第8話 僕と貴女との誓い
「ふ、ふふふ…………
しょ、少々取り乱しましたわね………
ま、まぁ、この程度でわたくしの信念は揺るぎようが―――」
「ア、アリスリーチェ様……
あまり喋られないように……
まずはマジックハーブティーの『魔力素』を体内に取り込むことを優先させてください……」
アリスリーチェさんは椅子に座り直し、青ざめた顔をしながら紅茶をチビチビと口にしている……
そんなアリスリーチェさんの様子をお付きの人達はハラハラしながら見ている……
そして僕はというと、お詫びの印にキュルルンゼリーを献上した。
「なんですのこの不気味な黒い物体はこんなものがわたくしの口に美味ッッ!!」とのことだ。よかった。
「なんにせよ……
貴方の大言壮語、わたくしは忘れませんわよ」
「ああ、はい、いや、その、はい……」
「いや、それは貴女も……」という言葉はなんとか引っ込めた。
―――カーーン………!
直後、鐘の音が広場に響き渡り―――
―――入学者の皆さんは学園校舎東側までお集まりください。繰り返します。入学者の――
音魔法によって増幅された入学者への案内の声が響いた。
「そろそろ入学挨拶が始まるようですわね。
それでは、最後に貴方のお名前をお聞かせいただけるかしら?」
「ああ、はい、そういえばまだでしたね。
自己紹介が遅れてすいません」
僕はアリスリーチェさんの目を見据える。
「僕はフィル。フィル=フィールです」
アリスリーチェさんは僕の名を聞くと、少し目を瞑り、言った。
「フィールさん……わたくしは誰よりも素晴らしい『勇者』になりますわ。
ガーデン家の誇りにかけて……
わたくしの信念にかけて」
「…………………」
彼女の言葉には一点の曇りもなかった。
「貴方は言いましたわね、
わたくしにも負けないくらいの『勇者』になる。
もう一度確認しますわ。
その言葉に偽りはありませんの?」
この人は、きっと強い。
『魔力値』なんてものは関係なく。
立ち上がっただけで倒れてしまうような身体であろうとも。
だって僕は、その姿に、力強い声に……
あの日の、あのスライムの姿を思い起こしていたのだから。
だからこそ、僕は答える。
「はい、絶対になります。
僕の信念と、誓いにかけて」
「誓い……」
僕のその言葉に、何を思ったのか。
アリスリーチェさんは詳しく聞こうとはしなかった。
代わりに―――
「ならば、わたくしもまた誓いを立てましょう。
貴方には、負けない」
「……!
はい!僕も誓います!負けません!」
僕の言葉に彼女はふっ、と笑みを浮かべる。
それを見て、僕もまた、笑う。
こうして……僕にはまた一つ、強くなる為の理由が増えた。
「それでは、また」
そう言って彼女は僕の前から豪勢な椅子ごと去っていく………
………ん!?
あ、よく見ると車椅子だコレ!!
ちゃんと後ろに取っ手もある!!
って、テーブルにまでキャスターついるし!!!
もしかして普段からこの一式のまま移動してるの!!??
絶対周りの邪魔になるでしょコレェ!!!!
爽やかに終わりそうだった僕と彼女の邂逅は最後の最後でツッコミどころをツッコミ損ねるという影を残したのだった……
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
《 学園校舎前 》
―――ザワザワ……ザワザワ…………
「ぜぇー……ぜぇー……
広場から校舎前までも結構距離あること忘れてた………」
アリスリーチェさんとの会話によって他の入学者から移動がだいぶ遅れてしまい必死に走って来た結果僕はまたも息絶え絶えとなっていた……
校舎前は既に入学者でごった返しになっている。
いつの間にか用紙から浮かんでいた数値は消えていた。
『魔力値』を他の人の目に晒すのは入学挨拶までって話だったっけか。
ちなみにアリスリーチェさん達は余裕で間に合っていたようだ。
なんでもあのお付きの人達が爆速で移動してたらしい。
あの椅子とテーブルを引きながら……
なんとか息を整えた僕は改めてその校舎を……元『魔王城』を見上げた。
「はぇ~……」
もう何度もその大きさに驚嘆したはずなのだが……
こうしてすぐ近くにまで来るとその迫力も段違いだ。
その建築物の全体像は上から見ると正8角形をしている……とのことだが果たしてそれを確かめるすべがあるのかどうか……
飛行魔法を会得したとして、それを知ることが出来る高度まで飛ばなきゃいけない、なんて考えると足が震えてくる。
一体何十、何百メートルの高さがあるというのか……
いや、桁がもう一つあってもおかしくはないだろう……
横から見た形は、遠くから見ると上に向かうにつれて細くなっていく単純な画錐の形状だが、近くまで来るとまるで積み木のような段組みの構造になっていることが分かる。
僕ら入学希望者達はその1段目の前に集まっているということだが……
1段目だけで5,6階はありそうな高さだ……
そして、それが数十段にも及んでいる………
ちなみに広さに関してはここからでは全く分からない。
何せ建物左右の果てが遥か彼方に見えるのだから……
うーーん、見れば見る程、考えれば考える程くらくらしてくる……
そして、この建物が勇者学園の校舎となるのだという。
僕が生涯の内でこんな物凄い建物に入ることになるなんて、とてもじゃないが想像できなかったことだ……
そんなことを考えていると―――
「なぁ、あの話って、本当かな」
周りからの入学者達の話が僕の耳に入って来た。
「この入学挨拶で、勇者様が来てくれるって」
「!!」
僕は思わずその声の方へ顔を向けてしまった。
「ああ、さっき受付の人達に聞いてみたけどよ
勇者様は今も多忙で大陸中あちこちで活動しているんだけど、
『勇者学園に『勇者』が姿を見せないわけにもいかないだろう』
って何とか時間を作ってくれたらしいぜ」
「マジか!俺、生の勇者様初めて見るぜ!
今まで銅像とかでしか見たことなかったんだ!
っていうかもしかして今でも不眠不休なのか勇者様……」
勇者様……
あの日、僕の村が魔物の群れに襲われた時、助けてくれた人……
僕の憧れ……僕の強くなりたいという願いの、その原点……
―――まもなく、入学の挨拶が始まります。入学者の皆さんはどうかお静かに願います。
僕がそんな思いにふけっていると、いよいよ入学挨拶のアナウンスが入る。
そして、先程までのざわつきが嘘のように辺りは鎮まりかえると………
―――コツ、コツ、コツ………
足音が入学者達の耳へと聞こえて来た。
それは前方の校舎の少し上側、バルコニーの奥から響いてくる。
そして――――――『彼女』が姿を現した。
「やあ!!次世代の『私』達!!」
初代勇者、『アルミナ=ヴァース』が。
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