第38話 ダンジョン


 入口にいたデュラハンは開始5分程度であっけないほど楽々と倒した。


 馬による騎乗攻撃をされるとなかなか攻撃が難しいと思いきや、おっさんが真正面からあっさりと突進を止めてしまい、俺が横から攻撃をするという連携により、無傷で圧勝した。


 キノコの森のゴーレムでも思ったが、入口のボスはそこまで手古摺る相手でもない。ダンジョンのランクはそう高くないからこそ、人数が少なくても何とでもなる。


「一応、キノコの森ダンジョンよりランクは上だぞ」

「おっさん達が低レベルで放り込んでくれたからな。この程度は脅威にもならない」

「……お前が脅威を感じるようなことが起きるなら、天変地異でも起きるんじゃないか?」


 当初から、クレインに比べると俺は安定しているというのがおっさんの見立てらしい。ナーガは技術も含め拙いところがあり、クレインは安全第一で消極的なところがあるからな。


 その後はシマオウに乗って1、2階を一気に突き進んだが、おっさんの提案により徒歩で進むことになった。



「魔物飽和状態ね……そんなにまずいのか?」

「ああ。ダンジョン内の魔物が増えすぎるとまずい。主に魔物同士の争いが激しくなり、強い奴がボスクラスになると弱い奴らが下の階に逃げ……ダンジョン全体の難易度が上がる」

「こんな低層から数を減らす必要があるほどかい?」

「7,8階で出てくる奴が3階にいるんだ。強い奴を減らす必要はあるだろうな。ボスが入れ替わってるようなことはないと思うが……正常な状態に近づけるためには数を減らしたい」


 おっさんはこのダンジョンにも何度も来たことがあるため、魔物の情報は頭に入っているから気になるという。


 そもそも、ここを占拠されて3か月近く経っている。その間、誰もここに入っていないのだから、魔物の変化も当然だ。


「それを帝国のダンジョンでもやる必要があるのか、甚だ疑問ではあるが……おっさんの希望だからな。付き合おう」


 このダンジョンが崩壊するようなことになると困るというのはわかるんだが……入口にいるくらいなら、きちんと管理しておけよと言いたくなる。


「おっさん。定期的に整備しないダンジョンはどうなる?」

「……言っただろ。難易度が上がる……場合によっては、中の魔物があふれ出し……崩壊する」

「そんなことあるのか? ここは異空間だと思っていたんだが」

「ああ。だが、ないわけではない……らしい。俺も見たことはないがな、ギルドが定期的に人を送り、ダンジョンを管理しているのはそういう理由だ」

「だから、ここも放っておくことが出来ない」


 少なくとも、安らぎの花蜜はスタンピードごに、ラズとクレインのおかげで入手できている。多少帰る日が遅くなったところで、お師匠さんがすぐに危険なことにはならない。

 このまま、もし、このダンジョンが崩壊となれば……その後の入手が困難になる。


「でもな、さっさと帰らないとクレインが何かやらかしそうなんだよな」

「あり得るな」


 怪我で倒れているのだから、じっとしていてほしいというのが本音だが、無理だろうなと俺もおっさんも考えている。


 

「魔物を狩りながら、さっさと奥へ進もう」

「どうせ、このダンジョンには人がいないからな。夜営をせず、セーフティーエリアで同時に睡眠をとれば1週間で何とかなるだろ」

「おいおい、寝ぼけるのはよくないぜ、おっさん。5日だ、5日。移動距離考えても10日以上離れていたら、クレインが何かやらかす可能性のが高い」

「たくっ……間引くために、魔物をおびき寄せる香でも焚くか」

「いいねぇ、それなら手っ取り早そうだ」


 ダンジョンに入ってから、おおよそ15時間。

 ようやく、20階のセーフティーエリアに到着した。


 各階でお香を使って魔物をおびき寄せて30分間の乱闘。

 その後、次の階に向かう。道中も間引きしながら進むという二人(+シマオウ)パーティーではあり得ない戦い方をしながら進んできた。


 戦果は上々だろう。それなりの数を倒したので、闇属性付きの貴重素材も入手できている。安らぎの花蜜は20階以降であるため、明日からはそちらの採取に時間を使える。


「やれやれ、流石に疲れたな」

「お疲れさん。刀だけかと思ったが、弓もそれなりに使えるようになってるんだな」

「一応な。おっさんは安定力やばいな。盾を使わないでもナーガよりもタンクとしての能力が上とはな」


 おっさんは俺を守る気はないという宣言通り、大剣を使っている。

 前のようにラズやら守らなくてはいけない人がいるなら別だろうが、俺は対象外らしい。


「まだ始めて数か月のガキと比べるな。まだまだ負けることはない。お前の実力は数か月でも馬鹿に出来ないがな」

「俺は刀が無いと何も出来ない。おっさん、盾が無くても十分すぎる能力がある……まだまだ上には上がいるな」

「よく言う。すでに俺を倒す……十分な考察が出来てるだろ」

「いや、まだ足りないな」


 対人戦でおっさんを倒すとしたら……盾装備のおっさんはまだ無理だな。

 二人旅で乱戦ばかり経験しているからこそ、見えてくるものがある。



 おっさんは優秀なタンクであり、攻撃モーションの見極めが神懸っている。

 俺がかすり傷をちまちまと受けていても、おっさんは綺麗に受け流すか、先に攻撃をして倒している。


 すでにステータスでは素早さは俺の方が上だろう。俺では見極められないが、おっさんは魔物の動きを熟知しているということだ。



 そして、それは何も魔物だけじゃないのだろう。

 俺がおっさんをどう倒すかを想像したようにおっさんも相手を見定めているだろう。守らなくてもいいというのは、その判断の結果だからな。



「引退、早かったんじゃないか?」

「守る奴がいなくなったのに続ける理由はないな。ばあさんがいる間は素材を何とかするつもりだったんだが」


 おっさんの代わりを申し出る後輩は多く、遠出しなくてはいけない素材は他のパーティーがいくつかで受け持っていると聞いた。

 ジュード達のパーティーもその一つであるし、このダンジョンに来て異邦人に殺されたパーティーもその一つだった。


「まあ、この程度の攻撃は全部捌けるようになるんだな」

「くっそ……おっさんがやばいのはわかってたけど、レベルさえ追いつけばと思ってたんだがな」


 レベルが上がればと思っていたが、まだおっさんは上にいるらしい。すでにレベルはかなり高いため、ここから上げていくのは容易ではない。

 むしろ、やることが多く、戦闘を磨いている暇も少ないわけだが……それでも超えなくてはいけない壁だ。



「十分だろう。戦闘センスもいい、判断力、観察力もある。アタッカーとしては理想形だと思うぞ。残りは経験の差だが……すぐに追いつくだろう」

「……ああ。すぐに抜かしてみせるさ」

「あぁ? まだ早い」


 ドスの利いた声の問いかけに、にんまりと笑って返す。


「いいだろう。なら、俺に勝てるまでクレインに手を出すなよ?」

「わかった……こっちも手段は選ばないんで、踏み台になってもらうぞ」


 俺がおっさんを倒せる実力を持つまで……それは逆に言えば、ナーガにも同じ枷がつく。ナーガがおっさんを超えるまでは数年はかかるだろう。


 そう思ったが、俺の背中をシマオウが軽く頭突きをしてきた。


「どうした?」

「傷つけるならおっさんだけじゃなくて、シマオウも許さないとさ……傷つけるつもりは無いんだがな」


 おっさんに同意するようにシマオウも唸るので、言葉はわからずともそういうことだろう。

 だが、俺だって無理だ。蛇の生殺し状態であり続けるのは辛いからな。保護者でなくなるなら、代わりの保護者からの許可は貰っておくだけだ。



「きちんとそういう対象なんだな」

「……男だからな。当然だろう」


 何を今更と思いつつ返事を返すと、「そうか」と微かな呟きが返ってきた。

 対象ではあるが、一度でもあの子で抜いてしまえば歯止めが利かなくなりそうだから、しないようにしているけどな。


 生理現象なんて、何とでもなるからな。


「おっさんは先に寝てくれ。俺は少し確かめたいことがある」

「お前は十分すぎる戦闘能力を得ていて、何を焦っている?」

「……俺の想像以上に貴族が強い。スペル達くらいの貴族に襲われたら流石に脅威でな……今後の動きに支障がでないように考えている」

「クヴェレ家の双子は冒険者としてもS級だ。あのレベルは王国内でもわずかだ。騎士団でもトップ同士で、小隊でも組んでもお前は厳しいはずだ」


 おっさんの言葉にふっと笑みを返しておく。

 通常ならそうであっても、今は異邦人がいるからな。俺らのレベルまで育った異邦人はいないだろうが、それでもそれなりに育った異邦人なら、能力次第では複数を敵に回せば厳しい。


 クレインみたいなのがいるとは思わないが……敵に回ると厄介だからな。


「なあ、俺が野盗に襲われても問題はないか?」

「当り前だ。お前、相手が人でも魔物でも対処できる」

「ふむ……」

「野盗程度にやられはしない。対人での訓練を積んだ騎士でも上位連中でない限り、誰がお前を倒せる?」

「おっさんは倒せるだろ」


 おっさんが敵にまわることはなくても、想定としてこのレベルが数人いると仮定して動く必要がある。


「……命を狙われるのか?」

「クレインが狙われないように、俺が囮をするからな。標的になる……俺も十分育ったから大丈夫と思ってたんだが、おっさんを見て下方修正だ」

「駄目だ……明日の早朝にボス戦に挑む。寝ろ、体を休ませろ」

「……おっさん」

「休め。いいな?」


 おっさんの真剣な表情に仕方なく折れる。


「……わかった。シマオウ。俺とおっさんは寝る。誰かが入ってくることはないだろうが、頼むぞ」

「ぐる~」


 明日のために寝る準備を始めると、俺とおっさんの間にシマオウが陣取った。おっさんの姿は確認できないが、問題はないだろう。

 体を休ませるために目を瞑れば、体の疲労によりすぐに眠りの世界へと誘われた。

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