清算 4
かなりの後悔が……
まぁ、今更言っても仕方ないんだけど。
もう手遅れだし。
こんなの言い訳にしかならないが、こうも早く助けが来るとは思って無かったのだ。
もちろん。
見捨てられるなんてことは考えて無かったけど。
ノアの目の前で捕まった訳だし、助けに来てくれるとは思っていた。
ただ、それにも時間がかかるだろうから。
学園の講師で。
Aランク冒険者で。
色々と出来そうな身分ではありつつ、捕まった人間を簡単に解放させられる程権力があるとも思えない。
絶妙な地位。
助けが来るまでの間拷問を受け続けるってのは流石に勘弁して欲しいし。
自力でどうにかしようと、その結果がこの有様である。
でも、ノアではなく女教師の方が助けに来てくれるとは……
想定外。
それもこんな強権まで使って。
確かに、貴族ならそこら変融通聞きそうではあるが。
元同級生とはいえ。
何十年も前のクラスメイトの為にここまでする理由も無いし。
多分、ノアが頼み込んでくれたんだろうな。
一刻も早く助けたいと。
なんか想像出来てしまう。
……
これは自意識過剰ではないと信じたい所。
同僚だもんな。
使える手段があるなら。
そりゃ縋るか。
しかし、講師始めて数ヶ月しか経ってないのに。
流石だな。
生徒とも教師ともそれなり以上の信頼関係を構築できてるらしい。
おそらく、荒事も視野に入れてたんだろうな。
あんな書類持って来てるぐらいだし。
本部の兵士を引き連れて。
顔も険しかったから。
いくら頼まれたからとは言え、そこまでしてくれるんかって感じだが。
ノアの事ちょっと狙ってたりしたらしいし。
自分の性欲には素直って事で。
いや、邪推だけど。
悪いことでも無いしな。
すんなり通されたせいか、かなり拍子抜けしてた様子だった。
「……ごめんな、さい」
計画とか言って。
適当な行動したのを後悔して。
現実逃避気味に余計な思考をしていた所。
声が聞こえた。
中に入ってった彼女の声。
拷問部屋だ。
防音はそれなりにしっかりしているはず。
四方を石の壁に囲まれてるし。
扉も結構頑丈そう。
でも、俺チートボディーだからね。
耳もそれ仕様なのだ。
周りには聞こえてないのだろう。
別に盗み聞きするつもりは無かったのだが。
ってか、周りも悪い。
護衛を置いていくという突然の行動、どう対応していいか困るのも分かる。
立場的に。
勝手に動けないのも想像は出来る。
だからなのかただ眺めてるだけ。
集まってる人数の割に、ここやけに静かなのだ。
だから、音を拾った。
一度気にしてしまうと、よりハッキリ聞こえてしまう物で。
「冤罪、そうと分かっていたのに。前のことがずっと心残りで。今度こそはと。でも、間に合わなかった。しかも、本当に取り返しがつかない。こんな形で……」
聞こえてくる声は途切れ途切れ。
俺の耳のせいってより、発信源のせいだな。
声が震えている。
元々が流暢な発言ではないのだろう。
にしても、これは……
ちょっと誤解していかもしれない。
てっきり。
ノアに頼み込まれて助けに来たもんだと思っていたのだが。
俺のことをそれなり以上に気に掛けてくれていたらしい。
助けに来たのも。
多分、ノアがいなくても来てたんじゃないかって。
それぐらいのレベルだ。
闘技場で俺に話しかけて来たのも。
そういうことなのだろう。
何十年も前の話なのに、心に深く残っていた。
ってか、そうか。
そうでもないと当時のクラスメイトとか。
顔見ても分かる訳ないか。
仮に、多少面影が残ってたにしても。
ずっと気にしていたから。
自信がなくても。
もしかしてと思って、それだけで声を掛けた。
俺の退学なんて誰も気にしていないと思っていたんだけどなぁ。
担任の話もそうだが。
想像以上。
適当に決めた退学が周囲にかなり影響を与えていたらしい。
ナンパだなんだと勘繰ってしまった。
失礼な話である。
そもそも、委員長なんてやってたぐらいだもんな。
学園での話だ。
前世の学校での立場とは違う。
雑用を押し付けられるとか。
そんな立場ではない。
家の地位だって必要になるぐらい、名誉の伴う物。
それでも面倒ではある。
彼女は昔からそういう子なのだ。
これとは別にビッチだったってだけで。
彼女が1人で部屋に押し入ってしばしの時間が経った。
徐々に周りがザワザワし始める。
扉の向こうの声は俺以外には聞こえてない訳で。
護衛対象が拷問部屋に入って、そのまま出てこないって状況。
焦り始めでもしたのか。
かといって勝手に部屋に押し入る勇気もないと。
情けない。
まぁ、雇われ側だからね。
仕方ないか。
無理やり書類書かせるぐらいだ。
そこ相手に、そりゃ無茶を言うなってものだろうね。
こっちから何も話していないのだ。
死んでることは知らない。
おそらく、暴動の容疑者が拘束されてると思っているのだろう。
この中で2人っきり。
そのまま出てこなかったら確かに心配はするか。
しかし、いい加減1人が痺れを切らしたらしい。
後方にいた兵士が動いた。
周りを掻き分け、扉に手をかける。
止められてはいたが、止まるつもりはなさそうだ。
雰囲気が違う。
他とは立場が別なのかも。
鎧は同じだが、この兵士だけフルフェイスの兜をかぶってるし。
もしかして、女教師の子飼いだろうか?
なら、ご主人の危機を無視する訳にもいくまい。
周囲を押し除けてドアを開けた。
あーあ、見られちゃったよ。
例の死体。
これ、こっからどうすればいいんかね。
作戦も何も。
全部めちゃくちゃである。
死体の横に座り込んでる女教師。
顔は見えない。
後ろ姿だし。
でも、感情ぐらい予想がつく。
さっきの呟きから見て、色々引きずっていたのに。
それが再会して。
彼女から見れば多小見窄らしかったのかもしれないが。
元気にやってるのは分かって。
体を重ねるのも。
多分、未練を断ち切ろうとしていたのだろう。
なのに……
またトラウマを刺激する形で消えてしまった。
まぁ、あれだ。
とりあえず死体の偽装はバレてないらしいし。
魔法の腕は健在だな。
現実逃避?
それ以外にする事あるのか?
現実から目を逸らしていた所に、突然魔力がうねった。
フィオナではない。
兵士、例のフルフェイスの仕業である。
当然知らない相手のはずだが。
何故だろう。
この魔力、どこか身に覚えがある様な……
考える時間もなく、兵士が地面を蹴った。
俺の方に来るかと身構えたが。
そのまま、横を通り抜け後方に突っ込む。
振り返ると。
あっ、
隊長の首が宙を舞っていた。
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