第16話 夏休み前

 教室に入るとクラスの人たちはどこかそわそわと浮き足立っているような様子だった。

 席に座ると同じく異様にそわそわして気持ち悪い修哉がこちらにやってきた。


「よう、智」

「なんか嬉しそうだな…」

「あったりまえだろ!」


 いうのも嬉しいのか少し溜めてからこの空気になった理由を話してくれるらしい。

 まぁ俺も知ってるんだけど。


「だって明日から夏休みなんだぜ!嬉しいに決まってるだろ!」


 そう。実はもう明日から夏休みに入るのだ。

 俺も内心では同じように夏休みに入ることにとても嬉しく感じていた。


「んで、どうしたんだ?」

「おぉ、そうだ。あのな何人か誘って八日に海に行くんだが、お前も一緒に行くぞ」

「ちなみに拒否権は?」

「ない。予定がない限りほぼ強制だ」


 修哉が強制といった時点で俺はもう諦めることを決めた。

 八月八日は特に予定といったものはない、どころか今はほとんどが空白だ。

 そうなると俺はほぼ強制で海に行かされることになるのだろう。

 しかし、人によってはここで適当な理由をつけて断るという人もいると思う。

 でも俺は昔、修哉に遊びに誘われたのだがその時はめんどくさいを理由に断った。

 しかし遊ぶ当日に修哉は俺の家にやってきては俺を無理やり連れ出していったのだ。

 なので俺はその日から修哉からは逃れられないことを悟り、強制となれば諦めて連行されるようになった。


「…分かった。でも気まずくなっても何も出来ないからな」

「まぁ一応花守さんも誘う予定だからな。そのほうがお前も気が楽だろう」


 明らかに俺が行ったら気まずくなるだけだと思うが花守さんと聞いて少しだけ安心する。

 そうか花守さんも一緒なのか、それなら今までよりかは安心できそうだ。

 まぁ聞きたいことは聞けたと思うのでこの話は一旦置いといてそれよりも俺は修哉に言っておきたいこと、いや確認及び警告があった。


「まぁそれよりも…今年は大丈夫だろうな?」

「ん?何が?」

「宿題」


 そういうと修哉は身体をビクッとさせた。

 何故こんなことを言うかというと、修哉は夏休みなどの長期休暇にでる宿題を毎回残り三日の時に俺のところに来ては『助けてくれ!』と懇願しながら俺に宿題を手伝わせているのだ。

 そんな修哉を俺はじーっと見ていると少しずつ汗をかいてきているように見えた。


「だ、大丈夫だよ!今年は終わらせるからさ!」

「それなら頑張ってくれ」

「じゃ俺はここで!」


 そして俺から逃げるように帰って行った修哉は自分の席に戻って行った。


―― ―― ――


「…んじゃ、全員気をつけて夏休みを過ごすように」


 校長先生からのありがたい長ったらしいお言葉を受け取ってから、教室では担任、黒土くろつち先生ことツッチーからの諸連絡を聞かされた。


 そしてそれも終わったようでツッチーはパソコンやらを持って教室を後にした。


「夏休みだー!!!」

「「「うぉぉぉぉ!!」」」


 ツッチーが去ってから少しすると一人の男子の一言をはじめとして何人かが歓声を上げていた。

 そんなに嬉しかったんだ…。

 まぁこうして高校生活最初の夏休みが幕を開けたのであった。

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