第6話 シェア

 放課後、今日は晴斗と千夏は2人で帰るらしく俺は1人で帰ることに。


 家に帰ってからまた家を出てスーパーに行くのもめんどうだし、寄ってから帰ろう。


「ねぇ、帰りにクレープ食べに行こうよ」

「うん、いこいこ」


 教室を出ようとするとクラスメイトのそんな会話が聞こえてきた。


(そう言えば、七瀬、放課後に寄り道がしたいとか言ってたな……)


 教室を出て彼女がいるクラスの前を通りかかる。七瀬がいるか何となく気になり、4組の教室を覗いた。


「七瀬さん、バイバイ」

「はい、また明日です」


 クラスメイトに向かって天使のような笑顔で手を振る七瀬。先ほどの彼女は俺と話している時とは違う雰囲気な気がする。


 彼女も今から帰るようで椅子から立ち上がり、カバンを持つ。すると、彼女は俺が出入口のところで突っ立っているのを見つけ、カバンを持ってこちらに駆け寄ってきた。


「どうされました?」


 少し嬉しそうな表情で話しかけてきた七瀬には悪いが俺は特に用があったわけではない。


「友達に会いに来たのですか?」

「まぁ、うん。七瀬いるかなって……」

「わ、私ですか?」


 彼女は顔を真っ赤にして自分のことを人差し指で指したので俺はコクりと頷く。すると、七瀬の表情がパッと明るくなった。


 七瀬って表情がコロコロ変わるから面白いな。こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど。


「な、何の用でしょうか? お弁当のリクエストですか? それともまた夕食のおかずを分けて欲しいと頼みに来たのですか?」


 料理のことばかりな気がするが、どれも頼まれたいことなのだろうか。


「いや、前に七瀬が放課後に寄り道したいって言ってたの思い出してさ……俺、今日はバイトないから一緒に寄り道しないか?」


 断られるかもしれないが、勇気を出して誘ってみた。すると、彼女は、ニコッと笑った。


「寄り道したいです! どこに行きますか?」


 彼女は周りの目も気にせず俺との距離をグッと近づけてきた。


「七瀬はどこに寄り道がしたいんだ?」

「どこに……そうですね、パンケーキが食べられる店があるみたいなのでそこに行きませんか?」

「じゃあ、そこに寄るか」


 彼女とこの場を去った時、教室に残っていた人達から視線を感じたが、俺は気にせず七瀬とパンケーキが食べられる店へと向かうことにした。





***




 彼女に案内され着いた場所は『hitode』という2階建てのカフェだった。店内は落ち着いた雰囲気でお客さんもかなり来ている。


 席が空くまで少し待つことになったが、数分後、案内された。


「立川くん、どうしましょう。制服でカフェに寄るなんて初めてです」

「俺も初めてだよ」


 目の前に座る七瀬は席に案内されてからずっと楽しそうだ。誰かと学校帰りにカフェに寄ることがそれだけ楽しいってことだろうか。


「パンケーキといっても5種類あるそうです。迷いますね。立川くんは決まりましたか?」

「俺はこの珈琲ってやつかな」

「それもいいですよね……」


 七瀬はパラパラとメニュー表をめくりながらそう呟いた。


 これは、完全に迷ってるなぁ……。中々決まりそうにない。


「もし、良かったらシェアするか? そしたら2種類食べられるぞ」

「いいですね、シェア。立川くんが良いのであればそうしましょう。珈琲は苦めなのでもう1つは、甘いものがいいですね」


 七瀬はそう言ってメニューを1枚めくり、そこで手を止めた。


「マンゴーは食べられますか?」

「うん、食べられるよ」

「わかりました。では、店員さんを呼びたいと思います」


 彼女はそう言ってすーはーと息を吸って吐いていた。注文をするだけなのに今からなにする気なんだろう。


「す、すみません……。あれ、聞こえてないんでしょうか? す、すみませーん……あれ?」


 中々、店員さんに気付かれないので困った七瀬は俺の方を見て助けを求めてきた。

 

 本人は気付いてないかもしれないが、全く声が出ていない。俺と話していた時の声量はどこにいったのだろうか。


 まぁ、こういうのってみんな緊張するし、ここは声を張れとか言わず俺が言うことにしよう。


「七瀬、俺が言うよ」

「あっ、ありがとうございます」


 注文を無事に終え、彼女と話しているとパンケーキが届いた。


「美味しそうです。写真撮ってもいいですか?」

「どうぞ」


 食べる前に七瀬がパンケーキの写真を撮るそうであまり写真を撮らない俺も記念に撮ることにした。


「では、さっそくいただきましょう。先に半分に分けておきますね」

「あぁ、こっちも先に分けておく」


 半分に切り、さっそく食べ始めることになった。


「では、いただきます」

「いただきます」


 フォークとナイフを使い、まずは1口目。少し大人っぽい味が口の中に広がった。


「ん、美味しい……」


 小さく呟き、目の前に座る彼女のことを見ると七瀬は、幸せそうに食べていた。


「こちらのマンゴーも美味しいですよ」

「うん、こっちも美味しい。七瀬って幸せそうに食べるよな」 

「幸せそうですか?」

「うん」

「そう……ですか」


 彼女は、ふふっと笑いパンケーキを一口パクっと食べた。


 半分食べた後は皿を交換し、俺はマンゴーを、七瀬は珈琲の方を食べた。


「ごちそうさまでした。とても美味しかったですね」

「あぁ、パンケーキなんて久しぶりに食べたけど美味しかった」

「次はケーキでもいいですね」


 彼女はもう次のことを話し出していた。次は俺ではなく友達か、他の人と来るんだろうな。


「あの、立川くん……。連絡先の交換がしたいです」


 スマホを持ち、彼女は交換したそうに待っていた。


「あっ、そう言えばしてなかったな。うん、交換しよう」


 今さらだが、よく連絡先を交換せずショッピングモールで集合できたな。もし、七瀬を見つけることが出来なかったら会うことはできなかっただろう。


 連絡先を交換した後は、カフェを出た。俺と七瀬の家は近いので途中まで一緒に帰ることに。


「私、連絡先を交換したのは立川くんが初めてです。家に帰ったら試しに何か送ってみてもいいですか?」

「うん、いいよ」


 そして七瀬の別れた後、彼女からメッセージが来ていることに気付いた。


『今日は楽しかったですね。また一緒に行きましょう』


 他に一緒に行く人がいなければと思い、『俺で良ければ』と俺は返信した。


 すると、彼女からウサギのスタンプが送られてきた。


 その後、メッセージのやり取りが楽しすぎて、30分続くのだった。






           

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