第65話 文化祭⑩

「いらっしゃ…あ!来てくれたんだ二人ともー」

「昨日ぶり坂上くん」


 自分の教室の前で客引きをしていた坂上くんはこちらの存在に気づくとすぐさま駆け寄ってきた。

 あの後、昼食を済ませた俺と花守さんは特に行きたいクラス、出し物が決まらなかったので事前に誘ってくれていた坂上くんのクラスに遊びに来ていた。

 一応花守さんも行きたいところはあったみたいなのだが「今とても混んでると思うのでやめときましょう」と言われ、後々その場所に行くことにした。

 俺と花守さんは坂上くんに案内され、教室の中に入る。

 中には射的、輪投げ、ヨーヨー釣りなどなど、これぞ祭り、って感じの屋台が立ち並んでおり、多くの人で賑わっていた。

 

「花守さん、何やる?」

「んー………坂上さんのおすすめはどれですか?」

「え?僕の?そうだなぁ…」


 俺はひとまず花守さんにやりたいものを尋ねてみるが、たくさんある屋台を見て少し悩ましくなったのか従業員でもある坂上くんに話を振った。


「やっぱり射的かな。それなりに時間かけて作ったからね」


 尋ねられた坂上くんは少し考え、射的という答えを口にした。

 射的かぁ…最後にやったのが今年の夏祭りの時だから、ざっと三ヶ月前ぐらいなのか。

 いやぁ、時の流れってもんは速いねぇ…。


「射的ですか…その…実は私射的ってやったことがなくて…。私にもちゃんと出来るでしょうか?」

「え、そうなの?」

「はい。お祭りに行っても玉とかがやってるのを見るほうが好きでして…自分では特に」


 すると、花守さんが少し意外なことを口にし、再び坂上くんに質問をした。

 花守さん今年の夏祭りにもいたし、てっきり定番でもある射的はやっているものかと思っていた。


「あぁ、多分そこら辺の心配はしなくても大丈夫だと思いますよ」


 それに対して坂上くんは妙の自信とともに大丈夫だと宣言をする。


「うちの射的の銃、まぁまぁな威力がありまして、お菓子とかなら一発二発ぐらいで落ちるんですよ。まぁ、それでも落ちないようなら江崎くんという強力な助っ人を使っても構いませんので」

「え?俺?」


 坂上くんはその妙な自信の理由を聞かせてくれたのだが何故か銃の性能に加え、俺もその理由のうちの一つに入っていた。

 なんで?


「そ、噂は聞いてるよ。なんでも前夏祭りで一つの射的屋潰しかけたんでしょ?」

「あ、いやそれは……少し楽しくなっちゃてね…」


 と、思ったが話を聞くとどうやら俺の昔話を聞いてのことらしい。

 それなら納得、ではあるのだが俺の中で少しだけ気になることが生まれた。

 多分情報源は修哉なんだろうが……いつ頃のやつだろ…。

 多分前って言ってるから去年の山本さんのとこのなんだろうが、実を言うと私…今までで射的屋潰しかけたのその去年のやつが初めてではないんですよねぇ…。

 確かに射的でお世話になっているのは山本さんのとこ、でも流石にそれ以外のとこにも行ったりはするだろ?至る所に射的屋があるのだから。

 まぁ、そうゆうことでね、なんやかんやそこで自制が効かなくなるまで楽しんじゃった結果、射的屋を四、五回ぐらいは半壊させてしまった…、そろそろ出禁くらうかな?

 でだ、そんなことがあった俺を現在坂上くんは知っている、つまりは…。


「ちなみに聞くけど、その射的に俺は…」

「やってほしいけど潰されるのは困るからね。その他なら全然遊んで行ってね」

「やっぱかぁ…」


 俺は予想通りの答えに肩を落とす。

 まぁ、そりゃそうですよね…たった一人の人間に一つの屋台潰されちゃあ商売下がったり下がったりだもん。

 俺は大人しく射的からは手を引くことにした。


「それでどうする花守さん?サポだけなら良いみたいだけど」

「そうですね……せっかくですしやってみましょうか」

「じゃ、今空いてるみたいだからいってらっしゃい」


 花守さんが射的をすることが決まると坂上くんは射的のある方を指差して、そのまま廊下の方へと戻っていった。

 俺と花守さんはその指差された射的の方へと歩いて行く。


「一人分お願いします」

「はい、五百円です」


 花守さんは言われた金額を提示すると受け取った店員は花守さんに銃とコルク玉を手渡した。

 俺の想像していた銃はもう少しおもちゃ感のあるものかと思っていたが、出てきたのは普通の射的屋で見るちゃんとしたコルクガン、これ許可取るの大変だったろうな…。


「江崎さん、これどうやって使うんですか?」


 俺がそんなことを思っていると隣で花守さんがコルクガンを持ってそう尋ねてきた。

 本当にやったことがないんだなぁ…。

 やはり何度聞いても意外だと思いつつも、ちゃんと使えるよう教えていく。


「えっと、まずはコルク玉を銃口に詰めてください。その後にその横にあるレバーをカチッて鳴るまで引けばひとまず使えるようになります」

「詰めて……引くっ…あ、カチッて鳴りました!」


 花守さんは俺に言われた通りに復唱しながらコルクガンの準備が完了すると準備のできたコルクガンを嬉しそうにこちらに見せてきた。

 …こういう初めてって何かと嬉しいし楽しいもんね、分かるよその気持ち…。

 

「それじゃあ自分が取りたい景品を見つけて」

「お菓子が簡単って言ってたので……じゃああのグミにします」


 俺はほっこりした気持ちを持ちつつ花守さんに次の指示を言い渡す。

 花守さんが選んだのは二段あるひな壇の一番上の真ん中に置かれてあるパック包装のグミ。

 位置的にもちょうど良さそうな場所で射的が初めての花守さんにとってはとてもやりやすいだろう。


「あれね。じゃあ撃つんだけど、その前に構え方だよね。まず銃の柄のとこを頬に当てて。次に脇を締めたら肘を台の上に乗せて」

「こうですか?」

「そうそう。後は狙いを定めて撃つだけ」

「撃つだけ…」


 再び俺の指示通りに動いた花守さんは標的のグミを銃の先端で捉え、気持ちを落ち着かせるため静かになる。

 そして気持ちの落ち着いたらしい花守さんは引き金を引いた。


「あー…」


 ………銃口から放たれたコルク玉は標的のグミの上をスーッと通り抜けていってしまった。


「次こそは!」


 少々外したことに落ち込んでいる花守さんだが気合いを入れ直して再びコルクガンをセッティングする。

 そして再びグミに標準を当たると引き金を引いた。


「…またです…」

 

 しかし今度はグミが乗っているひな壇に当たってしまい、またもや命中とはいかなかった。


「江崎さん、全然当たりません…」

「あ、じゃあそのまま持っててください」


 そんな花守さん、流石に三回目は命中はさせたいのかここで再び俺を召喚してきた。

 俺は別にそれを拒否するわけもなく花守さんの方へと近づく。

 

「射的の一発目あたりは別に命中しなくても良いんですよ。当たったらラッキーって思うぐらいで」

「え、そうなんですか?」


 最初から目標の景品を当てようにもそもそもそのコルクガン自体がちゃんとしてなければ当たらない。

 だから最初の玉は性能確認、って感じで撃つのが一番である。

 一、二回目の玉の軌道を見た感じ意外と真っ直ぐ飛んでいたし、多分威力も坂上くんの言う通りまぁまぁありそう。


「となると後は少しだけ微調整すれば……このあたりかな。撃ってみてください」

「は、はい」


 俺は一、二回目の位置をもとに花守さんにコルクガンを持ってもらいながら微調整を施し、このあたりだというとこで花守さんに発射命令を出すとそれに従って引き金が引かれた。

 銃口から放たれた玉はその角度のまま真っ直ぐ飛んでいき、着弾した場所は目標のグミの下に部分に見事命中。

 そして、やはり威力十分だったのか当てられたグミはコロンと後ろに倒れてた。


「当たりました!江崎さん!」

「はい、良かったですね」

「おめでとうございます。はい、どうぞ」

「ありがとうございます。江崎さんもありがとうございます!」

「いえいえ」


 倒れたのを確認した花守さんはバッとこちらを振り返りとても嬉しそうな表情で報告してきた。

 景品一つ取れるだけでここまで喜んでくれるなんて、教える側でも十分得だね。


「後三発分玉が残ってるので他も取れるように頑張ってください」

「はい!」


 俺は花守さんに残りも頑張ってと言う意味も込めて続きをやらせるよう促すと花守さんは次に当てる目標を見つけるため再びひな壇に向き合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る