死刑囚再利用プログラム ー Dead or Dream ー

虎次郎

序章

序章-01 《 東京ドリームランド 》

>>>荒井端望逮捕!

緊急速報が入る。


直木賞を受賞した若手大注目の小説家、荒井端望こと中山望が《外患誘致罪》の容疑で逮捕されました!

このニュースは世間を震撼させた ———。




世の中には残酷な事件が山ほどある。

そんなとき、凶悪犯は死刑にするのではなく、永久に苦しめてやるべきだ。人には言えずとも、心の中でそう思った経験はないだろうか?



そんなことが、実際に秘密裏に行われていると言ったら、あなたは信じることができるだろうか?




——— 舞台は東京ドリームランド。

ここは人々を夢の国へと誘う、日本を代表するテーマパークだ。




ドリームランドには、ネズミのキャラクター《マイキーマウス》をはじめ、たくさんの可愛いキャラクターたちが住んでいる。




ここで働くスタッフはすべてがドリームランド仕様。

言葉遣いや表情、仕草に至るまで、すべてが世界観を作り出している。

キャラクターはもちろん、キャストと呼ばれるここで働くすべての人たちがそれを徹底している。





名前のあるキャラクター以外は、映画で例えるならエキストラのような存在。



しかし、大きな違いとして

特定のシーンだけでなく、お客さんがいる間は“常に”気を張っていなければならない。


これはプロ意識や使命感といった言葉だけでは説明がつかないほどに、容易なことではない。



更にここでは、恐ろしいほどに”秘密”が徹底されている。


キャラクターたちが、この現実世界では着ぐるみだということを知らない大人は、殆どいないだろう。


では、あなたはその“中の人”が誰かという噂を一度でも耳にしたことがあるか?


「“中の人”は実は俺なんだ〜」

と言いふらしている人を見たことはあるか?



例えば、私がマイキーたちメインキャラクターの“中の人”という大役を仰せつかった場合、果たして自慢したいという衝動を抑えきれるだろうか。



その役をもらう前から、家族や友人たちにはドリームランドで働いていると伝えているだろう。

メインキャラクターの“中の人”となれば、それは一般企業でいえば役員クラスの大出世だ。


もしも私がその立場になったら、まず間違いなく有頂天になる。


そして家族や友人に、この世で最も無意味な言葉である「誰にも言うなよ」という枕詞を携え、一人、また一人と次々に自慢を繰り返してしまうことだろう。


仮に秘密保持契約を交わしていたとしても、人の口に物理的に鍵をかけることはできない。





それにもかかわらず、1976年に日本にドリームランドができた日から今日に至るまで、一度も“中の人”の噂すら聞いたことがない。


ましてや今はネット社会。

ネット上で一度広がった噂を完全に消すことは不可能だ。





実を言うと、私はこれに似た秘密を扱うある組織を知っている。


Central Intelligence Agency(中央情報局)通称CIAだ。

彼らは自分がCIAで働いているということを友人はもちろん、家族にも隠している。


元CIAのケース・オフィサーだった人物が実際にインタビューで答えているが、友人らには自分の職業を“うだつの上がらないセールスマン”だと伝えていたという。


そしてもう一人、私がよく知るCIAの職員であるイーサン・ハント(映画『ミッション:インポッシブル』)。


彼も友人たちに交通局で交通のパターンを分析していると話していた。




つまり、ドリームランドで“中の人”を演じているのは、CIAと同じ水準で機密事項を扱えるほどに口が堅い人物ということになる。


……果たして一般人にそんなことが可能だろうか?




人々の笑顔を生むテーマパークと、人々の涙の上を歩く死刑囚。

相反する2つのものが混ざり合った末の物語。


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