平常 6
「これまた、かなり綺麗な色をしたお酒だねぇ」
おばちゃんがグラスを持ち上げ。
ギルドの壁に設置された、魔光灯の明かりに照らし。
中のお酒を透かす様にしてそれを眺める。
前世のものに比べれば、ガラス自体に不純物も多く透明度も低い。
酒の持つポテンシャルをフルに発揮しているとは言えない状態ではありつつも。
確かに、透き通った綺麗な色をしている。
清酒の様なものとはまた違うのだが。
白ワインとか。
そっちの色に近いかも知れない。
透明度が高く、薄く黄色味がかった美しいお酒である。
自然と感じる、香りの方も。
焼いた果実のような匂いが鼻腔をくすぐる。
実に期待感を煽ってくるお酒だ。
焼きたてのフルーツの入ったパイとか。
それに近いだろうか?
芳ばしい香りが食欲を刺激してくる。
一口。
あーなるほど、こういうお酒か。
まず感じるものとしては、この世界の物にしては甘味が強め。
砂糖とかも高いから。
おそらく、果物本来の甘みなのだろう。
そして。
飲む以前から感じていた芳ばしい香りが鼻を抜ける。
アルコールは弱めで。
ごくごくいけてしまいそうなタイプ。
と言うか、飲む前から薄々感じてはいたが。
りんごに近い様な味がする気がする。
この芳ばしさとか、もろ焼いたりんごの香りだし。
パイのイメージが出て来たのも。
多分、りんごパイ影響が強いと思われる。
りんごのお酒。
正確には、りんごに似た酸味強めの果物の酒である。
シードルとは違うのだろうか?
似ている様な気もするが。
シードルって確か発泡していた記憶がある。
それはあまり感じない。
俺の記憶があやふやなのは周知の事実なので。
別に自信はないのだけど。
まぁ、どっちでもいいちゃいいか。
そもそも、異世界だしね。
前世に似た酒があったなんて、本来どうでも良くて。
本来気にするべきは、美味いか美味くないか。
それだけである。
この酒、魚介とかと合いそうだし。
港町行く時持ってくか。
大将に飲ませて。
これに合う料理出してもらおうかな。
「おばちゃん、どう?」
「美味しい酒だね。これで安酒なんだろう」
「だね」
「こっちの街でも取り扱って欲しいねぇ」
良かった。
結構、気に入ってくれたらしい。
「同じ味とはいかないだろうが、探せば似た様なのなら見つかりそうだけど」
「それがこの街の酒屋、量はあるんだけどレパートリーがね」
「まぁ、同じお酒飲む人多いもんな。一度取り扱わなくなったら触れる機会も無いし好きになる人も居ないからそのまま……」
「そうなんだよねぇ」
「ちょくちょく王都行くだろうから、その時また買ってくるよ」
「いいのかい?」
「そんな高いお酒でもないし、ちょっと荷物が増える程度の差だから」
次は、これまた綺麗な色をしている。
同系統の。
たださっきより濃いだろうか?
色だけで言えば。
宝石のシトリンなんかによく似ている。
香りは……、なるほどこれは梨っぽいな。
似たような果実を見た覚えはないが。
鮭と同じ。
おそらく全く別の見た目で似た様な香りの果物があるのだろう。
色といい、ポワレってやつなのだろうか。
一口飲んでみると、味も予想通りのポワレに近い。
さっきのお酒はシードルとの差を感じたが。
これはそのものって感じ。
少し発泡していて、さわやかでフルーティーな香りが鼻に広がり。
味としては非常にあっさりとしている。
「これおかわりください」
「はいよ」
受付嬢はこの酒がお気に入りらしい。
にしても、躊躇なく飲んで。
その上でおかわりとか。
本当、とてもじゃ無いが仕事中とは思えないな。
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