」

「ジャガイモ増やしたいな~」

「あれか」

「お酒も造れるのに」

「なに?」

「麦とかでできるなら、イモ類もできると思う。蒸留して寝かせればいいと思う」

「……そうだな。せっかく道具が揃ってるんだ。試してみるか」


 お酒の生産地で有名になったりして……あれ? 師匠目がマジだよ?

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