転生少女と雪の国1

 アニエスは、馬車に揺られていた。外を見ると、吹雪とも言える荒れた天候。しかし、白銀の世界は美しくもあった。今アニエスは、ルミ王国にいる。


 黒いコートに黒いフワフワの帽子、黒い手袋と防寒対策はしているが、やっぱり寒い。馬車で往復七~八日かかる場所に来ると、こんなにも天候が違うものなのか。 そう思ってアニエスが手で口元を覆い息を吐くと、隣から声がした。


「やっぱり北の国は寒いね」

 アニエスは、その声の主――エルネストを見ると、呟いた。

「……どうしてエルネスト殿下がいるっすか。勉強や公務はいいんですか?」

「大丈夫。学園卒業レベルの課題をこなして教師に叩き付け……提出したから、単位取得に問題は無い。公務の方も、兄さんが僕の分まで頑張ってくれているはずだよ」

 アニエスは、少しフレデリクに同情する。

 しかし、こうして側にエルネストがいてくれる事が、アニエスは嬉しかった。


 しばらく他愛のない話をしていると、急に馬車が停まった。外から、獣が唸るような声が聞こえる。嫌な予感しかしない。


 外を見ると、灰色をした狼の群れが馬車を取り囲んでいた。魔物ではなさそうなので、頑張れば切り抜けられそうだが、数が多いので追い払うのは大変そうだ。


「嬢ちゃん、坊ちゃん、どうする!?」

 中年の御者が聞いてくる。少し質素な服装だからか、アニエスとエルネストは商人の子供か男爵程度の爵位だと思われているらしい。


「僕もこの子もある程度武術が使えるから、あなたはとにかく全力で馬車を走らせて下さい!」

「わかった!」

 エルネストの言葉を聞いて、御者は狼に構わず馬車を走らせた。


 狼が一斉に馬車に襲い掛かるが、アニエスは木刀で狼を叩き、エルネストは殺さない程度に剣で狼を斬りつける。


 何とか狼の群れを振り切り、馬車は街へとたどり着いた。もう夕方になっている。宿の前に馬車を停めると、御者は「二人共凄かったな。達者でな!」と言って去って行った。


 宿に入ると、沢山の人で賑わっていた。交通の要所になる場所なので、当たり前なのだが。辺りを見回していると、人の良さそうなおかみさんが声を掛けてくれた。

「お二人共、お泊りですか?」

「エルネスト・アベラールとアニエス・マリエット。ここに泊まれるよう手配してあるはずなのですが」


 エルネストが言うと、茶色い髪をひっつめにしたおかみさんは、困った顔をした。

「はい、確かに二部屋承っております。……しかし、トラブルがございまして……」

「トラブル?」

「はい。……実は、この雪で宿の一部が壊れまして、一部屋しかご用意できなくなってしまったんです」

「え?」

「生憎他の部屋も満室でして……王族の名を出せば、他のお客様に宿を変えて頂く事も出来ると思うのですが……」


「……どうする?アニエス」

 エルネストが振り向いて聞いた。

「この吹雪の中、他の宿に移って頂くのは例え近距離でも申し訳ないっす。私は二人一部屋で良いので、他のお客様にはそのまま泊まって頂いて下さい」

「承知致しました。では、こちらへどうぞ」


 おかみさんが部屋に案内してくれる。歩きながら、エルネストは呟いた。

「やっぱりアニエスは優しいな」


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