第17話 一緒に夕食を
スーパーに七瀬と行って帰ってきた後、彼女は夕飯を作ろうとする俺に声をかけてきた。
「夕飯、作りましょうか?」
「えっ?」
「リクエストがあれば作りますよ」
(な、七瀬の料理が冬休みでも食べられる!)
お願いしたいが、悪い気がして大丈夫と言って断ろうとしたが、彼女がこれとかどうです?と問いかけるような表情をしてクリームシチューの写真をスマホで見せてきた。
「お、美味しそう……」
見て食べてたくなってきた俺は、心の声が漏れてしまった。心の声を聞いた七瀬は、パッと表情が明るくなり、俺がいるキッチンの方へやって来た。
「作りましょうか?」
2度目の言葉。さっきとは違う。遠慮より食べたい気持ちが勝ってしまった。
「お願いします」
「はい、任されました」
せっかくだし、ただ七瀬が作っているのを待つのではなく作り方を見て次は1人で作れるようにしよう。
「では、食材借りますね」
「……七瀬の分も作ってここで食べていったらどうだ?」
帰っても1人ですしという七瀬の言葉を聞いて俺は彼女にそう言った。
「よろしいのですか?」
「1人で食べるより2人の方がいいかなと……」
「……はい、では、一緒に。食───」
「食費はいい。いつもお弁当を作ってくれているお礼だと思ってくれ」
「わかりました。2人分作りますね」
彼女はそう言ってクリームシチューを2人分作り始めた。
「近くで見ていてもいいか?」
何も言わず彼女の料理姿を見るのはよくない気がして彼女に尋ねた。
「いいですけど、まさか私のクリームシチューのレシピを盗むつもりですか?」
(えっ……)
「いや、そんなつもりは────」
「冗談です。秘伝のレシピとかではありませんので見てもいいですよ」
七瀬が冗談を言うタイプには見えないので俺はわけがわからず呆然としてしまった。
「もしよろしければ作り方を教えながらやりましょうか?」
俺がただ見ているだけではなくやり方が知りたいと顔に出ていたらしく七瀬からそう提案を受けた。
「うん、お願いします」
そして始まったクリームシチュー作り。俺は邪魔にならないようにしながら作り方を見ていた。
「ご飯は……炊けているようですね」
数時間前から炊き始めていたものを七瀬は見てふふっと小さく笑った。
「立川くんは、ご飯を炊くプロですね」
「それ、何か嬉しくないな……」
ご飯を炊くなんてやり方さえ覚えれば誰でもできる。プロと言われましても……。
作り方を見ていたが、ふと彼女のことを見ると楽しそうに料理をしていることに気付いた。
俺の場合、作るのに必死で料理を楽しくなんてできやしないが、彼女は楽しそうに作っている。
「……料理好きなんだな」
「何か言いましたか?」
俺の呟きは彼女の耳には入らなかったようだ。別にもう一度言う必要もないので首を横に振る。
「いや、何にも。七瀬が料理してるところ好きだなって思っただけ」
思ったことをそのまま口にすると七瀬の顔が真っ赤になっていた。
「……あ、ありがとうございます。料理しているところが似合うということでしょうか?」
「まぁ、そうだな」
あれ、もしかして好きとか言ったからこんな反応をさせてしまったのだろうか。
けど、これは告白的な意味ではないので俺は彼女を困らせるようなことは言っていないはずだ。
「見ているだけではつまらないと思いますので、立川くんのこと何か聞いてもいいですか?」
「俺のこと? 答えられる範囲であればいいよ」
「では、誕生日を教えてほしいです。友達ですからお祝いしたいです」
誕生日、そう言えば教えてなかったし、俺も七瀬に聞いたことがなかった。
「誕生日は、10月2日。七瀬は?」
「10月……過ぎてますね。お祝いできなくて残念です」
もっと早くに知っておけば良かったみたいな反応をされるが、七瀬とはその時、まだ友達といえる関係ではなかったため知らないのはおかしなことではない。
「私は、3月3日です。雛祭りですね」
後、数ヵ月か。七瀬の誕生日は、過ぎていないから祝えるな。
「3月3日な。覚えとく」
「私も覚えておきますね。次は、じゃがいもとにんじんに火が通ったら、牛乳、コンソメ顆粒を加えて混ぜます。その次は弱火で3分程煮込みます」
誕生日の会話からの急な調理方法。そうだ、七瀬との会話に夢中になって作り方覚えるの忘れそうになっていた。
「聞くだけは覚えられないと思いますので後で手順をメールで送りますね」
「ありがとう」
「さて、誕生日の次は……そう言えば、立川くんにご兄弟はいますか?」
「そうだな……いると思うか?」
普通に答えては面白くない気がして俺は彼女に問うことにした。
「そうですね……立川くんは、優しく接してくれるので弟か妹さんがいそうです。お兄ちゃん感があります」
そうか、俺はお兄ちゃん感があるのか。晴斗や千夏にも言われたことがある。
「そう思うのは多分いとこの世話をよくやってたからかな。弟も妹もいないよ。俺は───」
「ま、待ってください。当てますから」
彼女は、俺が答えを言うところで言葉を遮った。
「弟も妹もいない。でしたら残る選択肢は、姉か兄か……あっ、もしかして私と同じで一人っ子ですか?」
わかったのか彼女は、表情がパッと明るくなった。
「正解、一人っ子だよ。七瀬も一人っ子なんだな」
「えぇ、一人っ子ですが、妹か弟がいる方に憧れます。お姉さんと呼ばれてみたいです」
七瀬の発言に俺は少し考えてからあることを思いついた。
「七瀬、それなら────」
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