『異民監査【本編完結済】』感想

タイトル:異民監査【本編完結済】


作者:小林勤務


作品URL:https://kakuyomu.jp/works/16817330654759256985


キャッチコピー:あらゆるものはリスクマネジメントできるのか――。保証が導く悪夢の罠とは


あらすじ:

【仕事×ホラー】あらゆるものは可視化できない。この世界は確実に破滅へと向かっている――


突然とも思える人事により、内部監査に異動した秋山は、先輩監査人である高城小雪とともに、様々な監査を遂行していく。

あらゆるものには、ガバナンス(統治)が存在し、ルールが定められている。

それらに対して準拠性を確認していくなか、秋山は保証(アシュアランス)という定義に疑問を覚える。

見えた(確認した)ものに対して保証はできても、見えないものの(確認できない)リスクは拭えない。

どんな組織、世界にも逸脱は起こる。

では、見えない、確認できないものはどうなる。

秋山は人知れず暗い過去を抱えていた。

秋山は――人成らざる者が見えるのだ。


保証とは何か。

それは起こってしまった過去に対してなのか、それとも来るべき未来に対してなのか。

保証できるのは目に見えるものだけなのか。


約12万文字、50話予定。

保証に潜む悪夢の罠が幕を開ける――


読了時の文字数:116000文字完結済


送った星:☆☆☆


送ったレビュー:『「この世界は問題ない。大丈夫だ」なんて、一体誰が『保証』できる?』

『内部監査』というお仕事モノに、ホラーの要素がどう絡んでいくのだろうと、最初は期待と不安が半々でした。

しかし読み進めていくうちに、胃が痛くなるほどの『現実』を感じる業務パートと、不穏に這い寄ってくるホラーものの『非現実』感が混ざり合わさり、「これ以上の組み合わせはないでしょ!」と最終的には納得させられる完成度でした。

心霊現象に襲われさぁ怖い、といった内容ではなく、むしろもっと根源的な恐怖や嫌悪感が湧き上がってくる、人間の本能に訴えかける『ホラー』作品だと思います。凄まじい作品です。



感想

感想書くマンの第6弾レビュー企画、最後の応募作。ラスボス第三関門。最終にして最凶(?)のお仕事×ホラー作品。異世界×ホラー作品を数日後に出版する僕からすると、奇妙な運命を感じる流れです。いってみましょう。


大手食品メーカー『ユニバーサル食品』の営業担当として働いていた『秋山明』は、人事異動によって『内部監査部』へと配属される。

同じ部署の先輩である『高城小雪』と共に、社内の業務が適正かつ効率的に遂行されているか、何か不正や不祥事はないか、リスクマネジメントができているか調査・報告していくことになる。

しかし、とある支店へ監査に入ってから、秋山と小雪、二人の日常は不穏な影に侵食されはじめてしまう。やがて当たり前の現実や世界の歯車は徐々に、それでいて確実に、大きく狂い出していく――。


読む前は、『ホラー』に『お仕事』モノを混ぜる部分が目新しいなと思いました。そして同時に、この一見真逆な、相反するような要素を上手く絡ませることができるかどうかが、評価の分かれ目になるなとも感じました。


そうして読み進めていったら……もうトマトとモッツァレラチーズくらいの組み合わせだったんだな、と新発見でした。インサラータ・カプレーゼ級の驚きです。


『内部監査』というどこまでも現実的な、多くの企業が行っている(はず)のテーマを採用し、それを緻密に表現することで、現代モノお仕事作品としてのリアリティを強く押し出しています。

そんな『現実』があるからこそ、内部監査中や日常の中で不意に現れる『非現実』というものが、強烈なまでに浮かび上がってきます。


ルールやマニュアルに則って正しく業務が行われているか、何かリスクに繋がるような『外れている、踏み外している部分』がないか厳しくチェックする『内部監査人』達が主役だからこそ、この世の理から外れた存在の不気味さ、嫌悪感や忌避感が、普通の心霊モノよりも色濃く表現されています。凄い対比です。


ジワジワと忍び寄ってくる『影』や『闇』、先の読めない展開などはまさに王道のホラーものです。しかし今作は単に「仕事中にオバケが出てきて、内部監査の男女バディがやっつける」とか、妖怪・怪異が出てくるとか、そういう次元の物語ではないです。文字通り『次元』がね。

もっと深い部分、おすすめレビューでも書きましたが人間の持つ根源的な恐怖や嫌悪、正しさや『保証するとはどういうことか』というのが描かれています。なので『心霊』ではなく厳密に『ホラー』作品なわけです。


正直言うと、「前回の企画にも応募してくれた作者さんだから」とか「最後の応募作だからラストに星3出して気持ち良く企画を終わらせたい」とか、そういうことは一切考えていませんでした。

『内部監査』というテーマと『ホラー』のテーマがもし上手く混ざりきっていなくて、それぞれの要素がバラバラに散らばっていたら、普通に星2で企画を終わらせるつもりで読んでいました。

しかし今作は、そんな一抹の不安を見事に吹き飛ばしてくれました。二つのテーマ性がガッチリ結びついています。

スタート地点から既に発想の勝利なのに、それをちゃんとラストまで描ききっててくれたので、文句無し星3つです。「内部監査でホラーを書いてみよう」って思い浮かんだのが、本当に凄いです。


まぁただ、その内部監査人としての業務内容や、社会人としての描写が精巧すぎるというのが、取っ付きにくさに繋がっているとも感じました。ベタ褒めで終わると思ったかい?終わらないよ。


と言うのも、他部署から嫌われやすい『内部監査』という主題であり、それらのシーンがシッカリ書かれている、むしろ書き込まれ過ぎているせいで、サラリーマン経験が少ない僕ですら読んでいて胃がキリキリしましたもん。

よく「展開が遅い」とか「内容が支離滅裂で矛盾だらけ」という物語に対して『ストレスが溜まる作品』って批判が来ることもありますが、『異民監査』はお仕事モノとして完成度が高すぎるせいで、登場人物と一緒にストレスを感じてしまいます。働きたくないでござる!

あんまりスーツ着ていない僕ですらダメージを受けたのに、普段から激務に苛まれている人達が読んだら「なんで趣味のWeb小説を読んでいる時まで、仕事してる気分にならにゃいかんのだ……」って感じちゃうかもしれません。


まぁそれだけ作品としての切れ味や、物語への没入感が凄いという証拠でもあるんですけど。

そしてその没入した物語の世界で、あなたを待ち受けるものとは――……それはネタバレになるので、是非最後まで読んでみてください。読み始めた時には全く予想していなかったスケールのオチになります。

内容の良さに対して、評価がまだまだ低すぎると思いますね。非常に斬新で興味深く、面白い作品でした。


企画の最後にこの作品を読めて、本当に良かったと思います。ありがとうございました!

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