子爵令息の嫁ぎ先は異世界のようです

あかべこ

第1話

「お前、異世界に嫁ぐ気はあるか」

父が突如そんな事を聞いてきたのは、冬休み休暇の実家でのことだった。

窓の向こうに竜の山脈を背負う父はクズネツォフ子爵家当主らしい威厳とに満ちており、割と真剣に聞いているのだろうと感じられた。

「異世界への婿入りですか……条件によりますかね」

三男坊である僕は女性と結婚して子供を作れば相続争いの種になるので望めないし、婿入り希望の女貴族の取り合いに勝てるような美貌や能力もない。

「相手は異世界にある日本という国の大商店・紅忠の創業者一族の跡取り息子だ。無位無官だが我が家にとって重要な相手だ、悪い話じゃないだろう」

「跡取り息子が男性と結婚するのは面倒では?」

「あちらは違うらしい」

正直に言ってしまえば気乗りはしない。

男が男と結婚することはそう珍しくないがほとんどは相続の問題を回避するための結婚で、跡取り息子が男と結婚することは稀だ。

どうせ俺を婿に取るのは俺自身ではなくクズネツォフ子爵家やこの世界とつながるための政略結婚。

貴族が愛のある結婚なんて出来るはずもないが、そのためだけに友人知人の無い異世界へ嫁ぐのは少々恐ろしい。

「ただ、お前もいきなり異世界へ婿入りは出来んだろう。今回は見合い……結婚して良いかどうかを知るための面談の話だ。一度会ってみて相性が悪ければ断ってもいいとも言われている」

そう言われれば話は別だ。

ただちょっと人と会って異世界を満喫する。それだけならば決して話ではない。

「なら、会ってみたいです」

「いいのか?」

「どうせ三男坊ですから男との結婚は既定路線でしょう?国内でも国外でも異世界でも一緒です」

少しひねたような言い回しで父にそう告げると「ならそう返事をしておこう」と答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る