第20話 因果は巡る

さすが侯爵様だ。

驚くほど仕事が早い。


侯爵家から戻った私はまずお礼を言うためにお母様の部屋を訪ねた。

侯爵様と曲がりなりにも会話できたのはすべてお母様のおかげだった。

そこで紅茶をご馳走になり、何故か褒められ、私は顔を赤くしてしまっていた。


「流石はわたくしの娘ね」


優しく微笑まれ、先ほどの恐怖がよぎり、涙が出たのは内緒にしていただきたい。


ルルもあの日以降、お母様との関係は良好だ。

感づいて辛く当たっていたハンナも今はルルに対しとても優しく接してくれている。


和気あいあいと4人で楽しくお茶をしていたら私はお父さまに呼ばれ執務室へと出向いた。

そして執務室で書類の束をお父様からため息交じりに渡された。

今回の顛末の報告書だ。


侯爵様との面談を終えてまだ3時間程度しか経過していない。

おそらく私が侯爵様と面談した時にはもう全て終わった後だったのだろう。


私は自室に戻りながら、侯爵様の手腕に恐れおののいたのは言うまでもない。


貴族の会話も難解だがどうやら報告書もその流れを汲むらしい。

表現が独特過ぎて、良く判らないのだ。


面倒極まりないのでちょっとズルして鑑定を使ってみた。

要約するとこんな感じ。


阿呆な野盗の残党5名と、のこのこ鼻の下を伸ばした貴族が当主を含め何と20名もいたらしい。


そしてその中に大物がいた。


第一皇子アレス殿下の婚約者であるマルガレド・ビルシュタイン侯爵令嬢の実の兄であるサナタスト・ビルシュタイン侯爵令息。

束縛時の様子から『精神異常状態』と記されていた。


後は伯爵家が当主2名と子息7名、子爵家当主が5名、子息が3名、男爵家当主が2名の合計20名が捕縛された。


しかも一人当たり金貨100枚(日本円で約1000万円)支払っていたという驚愕の事実。

そしてお金は第2王子カイザー殿下に流れていた。


「あほか」


報告書を確認した私の第一声がそれだった。

突っ込みどころが多すぎて頭が痛い。


大体私たちが偽装したとはいえ、エリス嬢がいないのにどうして計画を進めるの?


そして何なの?

金貨100枚って。


確かにエリス嬢は美しい。

スタイルも抜群だ。

見た目と評判だけなら確かにお金を払ってでもエッチしたい人がいるのはまあ、無くは無いのだろう。


でも今回の事は誰がどう見たって犯罪だ。

しかも無理やり……凌辱だ。


おそらく例のくそ女が噛んでるとはいえ、異常すぎる数字だろう。

もしかしたらこの世界は、わたしが思うより腐っているのかもしれない。


そして侯爵令息は。

間違いなくミリーの拙い偽装工作だろう。

第2王子殿下の疑いを躱すための。


そして捻りもなくカイザー殿下に流れるお金。


「私が黒幕だ!!」


宣言しているようなものだ。


「はああああああああああああああああああああああ」


私は特大のため息をついた。


馬鹿なの?

ねえ、本当に馬鹿なの?


突き抜けすぎて本当に恐ろしいわ。


きっと単純に『侯爵家は偉い』くらいの考えだったのだろう。

だから一家だけでも良いと考えたのだろうけど……


精神異常状態?

こんなの無理やりに決まってんじゃん。


殿下はもういいや。

たぶん私には一生理解できない構造なのだろう。

頭が。


私は大きく息を吸ったり吐いたりしながら頭に上った血を巡らそうと、ついでに簡単な運動も行った。


「ふう、少し落ち着いた。ミリーは確実にスキル持ちだ。しかもたぶん厄介なものを持っている。そして多分、転生者だ」


私は自室で高い天井を見上げた。

スキルを使うために心を落ち着けさせる……


※※※※※


『創造神様、今よろしいでしょうか』

『……ふむ、どうしたんじゃ』

『私以外の転生者ってたくさんいるのでしょうか』

『……わしが知っておるのはお前さん以外に3名じゃな』


私は確信をもって創造神様に問いかけた。


『…ミリーもそうですね』

『ふう………あれはわしらのミスじゃ』


なぜかため息交じりの感情が私にも伝わってきた。


『彼女は主人公ですよね。……内容は熟知しているのですか?ゲームの』

『のう舞奈よ。それを知ってどうする』


殺すこと以外は認めるとおっしゃって下さった。

でも私は今からその禁を破る宣言をする。


『……排除します』

『仕方ないの。あれは狂っておる。そしてお前さんも無関係ではない』

『っ!?…どういう…』

『わしはのう、おぬしのじいさまと知り合いなんじゃよ』

『えっ?』

『ふぉふぉ、おぬしのじいさまはな、人ではない。以前神だった』

『はっ?えっ?』


長野のおじいちゃんが創造神様と知り合い?

しかも……元神様?

意外過ぎる情報に私の頭は真っ白になってしまう。


『因果が巡る……聞き覚えはあるかの』

『……覚えてる』

『お前さんは大きな因果に囚われておる。2人とな』


私が小さいときおじいちゃんはいつも言っていた。

まさかそれをここで聞くことになるとは。

でも…


因果がある2人……

もしかして…


ううん、今はそれそりも確認することが重要だ。

私は再度創造神様に覚悟を伝える。

断られて罰を受けるとしても。


『良く判りません。……でもミリーは排除します。許可してください』

『まあ仕方あるまいて。好きにするがよい』

『いいのですか?』


えっ。

そんなにあっさり?


『かまわん。じゃが一つ条件がある』

『……』

『運命を完成させて因果の巡りを止めるのじゃ』

『運命を……完成させる?』

『ふむ、全て聞いてしまってもよいのか?』

『……わかりました。足掻いて見せます』

『ふぉふぉ、それを聞いて安心した。まあ、焦るでない』


※※※※※


私は大きくため息をついてベッドへ倒れ込んだ。

まさか異世界に来ておじいちゃんの話が出るとは思わなかった。


「私と因果が巡っている二人……」

「運命を…完成させる……」


私はある考えにたどり着き、涙があふれてきた。


「俊則……」

「あいたいよ…グスッ…ヒック……」

「うああ……俊則……あああああ」


あーあ、またルルに怒られちゃうね……


私は泣きながら意識を手放した。

起きたらきっと私の顔はパンダみたいになっているだろうな……

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