第11話 天使とスイーツ04


 ベビーカステラが無くなったからか、寂しげで儚い表情になる天使。

 クレープもベビーカステラもあれだけ食べたんだからもう満足だろ!


「……温森くん」

「な、なんだよ」

「お腹空かない?」

「空いてるわけあるか!」

「むぅ……」

「ま、まだ何か食べたいのか?」

「違う……ただ、わたしは温森くんがまだ何か食べたいかなって」


 天使は目を泳がせて誤魔化す。

 こんなにスレンダーな身体のどこに入るのやら。

 まぁ、これでも天使は女子高生だもんな。

 街歩きをしていれば、凄い量のスイーツを食べ歩く女子高生が何人もいた。

 女子って底が知れない。

 徐々に本性を表し始めたな天使。


「なら、最後にちょっと寄っていくか?」

「……え? まだあるのっ? 抹茶?」


 パッと明るい表情になった天使は、嬉しそうに反応した。


「でも次が今日最後の抹茶スイーツだからな?」

「うん……行きたい」


 天使は頷きながらそっと笑みを溢す。

 なんていうか、天使は妹みたいだ。


 ちょっぴりワガママで甘やかすと嬉しそうで。

 ついこの間までの冷たくてクールな印象はもう無かった。

 これが天使の本当の姿なんだな。


 ✳︎✳︎


 雷門方面の浅草駅へ向かって歩きながら、その道中にある今日最後の抹茶スイーツを食べに行く。

 さっきのベビーカステラ屋から徒歩5分の場所にある抹茶モンブランの店。


 コーンの上に抹茶色のモンブランが上に乗ったソフトクリームのようなスイーツで、浅草のスイーツの中でもかなり人気がある。


 天使は店先にある抹茶モンブランのメニューを見るやいなや目を輝かせた。


「このスイーツ……最っっっ高」


 はい、食べる前から最高をいただきました。


「ここの抹茶モンブランもかなり有名なんだよ。よく動画で見かけるし」

「早くお店、入ろう」


 天使は子供みたいに興奮しながら俺の制服をグイグイ引っ張りながら店内に入った。


「抹茶モンブラン二つ」

「かしこまりましたー」


 俺は店に入ってすぐに抹茶モンブランを注文し、決済を済ませる。


「温森くん無理してない? さっきもうお腹いっぱいって」

「無理なんかしてないよ。それに」

「ん?」

「さっき雪野が言ってた『二人で食べた方が美味しい』って気持ち、俺も分かるんだ。だからシンプルに食べたくなったんだ」

「そ、そっか……」


 天使は小さくはにかんだ。


 こうして話している間にも、抹茶モンブランは目の前で作られていく。

 片手サイズのソフトクリームコーンの中に、抹茶モンブラン、レモンジャム、寒天ゼリー、粒あんなどが層のように重なっており、その上にマスカロポーネクリームを乗せて、さらにその上にモンブランの機械を使って、繊細なモンブランが搾られてクリームの無数の糸が山のように重なる。

 こうして生搾りの濃厚な抹茶モンブランが完成した。

 抹茶の香りはとても上品で、さらに頂点には金箔が乗せられているので高級感がある。


「お待たせしましたー」


 俺は二人分の抹茶モンブランを両手で受け取ると、一個天使に渡した。


「ありがと」

「そこに座って食べるか」


 俺たちは店内の木製ベンチに並んで座りながら抹茶モンブランを食べる。

 それじゃあ、一口……っ!?


 和栗の優しい味わいと抹茶の深い味わいが重なって、舌に濃厚な抹茶モンブランの甘味が伝わる。

 う、美味すぎる……抹茶も濃くて甘さとのバランスも完璧だ。

 それにこの、抹茶モンブランの中にあるマスカロポーネクリームとの相性も最高で、コーンの中の層になった甘味も抹茶モンブランと一緒に味わえて良い。


「んふ〜」


 天にも昇るように嬉しそうに息を漏らす天使。

 どうやら俺と同じ感想みたいだ。


 浅草の街歩きをするつもりだったが、すっかり抹茶スイーツ巡りになってるな。


「温森くん」

「どうした?」

「……このモンブラン、超好き」


 "超"好きらしいです。

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