第16話
大会当日。
この三日間、エリシアは主にナインの指導のもと特訓した。基礎体力は時間がたりないのでどうしようもないが、様々な技術を身に着けたはずだ。
なんか庭でダンスをしていたようにも見えたが、ナインによると彼女の中にある数百の戦闘データのなかからエリシアにあった戦い方を伝授していたそうだ。
俺はというと、可能な限り実践の感覚を研ぎ澄ませたかったので王都の外に出てモンスターを狩りまくっていた。
会場に到着すると、多くの屋台が軒を連ねていた。
そのほとんどは観客向けの食べ物屋で、ナインはしこたま買い込んで独り占めしていた。
「ええ!? ナインが出場できないんですか!?」
「ナインが出場できナイン……なんちゃってぇ」
「冗談言ってる場合じゃないだろ!」
「てへぺろりんころ丸ぅ」
「なんで駄目なんですか!?」
大会運営スタッフの受付に問いただすと、彼は首を左右に振った。
「当然だろう。これは人間のための大会なんだ。他の種族ならまだしもゴーレムは出場できないよ」
「そ、そんなぁ……。で、でも! ナインはアレクの所有物なんですよ! 武器として扱えばいいんじゃないですか!?」
「駄目駄目。武器は本人が扱うものに限ることになっているんだよ。じゃなきゃ本人の千喜良が計れないだろう?」
もっともな意見だ。
しかし、これはまいった。
ナインが出場できないとなると、人数が足りなくなってしまう。
「やっぱりシスターをつれてくるべきだったのかしら……」
「そんなこといまさらいったってねぇ」
ナインが黄金のダンベルを持ち上げると、受付の目の色が変わった。
「そ、それは! マッシブ教のトレーニーに与えられる黄金のダンベルじゃないか!」
「知っているんですか?」
「ああ。テストステロン神が使ったとされるダンベルのレプリカ。真に筋肉を愛する物にしか授けられないマッシブ教において最高の栄誉とされるトレーニング器具だ。このダンベルを用意したことでマッシブ教はつねに財政難なんだよ」
「く、詳しいですね……」
「実は俺もマッシブ教徒なんだ。いまは教会のために出稼ぎ中でね。俺以外の修行僧も世界各地で資金集めにいっているよ」
「ええ!? シスターはそのことを知っているの!?」
エリシアが尋ねると、受付は首を左右に振った。
「いいや。シスターにはなにも心配をかけたくなかったからみんなで内緒にしようって決めたんだ。俺たちはシスターを敬愛している。彼女のためならこのくらいのサプライズは朝飯のプロテイン前さ」
そういって受付は胸の筋肉をぴくぴくさせた。
それはそれでシスターが大変な勘違いをしていることを知っているのだろうか。
「しかし、君がそのダンベルをもっているのなら出場も可能だろう。それは筋肉の魂。魂あるものは人間として扱われるべきだからね」
「あーし別に人間になりたいわけじゃないけど……まぁいっかぁ」
受付をすませると、手の甲に数字のスタンプを押された。これは選手であることを証明すると同時に、ゼッケンの代わりになるそうだ。
「選手の方は控室にきてくださーい」
スタッフに呼ばれたので控室に向かおうとすると、エリーゼさんたちが見送ってくれた。
「がんばってらっしゃい、エリシア」
「うん! あれ? お母さん、また庭いじりしてたの?」
エリシアの言う通り、エリーゼさんは手に軍手をはめていた。
「ええ、そうよ。慌てて来ちゃったの」
「もう、お母さんったらそそっかしいんだから」
「うふふ、ごめんなさい。さあ、がんばってらっしゃい」
俺たちはエリーゼさんたちをあとにして、選手控室に向かった。
控室の中にはすでに何人もの選手が集まっていた。
ボロボロの鎧を着た傭兵らしき男たち。ナイフを研いだり煙草をふかしていたりとずいぶん柄が悪い。
重装甲を纏った騎士。手にもったランスを丁寧に拭いている。
黒いローブを着た集団。顔を寄せ合ってなにやらにやついている。
戦士、魔法使い、僧侶というバランスのとれた面子もいる。
彼らは、なんというか、ずいぶん気が抜けているというか、観光気分なのか全員綿菓子をかじっている。パーティー的には物語の勇者一行って感じだ。
ふと、赤い鉢巻を巻いた戦士の男がこちらを見て、にこりと微笑み手を振ってきた。
俺も反射的に手を振り返してしまった。ああいうのをキザというのだろうか。
エリーゼさんがいっていたとおり、集まっている人たちはみんなそれなりの実力者のようだ。
あくまでもそれなりにしか見えない。
「おいおい、あれって竜を狩ったといわれてる傭兵団のツヴァイクロウだろ?」
「あっちにいるデカいのは鎧袖一触のアランだろ? 騎士団でその名を知らないやつはいないぜ」
「あの黒ローブ、まさか
「どうなってるんだ今回は! いつもならむしろ優勝を譲るために賄賂が横行するってのに、なんで今年はこんな武闘派ばかり集まったんだ!」
なるほど、前に会った黒騎士が闘技大会を八百長だといっていたのはそういうことだったのか。
優勝すれば魔王と戦うことになる。そんなの一般人からしたら死刑宣告と同じだ。
だからみんな、勝利を譲りたがる。
ただし、今回は例外のようだ。
「おや? ナンバー44の方が見当たらないようですが……」
水晶を持ったスタッフが周囲を見回していた。あの水晶はきっと、俺たちのスタンプに反応しているのだろう。
スタッフがきょろきょろしていると、控室の扉が開いた。
入ってきたのは喪服のような黒づくめの服にそれぞれ月と太陽と星の仮面をつけた集団が入ってきた。
「遅れてすいません」
中央の黒いドレスを着た女がいった。ずいぶん動きにくそうな格好だが、あれで戦うのだろうか。目元を隠している月の仮面も視界が悪そうだけど。
なんにしたってあれじゃまるで仮面舞踏会だ。
「あれ? ねぇアレクくぅん、あれってさぁー」
「どうしたナイン? なにかーー」
「全員集まりましたね。それではこれよりルールを説明いたします! みなさまご清聴ください!」
「おっと、話はまたあとにしよう」
「んー、わかったよぉ」
まずはしっかりとルール説明を聞かないとな。
「ルールはいたって単純。ひとつは相手を場外に落とすこと。もう一つは相手を戦闘不能にすること。チーム全員が戦闘不能状態となった場合、相手チームの勝利となります。また、これはあくまでも試合ですので、相手を殺してしまった場合や致命傷を与えた場合などは、審査委員会の話し合いによって勝敗が決定いたします」
戦闘不能状態で終わらせなければならないってわけか。
三対三のチーム戦だから、ヨームさんと手合わせしていた時みたいに寸止めというわけにもいかないだろう。
力の加減が難しいな。場外に押し出す作戦でいくのが無難かもしれない。
できれば自信のない人は棄権してほしいところだ。
そんなことを考えていると、背後で突然爆発音がした。
選手の面々が一斉に振り返ると、傭兵部隊の一人。ウエスタンハットをかぶった猫耳の女が天井に銃を向けていた。
もしや、撃ったのだろうか。
なんで?
「まず最初に言っておく! 今回の闘技大会はいままでみたいな腑抜けたもんとは違う! 正真正銘、ガチの殺し合いだ! あたしらは本気で魔王と戦ってあのクソったれの【ピー】野郎をぶっ殺すつもりでいる! もしも記念で出場するとかだれかに金を握らされて出場しているとかそんな【ピー】野郎がいるならいますぐここからでていけ! 以上!」
猫獣人のガンマンはいうだけいって、ふっ、と銃口から立ち昇る硝煙を吹き消した。
それにしても口が悪いな。男性器に恨みでもあるのだろうか。
しかし彼女の発言は効果があったようで、かなりの選手が辞退を宣言した。
残ったのは金のためでも名誉のためでもなく、魔王と戦うために集まった人々ということになる。
「あらら、残ったのは六組だけですか。しかたありませんね」
それからトーナメントのクジを引いくことになった。
エリシアが引いたのは二番。つまりトーナメントの二回戦。
俺たちの対戦相手は黒ローブの集団だ。
黒ローブたちは俺たちをみてにやにやと笑っている。
「なんだか薄気味悪い連中ね……」
「あいつら夜会の連中だからねぇ」
「夜会ってなんだ?」
「有名な裏組織だよぉ。なんでも死体を使っていろんな魔術実験をしてるんだってぇ。おおかた魔王の死体が手に入ったら強い生物兵器が作れるとかそんな魂胆でしょー」
有名な裏組織ってなんなんだろう。
よくわからないが考えるのも無駄だと思い、俺たちはひとまず第一試合を観戦することにした。
控室から外に出るとそこは円形上のコロシアム。
砂地の中央に四角い石造りのリングが設置されている。
すでに第一試合の選手である勇者一行(仮)と重装甲の騎士団が向かい合っている。
『それではながらくお待たせしました! 王都恒例、闘技大会! これにて開幕でございまーす!』
コロシアム中に拡声魔法の声が響き渡ると、割れんばかりの歓声が巻き起こった。
「すごい熱気だな」
「王都の人たちはずっと昔からこの闘技大会が好きだから」
「そうなのか?」
「うん。もともと騎士団の中で行われる力比べだったんだけど、それがいつしか一般人も見に来るようになったの。それで初めての闘技大会の優勝者がわたしのお父さんだったのよ」
「そうだったのぉ!? エリシアちゃんのお父さんってすごいんだねぇ!」
「お父さんは騎士団長だったから負けられなかったんだろうね。でもそれからも何度も優勝しているんだよ。お父さんが優勝しすぎていまのチーム戦にルールが変わったの」
個人だとエリシアのお父さんが勝ってばかりいたからか。
相当強かったんだろうな。
「いまは魔王のせいでいい選手が集まらなくなっちゃったけど、昔はみんな純粋に力比べをしてた。わたしはずっとずっと小さいころにお父さんが優勝するところを見て、あのリングの中央で肩車してもらったの。……いまでもあの時の光景が忘れられないよ」
きっとエリシアはかつてのような闘技大会に出場したいのだろう。
この大会を変えてしまったのは他でもない親父だ。
俺が感じる責任は、ますます大きくなっていく一方だ。
「きっと昔みたいになるさ」
「……うん」
第一試合が始まる。
『それでは両チームとも準備はいいですかー!? レディー……ファイ!』
まず攻めにいったのは勇者(仮)チーム。戦士が額につけた赤い鉢巻をたなびかせて先陣を駆け抜ける。
彼を迎え撃とうと、重装甲チームは扇形に体を寄せ合い、盾の隙間から槍を突き出した。完全防御の構えだ。
「甘いよ!」
戦士は槍を踏み台にして飛翔した。空中で身を翻し、中央の騎士に狙いを定めた。
「むん!」
重装甲騎士は盾を上に構えようとしたが、持ち上がらなかった。
よくみると、盾の下半分が土に覆われて固められている。
魔法使いの地属性魔法だ。
防御を諦めた騎士たちはそれぞれの槍で戦士を貫こうとした。
「はあああ!」
その時、僧侶の防御魔法が展開された。
緑色の膜のようなものが戦士の体を包み込み、槍を受け止めた。
「よし、入り込んだ!」
戦士が重戦士たちの中に入り込むと、突然彼の体が赤色の光を帯びた。
……あれは。
「はああああああああああああああ!」
赤色の光を帯びた戦士は剣を横なぎに振るった。凄まじい斬撃によって重戦士たちは吹き飛ばされ、そのままダウン。
素晴らしい連携。それにあの技。
「あれ、バーサーカーだねぇ」
「ああ、てことはあいつ……」
「魔族だねぇ」
ナインは知っているようだった。
魔族は魔力の体内含有量が他の種族に比べて桁違いに多い。
それゆえに神に愛されすぎた存在ともいえる。
産まれた時から魔力を制御できずに突然変異を起こすものがおり、それが異形となるのだ。
稀に普通の人間のような姿で産まれてくることもあるが、魔族の特徴として体内の魔力を一気に開放して身体能力を格段に上昇させる技がある。
俺が使う身体強化魔法のように体に負担がかかるわけでもなく、純粋に強くなるだけの技。そんなチートみたいな魔法が使えるのは魔族だけなのだ。
勇者(仮)チームは観客たちに愛想をふりまきつつ、倒れている重装甲騎士たちを助け起こして退場していった。
なんか、爽やかな奴らだな。
「さ、次はわたしたちの番よ!」
「おう!」
「んにゃあー、やる気でないぃー」
リングにあがると観客たちの歓声が一際大きく聞こえた。
「大丈夫、緊張しないで。わたしたちがいるわ」
エリシアがそういって背中を叩いた。頼りになるな。
相手はあの黒ローブの連中だ。なにをしてくるかわからないし、まずは相手の出方を伺うか。
エリシアに目配せすると、彼女はこくりと頷いた。
よし、伝わったな。
『それでは第二試合! レディー……ファイ!』
よし、まずは作戦通り相手の動きを……って、なにぃ!?
開始の合図とともにエリシアがつっこんでいった。
「なにをするかわからない以上、何かされる前に倒す! そうでしょアレク!」
「ちがーう! ぜんぜんちがうってーの!」
「あちゃー、エリシアちゃんが一番緊張してんのかもねぇー」
エリシアは地面を蹴って飛び上がり、レイピアの連続刺突を繰り出しながら特攻した。
「やああああああああ!」
「む! なかなかの剣捌き! くらえ、バインド・ローズ!」
黒ローブたちはいっせいに魔法を放った。
彼らの手から伸びた茨がエリシアの体に絡みつこうと迫る。
いかん、このまま捕まったら非常に不味いぞ。
「無駄よ!」
そう思っていたが、エリシアは茨をすべて切断し、黒ローブたちの前に着地した。
まず一番近くにいた一人の腹に蹴りを入れた。
「げふぅ!」
うずくまった黒ローブの背中をとびこえて左側の黒ローブの肩をレイピアで一突き。
「うぎゃあ!」
「おおっ!? い、イルミナティ・ブラック!」
最後の一人が煙幕魔法を展開。
エリシアも黒ローブたちも煙の中に包み込まれた。
「ふはははは! さあこれでどこにいるのかわかるまい!」
「……魔力を溜めて……」
黒い煙幕の中から、赤い光が放たれた。
「は?」
「放つっ!」
ぼっ、という音ともに凄まじい衝撃波が発射された。
煙幕は一瞬で消し飛び、最後の黒ローブの顔の横にレイピアが突き出されていた。
黒ローブは頬から血を流し、へなへなとその場に尻もちをついたのだった。
「こ、降参……です……」
黒ローブの降参によって、俺たちは勝利した。
エリシア一人で制圧してしまった。
とてもゴブリンに苦戦していたとは思えない戦いっぷりだった。
「エリシア! お前、すごいいい動きだったぞ!?」
「えへへ。対人戦はアカデミーでもよくやっているからね。魔物戦より得意なの」
「いやぁ、あーしとの特訓の成果もでてたみたいで嬉しいよぉ」
「……ちなみにどのへんにでてたんだ?」
「黒ローブの背中を飛び越えたあたり」
「そうなんだ……」
よくわからんが、そういうことにしておこう。
なにはともあれ初戦は難なく突破した。
次は第三試合。仮面チーム対傭兵チームだ。
どちらも底がしれない雰囲気を漂わせている。
特に傭兵チームはかなりの場数を踏んでいるであろうことは見ればわかる。
あの髭面は鎧が傷だらけだ。けど腕や顔にはひとつも傷がない。全ての攻撃を紙一重で躱している証拠だ。
スキンヘッドは背中に背負っている両刃の斧の大きさからしてかなりの怪力のようだ。
単なる力自慢なら取るに足らない相手だが、右腕につけている
それに三人目のあの猫獣人。ルール説明の時の破天荒さといい、なにをするかわからない。
とはいえ仮面チームもただものじゃないのは見ていればわかる。
三日月の仮面をつけた黒ドレスの女は凄まじい魔力を感じる。
後ろの二人はどちらもスーツ姿で、太陽の仮面をつけた細身の男はすばしっこそうだ。
星の仮面をつけた犬耳の獣人は、あの人だけそれほど強そうに見えない。大きな鞄をもっているが、あれが武器なのだろうか。
力を隠しているのだとしたらかなりの手練れだ。
『第三試合! レディ……ファイ!』
試合が始まった。
先ほどの二戦はどちらも速攻だったが、今回はお互いに動かない。
黒ドレスの女が右手をすっとあげた。
傭兵チームが警戒して武器を構える。
黒ドレスの女がぱちん、と指を鳴らした。
するとどうだろう、犬耳の獣人が鞄を開いた。
なかから折り畳み式のテーブルと椅子を取り出し、ティーカップを並べて水筒からお茶を注ぎ始めた。
『おーっと、どういうことだ!? 急にお茶会が始まってしまったぞー!』
実況も驚いていた。そりゃ驚くだろう。リングの上でお茶を飲み始めるなんて前代未聞過ぎる。
「なめてんじゃねぇぞコラ!」
猫耳ウエスタンハットが引き金を引いた。
放たれた銃弾はまっすぐ黒ドレスに向かっていくが、空中で切断された。
「手出しはさせませんよ、お嬢さん」
太陽の仮面をつけた黒スーツがナイフを逆手に持っていた。
いま、あの男が銃弾を切った。
俺の見識眼でさえなんとか見切れるレベルのスピードだ。
案の定、エリシアもナインもなにが起こったのかわかっていないようだった。
「かかってきなさい。三人まとめて遊んであげましょう」
「いいか、一人ずつ確実に潰していくぞ!」
「しゃおらあああああああああ!」
髭面の男と斧の男が仮面男に切りかかった。
二人の刃が男に触れた瞬間、どろん、という奇怪な音ともに仮面男の姿が消えた。
「こっちです」
仮面男は髭面と斧男の背後に回り込んでいた。
「にゃああああああああああああああああ!」
すかさず猫耳ウエスタンハットが地面を滑りながら銃を乱射。
仮面の男は飛び上がり、空中で足を伸ばして髭面と斧男の顔面を蹴った。
二人はそれぞれ防いだが後方に吹き飛ばされた。その先にいるのはいまだお茶を嗜んでいる黒ドレス。
二人は体を反転させて黒ドレスに切りかかろうとした。
ところが、不自然な格好で二人の動きが止まった。
「どこへいこうというのです?」
仮面男が両手広げていた。奴の指先から透明な糸が伸びている。魔力を帯びた糸だ。
「あの人、なんかやばくない?」
魔力探知が働いたのか、ナインも気づいたようだ。
このままあの糸を締め上げれば、髭面と斧男の体はばらばらになる。
「ジ・エンドでございます」
仮面男が腕を交差させた。
すると髭面と斧男の体がぐん、とリングの中央に引き寄せられた。
二人は透明な糸でぐるぐる巻きにされ、身動きがとれなくなったのだった。
「ああもうなにやってんだいあんたたち!」
「さぁて、あとはあなただけですよ、お嬢さん」
「ちっ!」
猫耳と仮面男の一対一の状況になった。
「まって」
ここにきて、黒ドレスが手をあげた。
「いかがなさいましたか」
「このままじゃ退屈だわ。その子はわたしに任せてくれるかしら」
「おおせのままに」
仮面男が引き下がり、代わりに黒ドレスがリングの中央に出てきた。
「あたしを退屈しのぎにしようとしたこと、後悔させてやる!」
「あらそう。でもごめんあそばせ。もう終わっているわ」
黒ドレスが指をぱちん、と鳴らすと、猫耳は「にゃ」と一言発して失神した。
「完・全、勝利よ!」
黒ドレスは扇を開いて天に掲げたが誰も拍手をしない。
あまりにも実力差がありすぎてなにが起こったのかわかっていないのだ。
俺ですら、最後の一撃がどんな攻撃だったのかわからなかった。
「あら恥ずかしい。わたしだけもりあがってしまったわ」
仮面チームはそそくさと退場した。
「本当に、何者なんだろうなあの人たち」
「だからあれってさぁー」
「初戦を突破した方はシード枠のクジを引きにきてくださーい!」
「あ、はーい。ほら行くぞナイン」
「う、うん……」
これで準決勝のカードが出そろった。
俺たちはもう一度クジを引いて、仮面チームがシードになった。
次の試合はあの勇者(仮)チームだ。
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