第46話 再会


いつものようにタミアの街をエルダさんと一緒にぶらついていた。


「ねぇ、りふとくん……ハフハフ、これおうしいね……モグモグ」


「確かに、美味しいけど良く飽きないね」


エルダさんはたこ焼きモドキを食べながらご機嫌だ。


「だって、美味しいんだもん」


しっかりもののお姉さん。


それが、俺にとってのエルダさんだったけど、案外子供っぽくて可愛いらしい面も多くある。


ハーデルさんやルシファードさんの話では、こう言う顔は親しい人間にしか見せないという話しだった。


エルダさんの笑顔を引きだせた事が、今の俺には凄く誇らしい。


「ほうら……口元にソースがついているよ……ぺろっ」


「リヒトくん……その、ありがとうね」


前にハンカチで拭いてあげたんだけど、この前の宴会の席でアリアさんに『そういう時は舌で舐めとってあげた方が好感度高いよ』と教えて貰ったので試してみたんだ。


エルダさんの顔が赤い。


うん、勇気だしてやってみて良かったな。


しかし、エルダさんは本当にこういう縁日みたいな雰囲気好きなんだな。


猫のお面を額につけ、たこ焼きもどきを頬張るエルダさんは凄くにこやかだ。


俺はなんとなく、たこを思いだすとダゴンさんの口に生えている物を思い出し……お好み焼きモドキを食べている。


しかし……此処は本当に平和だな。


もう、魔王ルシファードさんも只のおじさんにしか思えないし怖くない。


「しかし、平和だね」


「うん、平和なのが一番だよ!」


「そうだね……」


こんな平和な日が続くと……うん?


なんだ、あれ……彼奴らがなんで居るんだよ。


まさか、此処まで俺を連れ戻しにきたのか?


「どうしたの? リヒトくん、急に驚いた顔して……」


「エルダさん、あれ!」


「あっっ! リメちゃんにマリちゃんにリリちゃん! 懐かしいね」


「確かにそうだけど……エルダさん! 逃げよう!」


「うん、なんでリヒトくん逃げるの?」


あいつ等の事だから、きっと俺を連れ戻しに来たんじゃ無いのか。


ヤバい。


直接来たのか。


「いや、だってあいつ等きっと俺を勇者パーティに連れ戻しにきたんじゃないかと……」


「リヒトくん、よく見てそれなら大丈夫、横にアリアちゃんのワルキューレが居るから……」


ワルキューレ……紅蓮の空の悪魔。


1人でも街くらいなら滅ぼせると有名な魔王軍の幹部……それじゃこの街も……


なんてことは無いな。


この街はアリアさんが海鮮丼を楽しんでいるし、ルシファードさんが酒盛りしている。


そんな街で、その部下のワルキューレが何かする筈はない。


「ワルキューレ……」


「あっ……リヒトくん、まさか見惚れていた?」


「いや、ワルキューレって女じゃ無かったっけ? それに俺はボーイズラブに興味はないよ」


「リヒトくん! 言っておくけど、ワルキューレ達は堕天使だから両性具有……男にも女にもなれるんだよ!」


そう言われてみれば、そのまま女にしたら美女になりそうだ……


だけど、俺には最愛のエルダさんが傍にいるんだから関係ないな。


「どっちみち、俺にはエルダさんが居るから関係ないよ!」


「リヒトくん……」


「エルダさん……」


やはり、俺にとってエルダさん以上に綺麗で可愛い女の子は居ない。


よく見てみると、俺の幼馴染は三人のワルキューレに腕を回している。


どう見ても恋人同士に見えるな。


後ろからトボトボと寂しそうに歩いている美人は……どうしたのかな?


「あっ! エルダお婆ちゃんとリヒトが居る!」


どうやら見つかったみたいだ……


それを聞くとエルダさんは俺の横を凄い勢いで走っていった。


「ヘルちゃーーんっ! 今、お婆ちゃんと言ったよねぇーー!」


「誰だか、げっ!? ビッチのエルダ! 僕のヘルムに手を出すと許さないからね!」


リメルが剣に手を掛けたけど……


全然、間に合ってない。


「新妻の私にビッチ……リメちゃんも許さないからね!」


ゴン、ゴン


二人の頭にエルダさんがゲンコツを落とした。


「痛ぁぁいよ~ エルダ……お姉さん酷いよ~」


「痛いよぉ~ 僕の頭割れてない? いたたたっ! たんこぶが出来たぁ~」


二人とも頭を押さえて蹲っている。


剣聖と魔族の幹部が瞬殺……しかもあれどう見ても『お母ちゃんのゲンコツ』だよな。


「へルちゃ~ん、リメちゃ~ん 今の私はリヒトくんのお嫁さんなんだよ? お婆ちゃん? ビッチ? 何を言っているのかな?」


「ううっ、エルダお姉さん……ごめんなさぁ~い」


「……」


「リメルも謝って、エルダさんは僕のお婆ちゃんみたいな……」


「お婆ちゃん!?」


「ちが、ちが、お姉ちゃん……そうお姉ちゃんみたいな存在なんだ……謝って、僕の為にお願いだから謝って!」


「なんだか解らないけど、ヘルムの家族みたいな存在なんだね……解ったよ……僕が悪かった、ゴメンなさい……」


閃光のような剣技を持つ剣聖のリメルが、悪魔の様に怖い魔族のヘルムが、いたずらをしてゲンコツを食らっている子供にしか見えない。


「他の人は……ビッチとかお婆ちゃんとか言わないよね?」


エルダさんが残りの5人に目を向けると……


「「「「「言わない……」」」」」


真っ青になって首を縦に振っていた。





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