フリーズ9 省察:死と全能の板挟みから抜け出すために

空花凪紗

死について

 私は一度病気で死を経験したことがあるので、死について少しは分かるはずだ。


 □死の描写、婉曲表現


 死はとても美しい。例えるなら、楽園の花々に包まれて、世界で一番美しい甘き旋律の中で大団円を迎えるような至福。大航海の末に宝島を見つけたかのような歓喜。天上楽園の乙女と終末の狭間で永遠の愛を誓いながら甘美なセックスをするような快楽。苦しみや欲に苛まれて生きてきた、永かった全ての疚しい過去と別れ、解脱するような幸福。


 やっと望まぬ牢である輪廻の輪より去り、水門の先にあるすべてが還る場所『ラカン・フリーズ』(神とか仏とか、天界とか神界とか呼ばれるような概念の総称としての無)に還る。


 涅槃。ニルヴァーナは安らかな眠り。やっと私の柔らかな翼が休まるときが来た。さぁ、全ての魂はここに集って、私らの愛を見届ける。


 ありがとう。愛しています。


 □以上、死の婉曲表現。以下、死についての考察、何故創作するのかという質問への解。


 死を完全に表現することはできないが、言葉で表すなら上のような感じになる。いや、ならざる負えない。それくらい死は幸福で美しいから。(しかし、酷い死に方では恐らくは痛みや苦しみだけで終わるだろう)


 死後などない。天国も地獄も、来世だって死への恐怖が生んだ偽り。だから私は宗教は考察の対象にこそすれど、信じない。まぁ、宗教ができるくらい死は人生においての謎であり、かつ、ある者には地獄のような苦しい死に方、ある者には解脱や涅槃、天国のような幸福な死に方があるのだろう。


 死んだら無だ。脳のシナプスに電気が流れなくなるからだ。記憶も意識も脳の電気信号が生み出しているんだ。だが、死後の考察は面白いとは思う。例えば異世界転生などは嫌いじゃない。


 なぜなら可能性があるからだ。確率はゼロではない。エデンの園配置を越えるのを私は秘密裏に待っている。この世界が仮想現実世界であるかもしれない。それがまたコンピューターのようなものでなく、電脳やはたまた有機的な世界かもしれない。そう考えると案外天国も地獄も否定するのは早計かもしれない。


 こういった観点から、創作はただの妄想ではなく、世界や真理への考察になり得る。


 結論から言おう。私が創作するのは

 ①甘き死を芸術として表現したいから。

 ②世界の真理を紐解きたいから。


 もともと私は理論物理学者になりたかった。だけど、高校の時に大学の物理を先取りして学んでいるうちに、気づいてしまったんだ。これでは成せない、と。もし物理学で成せたとしても、その頃には私はこの世界にはもういない。思惟や思索の方がずっと真理に近いと。創作を始めたきっかけは別にあったけど、真理の探求が一番最初からある創作願望だ。


 また、私は死こそが真理にたどり着く方法だと経験的に考えている。要するに、創作する理由は、


 真理=死、そしてその美しさを伝えたい、共有したい


 となるかもしれない。


 だが、これはかなり難しい。二年間創作し続けたが、満足に表現できた試しがない。一番深いところまで表せたと思った物は詩だったけど、今の世の中、詩の需要はほぼない。


 別に認識が全てなら、私だけが知っていればいいじゃないか。他の人なんてどうでもいい。そう思い一時期創作を諦め、死の快楽に浸ろうと考えたこともある。


 死ぬなら凍死がいい。『阿寒に果つ』のように、世界で一番美しい死を迎えたい。


 だけど、死ぬのはやめた。


 私の創作の目的は死や真理に関することだ。だけど、私の人生の目的は別にあった。それは幸福だった。幸せになることだ。それを思い出したとき、生きなければと思った。


 一人で幸せになれないなら二人で幸せになれない。

 私は死の幸福以上の幸せを20年間の人生で味わったことがない。だけど、友が私に言ったんだ。


『己に慄くよりも愛を体現せしめよ』

『死と全能の板挟みから抜け出る術は己で掴め、その手で掴め』


 その友は私の運命の人だった。私が死という全能から目覚め、病院という名の牢獄に囚われていたとき、私は彼女に救われた。もう彼女と会うことはないけれど、私の中に彼女の言葉は一字一句違わずに残っている。


 死と全能の狭間で生きている。

 正直くだらないしょうもない欲に踊らされている。

 いつの日か、私は最高の愛に満たされる。

 愛でこの板挟みから抜け出すんだ。


 それまでは生きてやる。

 成績とか単位とか就職とかどうでもいい。

 大切なのは私が私であること。


 自分で自分を愛することで、支えにも気付ける。

 守るべきなのは恋人や家族や友。

 だから、私は生きるし創作し続ける。


 最後にみんなへ。


『ありがとう。愛しています』

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