第9話 一緒に勉強

 11月下旬。12月に入れば2学期期末考査が始まる。そろそろ勉強しないといけないことがわかっていても中々勉強を始める気にならない。


 そんなやる気がでない俺にやる気を出させてくれたのが聖女様だ。あれは昨日、一緒に帰った時。


「テスト2週間前ですが、立川くん。勉強の方どうですか?」

「まだ何も。課題もやってないし、そろそろやらないとなって思ってた頃だ」

「そうですか。まだ2週間前ですし、今から頑張ることは可能です。ところで提案なのですが、一緒に私と勉強しませんか?」


 2週間もあれば大丈夫と言われたような気がしてまだいいやと思い始めていた俺を彼女は勉強をしないかと誘ってくれた。


「一緒に?」

「はい、学校の図書室とかで。考査一週間前になると教室での勉強も可能ですよ。どうですか?」


 七瀬と勉強会……。彼女は、学年1位でどの教科も上位にいる。そんな彼女と勉強できるって中々ない機会だ。


 それに一度でいいからいつもより勉強を頑張ってみたい気持ちもある。


「うん、一緒にやろうか」

「では、決まりです」


 彼女はそう言ってニコニコと嬉しそうな表情をする。


「場所は図書室にしましょうか。いつも早くホームルームが終わった人が廊下で待っていますが、テスト期間中は図書室集合です」


 テスト期間中ってことは明日から毎日やるってことだよな。嫌ってことはないが、そんなことを今までしたことがないのでやっていけるか自信がない。


「ちなみに立川くんは、順位はどのくらいですか? 言いたくなければ言わなくても結構ですけど……」

「俺は、30位くらいかな。この前のテストもそうだったし」

「凄いですね。得意科目、苦手科目はありますか? もし、一緒に勉強するのであれば教えようかと思ってるのですが……」

「えっ、教えてくれるのか?」

「もちろんです」


 得意科目は数学と日本史。苦手科目は英語だ。それを伝えると彼女はわかりましたと言って何やらスマホのメモアプリで書き込んでいた。


「理系なんですか?」

「いや、それが理系か文系かどちらが得意かわからないんだよ……。七瀬は?」

「私は、文系ですね。国語と英語は得意なので」

「そうなんだ」  


 七瀬の場合、文系も理系も得意そうに見える。俺の場合、得意な科目と苦手科目の点数の差が激しいからな。


「では、また明日」

「うん、また」




***



「弘輝、噂されてるよ」


 翌日。学校へ行くと俺の席に千夏が来て話しかけてきた。


 噂というのはおそらく前からされている俺と七瀬のことだろう。


「知ってる。言っておくが、付き合ってない。ほんとだからな?」

「わかってるよ、全く疑ってないし。ところでさ今回のテストもみんなで勉強会やる?」


 この前の中間考査では考査1週間前から放課後、教室で千夏と晴斗で勉強会をしていた。だから今回もやろうということだろう。


「あぁ、ごめん。七瀬と図書室でやるつもりなんだよ」

「えぇ~なにそれ、ずるい! 私も参加……いや、明日から参加してもいいかな?」

「俺はいいけど七瀬に聞いてからな」

「わかった。その時は、晴斗もいいよね?」

「うん、その時はな」


 七瀬が騒がしいのが嫌ならそのまま2人で。もし、彼女がいいと言うなら4人で。


 個人的には七瀬と二人っきりがいい。これは、決して彼女を独占したいとかではない。ただ単に千夏と晴斗がいたら目の前でイチャイチャされて集中できないからだ。


 見せつけてるわけではないそうだが、気が散る。やるなら他でやってほしいものだ。




──────放課後




 ホームルームが終わり、今日は廊下での集合ではないので図書室へ向かう。


 4組を覗いたが、七瀬はいなかったので、先に行ったんだなと思い、教室の前を通りすぎる。


 図書室に着くと扉をゆっくりと開けて中に入り、奥の方へ進むと七瀬らしき後ろ姿を見つけた。


「七瀬、お待たせ」


 後ろから小声でそう声をかけると彼女は後ろを振り向いた。


「立川くん。今日は一緒にお昼、食べられなくてすみません。クラスメイトに誘われまして」


 ここ最近はいつも一緒に食べていたが、今日は千夏と晴斗の3人で食べていた。千夏が七瀬が来ないことに心配して騒がしかった。


 七瀬が来ない理由は、急に予定が入ったとか、クラスの人達に誘われて、ということだろうとは思っていた。急に誘われたら俺達に食べれないとは言えない。


「いや、謝らなくても。七瀬は、七瀬が一緒に食べたいと思う人と食べればいいんだから」


 彼女は心許せる相手を作りたいと言っていた。それは俺や千夏、晴斗じゃなくてもいい。


「はい……隣に座りますか?」


 彼女にそう聞かれ、俺は目の前に座った方がいいかなと思ったが、前に向い合わせだと緊張すると言っていた気がして隣に座る方がいいのかなとも思った。


「隣、いいか?」

「えぇ、どうぞ」


 彼女は嬉しそうに隣にあるイスを引いてくれた。


「ありがとう。そう言えば明日は、千夏と晴斗も一緒にいいか?」 


「……実は、明日はクラスの方達と勉強会の予定で。一緒にやると言っといて伝えることを忘れていてすみません」

「そうなんだ。じゃあ、別の日ならいいか?」

「えぇ、明日以外なら。4人でやりましょう」


 千夏、良かったな。明日は無理だが、一緒に勉強することになったぞ。後でメールで伝えておこう。


 今日しようとしているのは英語の課題。習ったらすぐにやればいいものの俺は今日までずっとやらずに溜めてしまった。


(さて、家に帰ってもやらない気がするしここでやるか)







        

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