第26話 谷中銀座商店街
千駄木駅の周辺まで到着したので、大通りから入り組んだ道に入り、俺は雪野を谷中銀座商店街まで案内する。
谷中銀座商店街は以前の浅草同様に、下町情緒が感じられる素晴らしい商店街で、食べ歩きのスポットでもあり、多種多様な店が建ち並ぶノスタルジックな街並みが特徴的。
下町らしい温かみがあって、日本らしさがいつまでも残っているのがこの谷中銀座の良さであり味だ。
「おっきい門……」
雪野は谷中銀座の入り口にある大きな門を見上げた。
「ここが、さっき言ってた商店街?」
「ああ。ここは猫の街谷中を代表する谷中銀座商店街。猫の街っていうだけあって商店街の中には猫の置き物があったり、弁当屋からお惣菜店、有名スイーツの店まで何でもあるぞ?」
「スイーツ……じゅる」
雪野は想像通りのリアクションを示した。
「スイーツ奢り……忘れてないよね」
神社で奢るって言ったことをちゃんと覚えてる雪野。
覚えててえらい! と褒めてやりたいが、俺としては忘れていてくれた方が都合が良かったんだが……無理だよな、そんなの。
「分かったよ。食べたいもの食べろ。あ、でもスイーツは最後にするとして、まずは揚げ物でもどうだ?」
「揚げ物……っ! 食べたい!」
俺から提案したとはいえ、ダイエット中なのを完全に忘れてる発言だな。
まぁ根津駅からここまで結構歩いたわけだし、いいよな。
谷中銀座に入ってしばらく進むとお惣菜店が見えてくる。
「メンチカツ……コロッケ……」
雪野はメンチカツとコロッケを何度も見比べながらどちらにするか悩んでいた。
「よし決めた……メンチカツとコロッケ両方ください」
「お、おい雪野、大丈夫なのかよ」
「食べたいもの食べていいって言ったのは温森くんの方」
「い、いや、そうだけどさ……」
ダイエットとは一体なんだったのか。
お惣菜店の店主からメンチカツとコロッケを両手で受け取った雪野は、店の横に移動するとアツアツの狐色を無邪気に頬張った。
「これ、超好き……っ! あつあつじゅーしー」
はい、超好きいただきました。
アツアツジューシーとか言われたら俺も食いたくなって来たな。
「あの、コロッケ一つ」
俺も雪野に便乗するようにコロッケを頼む。
俺も雪野と同じく店の隣に移動して、雪野の隣に並びながらコロッケを食す。
「うっま……やっぱ揚げたて最高すぎるだろ」
アツアツでサクサクな衣の食感と、口いっぱいに広がる肉とジャガイモの旨みが完璧にマッチしている。
「じー」
両手の揚げ物がなくなった雪野は、やけにじっとこちらを見つめている。
あっ……この流れは。
「こ、これは俺のだ! あげないからな」
「違う。すぐわたしを食いしん坊キャラにしないで」
いや、自業自得だろ。
「写真……撮ってあげようかと」
「え、写真?」
「さっき猫の石像の前でわたしの写真を撮ってくれたみたいに、温森くんの写真も撮ってあげる」
雪野は自分のスマホを取り出すと、カメラをこちらに向けた。
「お、俺の写真なんて、撮っても」
「これは二人時間だもん……思い出は、二人で残さないと」
雪野は優しい笑みでそう言った。
そう、だよな。
俺たちは二人時間なんだもんな……。
「じゃあ撮るね、はい、ちーず」
俺は雪野の合図に合わせてぎこちない笑顔を浮かべ、コロッケを口にしながら写真に収まった。
「ふふっ……変な顔」
「なんだよ! 文句あるなら消してくれ!」
「やだっ」
雪野は小さく舌を出すと、スマホをポケットにしまった。
な、なんなんだよ……。
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