第71話 名監督レイナーレ編集長

【Side 両刀始祖】



 昼過ぎ。


「――あっくんは出掛けた?」

「うん。ホテルから離れていったよ」


 姉の問いかけに、窓から外を見ていたマリアが答える。

 彼女たちが使っているゲストルームで、オレたち四人は集まっていた。

 

「ふぅ、ようやくか。これでやっと話を進められる。それにしても……くぅ」

「レイちゃん腰はもう大丈夫? さっきまでプルプルしてたけれど……」

「あぁ、だいぶ楽になった。あそこまでいわしたのは初めてだったが、自己回復もできるしな」


 ベッドの端に座ったオレを、フレイが気遣ってくれる。

 先ほどまで何事もなく話していたが、正直に言うと昨夜の大運動会で満身創痍だった。

 オレはスキルによる回復もあるし慣れもあるから、歩き回れる程度には持ち直した。

 が、エルミーは……。


「大丈夫か?」

「えへ、ふへへぇ……!」

「……頭の心配した方がよさそうね〜」

「腰が抜けてるくせに、ほんっと幸せそうな顔してるね……」


 よだれを垂らしそうなだらしない顔で、ベッドにくたばっていた……!


「あっくんのあの介抱を受けたら、仕方ないけれど~」

「理想の初体験を迎えたと思ったら、いきなり甘やかされちゃったんだもの。あんなの顔も頭も蕩けちゃうよ」

「まったくだ」


 アベルは午前中ずっと、腰を抜かしたオレたちの介抱をしてくれていた。

 元々尽くすタイプな上に、自分のせいで腰をやったという負い目もあってか……もの凄く甘やかしてきた。

 食事はずっと「あ〜ん」で食べさせ、何も言わずとも飲み物を飲ませてくれるし、全身をマッサージして揉みほぐし、耳元で「ありがとう」と愛の言葉を繰り返し囁かれる……。


「二人を見てるだけでも羨ましくて狂いそうだったよ……!」

「ミリアちゃん、病気の時とかあんな調子で看病されてたのかしら。だったら調子に乗っちゃうわぁ……」

「至福の時間だった。あの時間のためならなんだって出来るな」


 おっと、つい本音が。

 お預けになってしまった二人の前では控えるべきだったな。

 ――回復せずにもっと余韻を堪能したかった。……こほん。


「やれやれ、おかげで中々離れなくて困ったな。いい思いは出来たが、送り出すのに苦労した」

「流石に、あっくんに――がバレるわけにはいかないものね……!」


 そう言って、フレイはあるものを懐から出した。昨夜アベルの部屋に置いてあった、水晶のインテリア。

 水晶――そう、映像や音を記録する魔道具マジックアイテム、記録水晶だ。

 その中身は当然――昨日、オレたちが可愛がられた夜の一部始終。


「あっくんが帰ってくる前に仕掛けておいた記録水晶……! 昨日は盗み聞きしかできなかったから楽しみだったのよ!」

「もう、聞いてるだけでも凄かったものね! 早く観た~い!」


 姉妹はもう大興奮。

 昨日は盗み聞きで音だけしか聞こえなかった二人は水晶に夢中である。


「うぅぅ……聞かれるのも恥ずかしいけど、やっぱり撮る必要なんてなかったんじゃ……っ!」


 悶絶する声に振り向けば……なんとか、幸せの底なし沼から帰ってきたエルミーがシーツを引っ被っていた。

 こっそり水晶を仕掛けようと提案したとき、唯一ゴネたのがエルミーだったからな……。


「エルミー、わたしたちは初めてなのよ? ちょっとくらい予習させてくれてもいいじゃない」

「そうだよ、どうせそのうち一緒にするんだし。あたしたちだけで見るんだから、同じことだって」

「そうだぞ。それにハーレムを築く者の一部には、記念としてこういった記録を撮る連中もいるからな」

「そ、そうなの……? あんなとこや、そんな声を聞かれるなんて……は、恥ずか死んじゃうよぉ!」


 こうやって言いくるめた。

 チョロい、チョロいぞエルミー……!

 正直な本音は、初々しいアベルを記録に残しておきたかっただけだ。可愛がられたのはオレたちだったわけだが。

 アベルには許可なんて取ってない。どうせ許してくれるし、あとでアイツ主導で撮られる言い訳が作れるから。


「だがまあ、身内消費以外の使い方もあるがな」

「えぇ……? 仲間に見られるのも恥ずかしいのに、他の人に見せる気なの……!?」


 オレのことをエルミーが信じられないという顔で見てくる。

 だが……これは全員がやりたいことだと思うぞ?


「アベルを裏切ったクソ女。アイツに送りつけてやるのさ」

「「「……ッ!」」」


 その言葉に、三人は明らかに反応した。


「オレはあの女を許す気はサラサラない。『お前のものだった男は、オレたちが奪ってやったぞ、ざまあみろ』と言ってやりたいのさ」


 オレが惚れた男の心を踏みにじったこと。

 アベルがあれほど一途に思い、身を削りながら尽くしていたのに、浮気だと? ――それを知ってからずっと、腸が煮えくり返っているんだよ……!


「お前らも見せつけられたりしたんだろう? なら、仕返してやるだけさ。……アベルを裏切った復讐としてな」


 当の本人はさほど関心が無いようだったが……オレは違う。ブチギレている。

 想い人を傷つけられたんだ、怒りを抱くのは当たり前だろう……?


「アベルにもそれとなく聞いてみたが、幸い止める素振りはなかったからな」


 さっき甘やかされてる最中に、浮気女に対する復讐について聞いてみたが……


『えぇ……? 俺は復讐とかする気はないけど、レイナーレがやりたいなら別に止めはしないけど……あ、命を奪うとか自殺に追い込むとかはナシでね。一応幼馴染だし』

『でも蒼天教から呪いかけられてるから、それで罰になってんじゃねぇかなぁ……?』

『あ、それとあんまり顔は見たくないかな』


 ――と、興味なさげに言っていた。

 アレは「未練はないが、恋人がやりたいならやらせてあげよう」……そんなニュアンス。

 縁のある人間に対して非情になれないのはアベルらしいが……いいと言ってくれた。

 なら、やらせて貰おうじゃないか。


「それは……いいじゃない! なんだかすっごくゾクゾクしちゃうわねぇ……!」

「ちょ、それって……」

「あたしは姉さんと同意見。ミリアちゃんには、まだまだお灸を据えたいと思ってたのよ」


 エルミーは困惑していたが、フレイとマリアはやる気だった。それにエルミーも、乗り気ではない――わけでは、なさそうだ。


「エルミーもそう思わない? それともアベル君と結ばれて……ミリアちゃんは許しちゃった?」

「それはないよ! アベルを裏切ったのはまだ許せない!」


 エルミーが力の入らない体でもって、精一杯ベッドを殴りつけた。


「三年も、あんなに頑張ってたアベルを……何も知らず裏切ってたんだよ!? そんなの、許せるわけない!」


 情けない音しか鳴らないが……それでも、内に秘める怒りは相当なものだろう。

 オレよりもずっと前から、アベルの事を好いていたのだから。

 だが、


「だ……だけどさ。今のミリアにその……ボ、ボクらのあっ、あられもない姿なんか送ったら……! その、何をするかわからないじゃない?」 

「う〜ん……たしかにミリアちゃん、」

「ヤケを起こしてこっちを辱めようとしてくる、とか?」

「ミリアに見せるまでならまぁ、いいけど……もしも知らない人に見せられたりしたら……っ!」


 その映像をバラまかれたら、なんてことを懸念していると。

 たしかに、トチ狂った女のやることなど後先考えないものだからな。

 ――だが!


「安心しろ! 記録水晶に記録した映像を編集する魔法は、オレが習得済みだ!」

「えっ、えぇっ!?」

「それなら、拡散対策も?」

「もちろんだ! 一度しか見れないように細工することも、より劇的に魅せることもできるぞ!」


 一時期、動画編集そういうのにハマっていた時期があった。

 どんな特技でも習得しておくに越したことはないな!

 双子は目に見えてやる気だ、オレも自分の手であの女を絶望させてやる気満々である。

 最期に、もう一人の出演者にも視線で問いかける――


「は……恥ずかしいけど、わかったよ……アベルはもうボクたちのものだって、ミリアに見せつけるのは……ボクもしたいし」


 恥ずかしがりながらも、しっかりと賢者へ復讐の意思を見せた。――それでこそリーダーだ。

 ハーレム初めての協力作業は、浮気女への復讐か。……それもいいな。








「――――じゃ、じゃあ……ミリアちゃんに送りつけるものだし、とりあえずあたしたちが見なきゃだよね……!」

「ついに、ご開帳〜……!」

「は、恥ずかしいよぉ……!」

「やれやれむっつりどもめ。……こいつらが見て大丈夫なのか?」



 ・ ・ ・ ・ ・



 アベル・シクサムは、鍛え上げ研ぎ澄まされた肉体を持つ。

《始祖》たるオレですら、素の体力では勝てない……しかも奴は、消耗しても片っ端から《回復魔法》で回復していく底無しだった。

 昨夜、オレとエルミーが味わったのは、凄惨な、天国とも思えるような――地獄だった。


「うわ、すっご……すごぉ……!」

「あ、あんなはしたない声……! まるで魔獣の雄叫びじゃない……っ。体もがくがく暴れて――!?」


 鋼のような肉体を存分に活かしたパワフルな攻撃――いや、もう、あんなの経験したら他では満足できないほどに強烈だった。


「ぜんっぜん途切れない……! アベル君のスタミナ凄すぎるよ……!」

「――ひぇ、こんなのを相手にするなんて……い、いやまだっ、わたしが上でリードすれば――」


 ようやく盛大なフィニッシュを迎えたと思ったら、《回復魔法》で即復活してくる。


「あっ、エルミーの声が途切れて……っ? もしかして気絶しちゃった? 意識吹っ飛ぶまで……? 容赦なさすぎ……っ! 次はレイナーレの声がどんどん激しく――」

「強くてけ、経験豊富なレイちゃんがねじ伏せられて、一方的に蹂躙されるなんて……ひぃっ! こんな、リードできるわけ――」


 凄惨な光景を、かたや受身な妹は張り付くように凝視し。

 かたや普段は攻めっ気を見せる姉は、怖気づくように腰を抜かして。


「あっ、見え――」

「あっくんの――」

「「でっ――〜〜〜〜ッ!?」」


 最期にあげた双子の声にならない悲鳴が、部屋中に響き渡った。


「やれやれ、生娘どもめ」

「うぅぅ――あれ、そういえばアベルはあんなに凄いのに、なんでミリアは浮気したんだろう……。初体験、失敗したって言ってたけど」

「あぁ……それは――」


 それをはたから見ていると、エルミーが真っ赤にしながら疑問を呟いた。

 あくまで、ピロートークの中で聞き出した情報からの推測だが――。


「――アベルのがデカすぎて、痛くて泣き喚いたんだろ。あんなもの、知識がない状態の初めてで、扱える方が珍しいからな」

「あ〜、そうかもね。あの子、あんまり我慢強くなかったからね。昨日は鍛えてるボクでも大変だったし」

「それでアベルは自分がヘタだと誤解したのかもな、仕方ないが。準備もできてないのに、あんなサイズで無理にしようとすれば……」

「――い、今更だけど、一緒に行ってくれてありがとう……!」


 礼を言うエルミーに微笑ましさを感じながら、オレは水晶の記録を編集する《無属性魔法》を思い出していた。

 心から憎い女への復讐だ。やる気が漲るというものだ。



__________________

紳士の方に向けて近況ノートにて【夜のステータス・アベル編】を公開しております。

気になる方はぜひ読んで、素直な方はご感想を。

登録してくれたサポーターのため、サポ限近況ノートにて、ヒロインのステータスも公開中。


苦手な方はその辺り無視していただければ……これからも何卒、本作をお楽しみに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る