第16話 品定め

 集まる視線―――あまり綾人は、人前に立つのが得意ではない。

 自己紹介と一言、小さな笑いが起きた。

 綾人はそれを不思議に思いながらも、平之に指定された空き席に着席。


 すると、学生としては通常だが、妖術などを学びに、適応しに来た綾人としては、少し物足りない。



「はじめまして―――私、泣屋 なきや皐月さつき 。タメ語でいいよ、よろしくね」


「ああ、よろしく」



 座った席の隣に座る、泣屋という女。

 彼女は教師の目も憚らず、綾人へ体ごと顔を近づけて言った。

 声量はひそひそ声と言って誰もが納得する大きさだが、この教室に居るのは、既に簡単な妖怪退治の仕事へ出ている者が ほとんど。

 山中で足音一つを聞き逃さない彼らが、狭い教室での話し声一つ、聞き逃すことはない。


 平之の話など聞かずに、皆は泣屋の対応に困る綾人に聞き耳を立てる。



「ねえ、どこの学校から来たの?」


「東京の、江東の方の高校」


「え〜じゃあアレ、アレ見たことある? 生のガンダム!」


「うん、まあ何回かなら」



 話を続けようとする泣屋と、一度切り上げたい綾人。

 それが面白いのか、教室の所々で小さな笑い声が上がる。



「おい泣屋、そんな話したいなら、山岡さんちの地蔵さんでも磨きながら話しかけてこい!」


「あの地蔵たまに語りかけて来るじゃないですか〜! 嫌ですよ先生!」


「嫌なら黙って話聞け、アホが」


「は〜い」



 ひとまず落ち着いたと安心する綾人だが、その考えは甘い。

 泣屋は机に突っ伏して、残念そうに綾人へと視線を向けた。



「怒られちゃったね、残念」



 この後も泣屋は話続け、三度平之からの注意を。

 それでも尚話を止める事はなかった。




 ●●●●●●




 授業の内容は、以前綾人が通っていた学校よりも遅れているらしい。

 それは通常の授業に加えて妖術の基礎や応用、その他武器の扱いなども学ぶため、仕方のない事ではある。

 夏休み明けという事で今日はなかったが、明日からは通常通り激しい訓練、元い授業が開始される。


 今日は長々と話を聞いて、見も知らぬ宿題の提出を眺める。

 昼食時に長々と東京についての質問をされ、転入生としての洗礼を受け、その後は既に前の学校で学んだ授業を少し。


 驚く程ハイペースの、初日が終わった。



「ねえ、この後時間ある?」


「ごめん、ちょっと予定があって」



 放課後、泣屋の質問に綾人は応える。

 これは泣屋を退けるための方便などではなく、本当に予定があるのだ。



「綾人、来たよ」


「桜井さん! ごめん、そういう事だから、また明日」



 迎えに来た桜井を見つけると、綾人は一度頭を下げて、車へと。

 若干の疲れを孕みながらも、初めての帰路へ付く。



「初日の感想はどうかな?」


「なんか、どっと疲れました。蔵での三日の方が楽だったかも知れない」


「大袈裟だねぇ」


「いや、本当ですよ…………あの見られてる感じは、緊張するし、気持ち悪い」


「まあ、慣れるさ」



 あのクラスは、今まで綾人が体験したことのない空間であった。

 誰もが妖力を纏う―――ナイフ、銃の様に機械には探知されず、されど同等、それ以上の殺傷力を誇る手段を誰もが持っている。

 そんな生徒達が自分へと集まり、舐める様に品定めをする。


 もしぽっと出の、お狐様に肖って力を手に入れた自分を気に入らない者が一人でもいたら―――それを考えるだけで、吐き気を催す程に緊張がほとばしる。



「明日から、あの学校に通えそうかい?」


「ちょっと、不安です」

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