第40話 新しい奴隷


 5日目の朝、ダンジョンのボスを倒して無事に帝国のダンジョンを踏破した。

 順調すぎるほどに順調だった。調合の方も上級下の薬ならば失敗は無くなった。


 ダンジョンの魔物飽和も俺らが大量に狩ったため、一時的だが治まった。

 帝国の政治不安状態では、ダンジョンの管理はせずに放置されることがわかっているので、一時的なものだけどな。


「さて、おっさん。外出ると乱闘になるが……」

「乱闘にしないでいい。お前のやり方を否定することはない」

「いいのか? 頭を潰すぞ?」


 おそらく、あのリーダーは上の人間とやらに報告しただろう。

 何人増えたかはわからない。外に出れば、そいつらと戦うことになる。


 そして、乱闘というのは殺さないことを前提としている。そうすると人数が多い分だけ大変なことになる。

 逆に、一番偉い奴を一人潰すだけで、逆らうことはないだろう。


「おっさんはいいのか?」

「道を踏み外した犯罪者だろう。この世界に不慣れかどうかは関係ない……上からの命令でダンジョンに入ることを妨害することの意味がわからない。それが免罪符で、許されるわけじゃないだろう」

「それはそうだ……じゃあ、行くか」


 ダンジョンの最上階から入口へと戻る。

 予想外だったのは、食事を渡していた一人が増えただけだった。


「よぉ、この前はありがとうな。無事に必要な物が入手できた」

「ああ、うん……」


 魚と引き換えに俺らを通してくれた言葉に声をかけるが、怯えが見える。今更怖くなったらしい。


「おい! 何楽し気に会話してるんだ! わかってるだろ、そいつらを殺すのが今回の任務だ!」


 こちらを気まずい雰囲気でちらちら見ていたが、逆らうことは出来ないのだろう。武器を構えている。


「任務ねぇ」

「ぐる~」


 シマオウが唸ると何人かが後ろに下がった。戦いたくないのだろう。

 実力差があることに気付いたのか、先日話をして、自分たちがしてきたことに疑念を持ったか。


 自分たちが侵入を阻止していた場所の素材がないと死ぬ人がいる。

 いや、俺達を中に通して5日間。冷静になる時間があったことで、人を殺していたことにも今更考えたのかもしれない。

 

 食事を運んでいた男が尻込みをする仲間たちを叱咤するように振り返り、こちらから視線を外した。


「かかっ……え?」

「油断し過ぎだぜ? 敵を前にしたなら目を放すべきじゃない」


 刀を抜いて、一閃。

 指示を出した男は倒れて動かなくなった。


「ひぃっ……なんっ……」

「敵対したんだから当たり前だろう? まさか、無抵抗で殺されてくれるとでも思っていたのかい?」

「さて……戦う気がないなら武器を捨てて、手を上げろ」

「おい、やめろ! 捨てるなぁ!」


 俺の言葉に武器を捨てたのは4人。その中には魚を欲しがった少年も入っている。

 前は戦う気概があったから、考えが変わったのだろう。


 前回からのリーダー格は必死に鼓舞をしたいようだが、誰も聞いていない。


「裏切るなら、そいつらから……」

「黙れ……これ以上、他の奴らに指示をするなら君から殺す」


 俺の言葉に後退るリーダーだった男を、武器を捨てたはずの4人が取り押さえる。他の連中はちらちらと見ながらも黙って俯いている。


「ははっ、いい判断だ」

「なんでもいい、食べ物をくれ、いや、ください」

「どうした?」

「あ、その……」

「あんた達を中に入れた罰で食事を一切していない。水だけだ」


 少年が必死に食べ物を求める。それを補うように青年が言葉を発した。

 さらに他の二人も頷いている。


「武器を捨てた4人は俺たちの後ろへ。おっさん、食事と飲み物を出してやってくれ」

「わかった。ほら、魚焼いてやるからこっちこい」


 4人のことはおっさんに任せて、他の8人を見る。4人が抑え込んでいたリーダー格の奴も自由になっている。そいつに視線を送り、確認する。


「さて、どうする? 君達では俺一人倒せないと思うが、やるかい?」

「……た、退却、退却だっ!」



 リーダー格の人間が言葉と共に走り出す。一人で走り出していくが、他の7人は困ったように顔を見合わせている。


「さて、残りはどうする。自分たちの意思で決めてくれ」

「……」


 いまだに武器を捨てることも無く、ちらちらとおっさんに渡された食事を食べている4人を見ては何も言わない。


「自分で決めろ。縋っても誰も助けはしない。すでに犯罪者の君達が生きる場所なんてないんだけどな」


 俺の言葉を聞いてから、残った連中は話し合った後に逃げ出したリーダーの方へと走り出した。



「君達はいいのかい?」

「はっ……戻ったって、食事を与えられない日々が続く。どっかの町にいけば奴隷になるんだろうがっ!」

「ああ、現実がちゃんと見えてるんだな。名前は?」

「ラウネン。なあ、俺らを王国に連れて行ってくれ! いいよな!」

「あ、俺はピュール! 俺も、お願い! あと、食べさせてほしい」


 4人が名乗った。ピュール、プリスク、ラウネン、セティコの4人。

 ずっと俺と交渉してきた少年がピュール。本当に食事が与えられていないらしいので、仕方なく汁物を作ってやり、無理ない範囲で食べさせる。



「さて。とりあえず、君たちは俺の家所有の奴隷になる。王国に連れて行くにあたり、犯罪者をそのままは無理だからな」

「それは……断ることはできない?」


 先ほどまで会話に参加しなかったセティコが困ったように言う。

 奴隷にならずにすませたいと考えているようだが、それはできないだろう。


「君達に生きるために残された道は奴隷しかないな。今助かったとしても、いずれ終わる。帝国での食料事情の悪化もだが、他国もこの現状を放置はしない。イキっているのもあと数か月で終わる」

「……帝国以外の仲間が助けてくれる」


 今まで黙っていたプリスクがぼそっと呟いたので、深く息を吐く。こいつらの中でも意思統一が諮られていないのはわかるが、こいつらの要求に応じるつもりは無い。

 奴隷になるなら王国まで連れて行くが、そうでないならここまで。協力して食事を食べれなかったというなら、その分は提供する。


「そうかい。なら、話は終わりだ。食料は10日分やろう。あとは好きにするといい。わざわざ関わる気はない」


 魔法袋(極小)に入るだけの食料を入れて、ピュールに向かってポイっと投げる。


「わっ……え? まって、他の方法を考えようよ。俺らも困ってるんだ。助けてよ」

「食料はやっただろ。後は好きにすればいい。俺らは急ぐ旅をしている」

「待ってくれ! 本当に、奴隷以外に道がないのならこちらも考える。だが、それを確認する術がないんだ」

「それを俺に言ってどうする? 君達はそもそも俺に合う前から犯罪者であって、俺達は君達を捕らえたら賞金を貰える立場だ」


 ダンジョンの入口を閉鎖していた異邦人へのヘイト。はっきり言って、帝国・王国・共和国・聖教国・公国……すべての人が治める国にとって害悪と認識されている。


 奴隷にならないなら、殺した方がいい。そういうレベルになっているのに、本人達にはその自覚はない。


「まって! 俺はいいよ、食べさせてくれるなら奴隷になる!」

「おい、ピュール! 早まるな!」

「ははっ、子どもの方がよくわかってるな。ピュール、こいつを首に付けろ。契約書は後ほどになるが、内容はこれだ」


 契約書の内容はティガ達と同様。ただし、借金奴隷ではないので、返済などの項目はない。犯罪の内容によって変わるが、奴隷として何年も滅私奉公することになる。

 こいつらの犯罪歴は王国に戻ってから確認するが、年単位での奴隷となることは間違いないだろう


「馬鹿野郎! 何十年と奴隷になるんだ! わかってるのか!」

「うるさいよ、セティコ。わかってる……だって、俺ら人殺してきたじゃん。その罪を償えっていうことでしょ? 悪いことしたんだって……」

「まあ、悪いことすると自分の身に返ってくるんだ。そういうもんだ……心配すんな、そんな悪いようにはならん」


 おっさんがガシガシとピュールの頭を撫でてにかっと笑った。 


「お、俺らが悪い訳じゃ……」

「……悪いに決まってる。言ってただろ、ここ、重要な素材手に入るって……それ目的の人達、みんなで殺して、食料とか金を奪った。……俺にも首輪くれる?」


 ピュールの次に若いプリスクが首輪を求めたので渡す。二人は首輪をつけて、奴隷になった。


「ピュール、プリスク。確かに俺らが悪いことはした、だけど、モール様をあっさりと首刎ねたんだぞ? 俺らだって、いつそうなるか……」

「セティコ、無駄だ。この人にとって、敵だから殺した。そして、俺らは犯罪者。殺されても文句は言えない、誰も助けてなんてくれない」

「ははっ……むしろ、賞金を貰えるぜ? 君達4人と殺した奴、さらに逃げた8人の顔や特徴を伝えるだけでな」

「人を殺してなんとも思わない奴の下につけと?!」

「不思議なことを言うな? 君達は何人の冒険者を殺した? 自分で止めをさしてないとか、馬鹿なことを言うなよ? 少なくとも、王国のパーティーを5つは壊滅が確認されている。ここは帝国領なことを考えれば、どれだけ殺した?」


 おっさんが採取を頼んだマーレ所属のパーティーもいる。俺が顔を見たのは一度だけだったが、気のいい冒険者だった。

 そいつらはこの地で死んだ。他の国でも貴重な素材を採取出来ないことで困っている。

 少なく見積もっても、100人はこいつらにより殺されている。


「帝国や他の国もここに来たはずだな。素材がないことで死んだ民間人はどれくらいいるんだろうな? ……お前らは人殺しの犯罪者だ。俺はそれを裁いただけだ」


 俺の言葉に沈痛な顔をしているのは3人。

 ラウネンという口調の荒い男は気にしていないようだな。自分がしてきたことも、この状況もこいつには関係がないのだろう。


「おっさん。さっさと帰ろう。ここにいても時間の無駄だ」

「……あんた達を殺しに、モール様の敵討ちに……俺らなんかよりもっと強い奴がきたらどうする?」

「無駄だ。国境を無理やり越えることがあるなら、討伐部隊組まれる。帝国から出すはずがない……それにお前らのトップがどれほど強かろうが、俺とグラノスを倒せるとは思わない」

「そんなはず……」

「俺とおっさんを殺すのに、君達レベルが何人いたところで無駄だ。モールだったか? あいつレベルが揃っても、おっさんは傷一つないだろうな。それより強い奴が100人いるなら、俺らを倒せるだろうが……もう、その規模はないのは知っている」


 増援を呼びに行ったところで無駄でしかない。そもそも帝都を放棄もできないだろうしな。

 覚悟が決まらない二人はおいて行けばいいだろう。


「シマオウ。彼ら二人が乗れる魔物を呼べるかい? ゆっくりと歩いている時間はなくてな」

「GARUUUU!」


 シマオウは任せろと頷いて、遠吠えをする。

 すぐに現れたのは、ファーコレオネの群れ。先日、力を貸してくれた仔達だろう。


「力を貸してくれるかい?」

「ぐる~がぅがぅ」

「ありがとうな」


 ボアの生肉をと取り出して、一頭一頭に餌をあげて、撫でてやると気持ちよさそうにしている。


「ナーガみたいにテイムできればいいんだながな」

「名前だけでも付けてやったらどうだ」

「ふむ……」


 会話を聞いていた群れの長らしき雌がすっと俺の前に前足を揃えた状態で座る。

 シマオウもこくりと頷いているので、この一頭にだけでも名前を付けろということだろう。


 この群れは小さい二頭を除いて、雌6頭。小さいのはもしからしたら雄かもしれないが、わからない。


 じっと8頭を観察する。炎の獅子というイメージだが、瞳の色はみんな違う。この仔は赤く爛々と輝いている。


「じゃあ……チリでどうだい?」

「ぐる~」


 唐辛子のような赤から、チリペッパーのチリとした。他の仔達も食べ物だから構わないだろう。

 俺の言葉に頷き、一声鳴いたチリと名付けたライオンとの間に、何か絆のようなものを感じ取る。


「よろしくな、チリ」


 他の7頭については、どうするかな。チリと同じように七味唐辛子から取るのもありかもしれないな。黒い瞳はセサミとか、茶色はヘンプとか……だが、山椒や紫蘇の英名が微妙か……まあ、チリ以外は後からでもいいか。


「ま、待ってくれ……俺とラウネンは?」

「奴隷になるなら連れて行く。ならないなら知らん」


 俺とおっさんがシマオウに乗り、チリともう一頭がピュール、プリスクに乗ったところで漸く腹をくくって奴隷になることを宣言した。


「言っておく。死に物狂いで信頼を勝ち取らない限り、俺は君達を側に置き続ける気はない。あくまでも、今は王国に連れて行く。その後、不要だと思えば売り払うことがあると覚えておいてくれ」


 警告はした。あとは、4人がどうするかだ。


 おっさんも言っていたが誰か適当に売り払うことになりそうだな。彼らの様子を見る限り、仲間として迎え入れるのは絶対に無理だろう。


 俺がこいつらの仲間を殺したということもあるが……信頼関係が破綻している。早めに引き取り先がないか探すしかないな。


 ただ、引き取る場合は別々……おそらく、4人一緒でも良いことはないだろう。

 しばらく大人しくしていても……おそらく、数か月もせずに終わるだろうな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る