1/流転の森 -4 異世界とスマホ
俺は、ズボンのポケットからスマートフォンを取り出すと、二人に見せた。
「こいつが、俺たちの世界の技術力を示す証拠だ」
「……?」
「先程見つけた板きれではないか。綺麗なものとは思うが」
興味津々と言った様子で、二人がスマホの画面を覗き込む。
サイドボタンを押すと、味も素っ気もないデフォルトのままのロック画面が表示された。
「!」
「……おお」
「わ、わ、絵だ」
「恐ろしく精巧な……」
「しかも動く」
ポンポンと四桁のパスコードを入力すると、画面が切り替わり、アプリのアイコンが画面外から現れた。
「はー……」
プルが溜め息を吐く。
「プル。ヘレジナ。二人とも、もうすこし近付いてくれるか」
「?」
「ああ」
プルとヘレジナが、息がかかるほどこちらへ近付いてくる。
「違う違う!」
パーソナルスペースを冒されて、不覚にもドキリとしてしまった。
「二人が互いに近付いてくれ。肩が触れるくらい」
「あ、は、はい」
「それならそうと言え」
二人が肩を寄せ合うのを確認し、スマホのカメラで撮影する。
カシャリと効果音が鳴った。
「わ、なんか鳴った」
「ほれ」
たった今撮影した写真を二人に見せる。
「──…………」
「──……」
二人とも、あんぐりと口を開けて、驚愕の表情を浮かべていた。
「こ、こ、これ、写真……」
「写真術とは比べものにならんぞ……」
いちおう、この世界にも写真は存在しているらしい。
「信じてくれるか?」
「!」
うんうんうん、と、プルが何度も頷く。
「……仕方あるまい。こんなものを見せられてしまってはな。魔術ではない、ただの道具か。神代の魔術具ですら、ここまでものはそうあるまい」
「しかも、機能としてはついでだからな。本来は電話だ」
「で、でんわって、なんですか?」
「遠くにいる相手と会話をする道具だよ。たとえ相手が地の果てにいても、電波が届く限り連絡が取れる」
「ッ!」
ヘレジナが唐突に立ち上がり、俺の肩を掴んだ。
「そ、その道具を使わせてくれ! どうしても連絡を取りたい相手がいるのだ!」
「あー……」
しまったな。
「悪い、無理だ。相手が同じ端末を持ってないと通話できないんだよ、これ」
「意味がないではないか!」
「実際、役立たずには違いなくてな。写真は撮れる。音楽も動画も流せる。でも、明日か明後日には電池が切れて、ただの高価な板きれになる運命だ」
「な、なんとかなるって、思ったんだけど……」
プルとヘレジナが肩を落とす。
ぬか喜びをさせてしまった。
さすがに申し訳ないな。
「誰か、話したい相手がいたのか」
ヘレジナがプルへと視線を送り、尋ねる。
「この男に事情を説明して構いませんか?」
「……うん」
プルが頷く。
「う、運命の銀の輪は、あなたの隣人が回す。え、エル=タナエルの教えにも、あるから……」
「そうですね」
「こんなとこ、ほっといたら、死ぬし……」
怖いこと言われた。
「カタナ。この流転の森から出るまでは同行してやる。だから、お前の世界の知識を供出しろ」
「ああ。願ったり叶ったりだ」
察するに、この森はよほど危険な場所らしい。
死んで生き返ってまたすぐに死ぬだなんて、間が抜け過ぎていて笑い話にもならない。
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