第36話 魔王軍SIDE アリア動く


「勇者パーティがこちらに向かって来ているだと!」


「はっ! ルシファード様」


このタイミングで何たるタイミングの悪さだ。


殺してしまうのは容易い。


今いる四天王が出て行けば確実に殺せるが、リヒトくんに殺さない約束をしてしまった。


破るとエルダ……姉さんが怖い。


そうなると、差し向ける相手を選ばないとならない。


ゴルバは戦闘狂だから、火がついたら止まらない。


勇者ライトが弱ければ良いが、そこそこの強者だった場合。


相手を殺してしまう。


『無様に生きる位なら、名誉ある死をくれてやろう』


とか言って殺してしまう。


あれは余が言っても無駄だ。


基本的に言う事は聞くが戦闘に入ったらもう自分が制御できなくなる。


『剛腕』の名は伊達じゃない。


最悪、勇者達の体が引き千切れてしまうかも知れない。


彼奴の真の一撃があたれば人生が終わる。


向かわせたら大変だ……恐らく勇者パーティは皆殺しにし、鎖で吊るされるだろう。


ハーデルを向かわせると……


もう人間としての人生が終わってしまう。


ハーデルが操る死霊の軍団は理性がある者が少ない。


最悪、死霊に肉を食い千切られ、そのまま軍団に吸収されゾンビの様になりかねない。


死んでないから良いか……


いや、これはこれでリヒトくんやエルダ姉さんに怒られる様な気がする。


そう考えると……ダークコレダーとアリアしかない。


この二人なら、手加減をしてどうにか殺さずに済むかも知れない。


問題はどちらを向かわせるかだ。


◆◆◆


「え~嫌なんですけど? 折角温泉と海鮮料理を楽しんでいるんで、勘弁して下さい!」


アリアは余と同じ堕天使系の魔族。


だから、自由人過ぎて困る。


「俺は別に構いませんが、我が軍団は機動力に欠けます。最適ではないと思います。それに……」


「それに、なんだ!」


「リヒトと遊ぶ約束をしているから出来たら避けたいのですが……」


我が息子もこれだ……


まぁ、エルダ姉さんの婚姻。


そして相手が、宿敵リヒトとなればこうなるか。


ダークコレダーは、これでもリヒトを生涯のライバルとして認めていた。


それもあってか、随分と嬉しそうにしている。


此処を動きたくない気持ちも解る。


だが、此処にもし勇者パーティがたどり着いたら、何かと不味い。


悪いがどちらかに出て貰うしかない。


さて……どちらに出て貰うか。


「ダークコレダーは機動力に欠ける。悪いがアリア出てくれ」


「今の勇者パーティにはリヒトが居ないんですよね? それなら私が態々出なくても良いと思います!」


「アリア、余が頼んでも嫌か?」


随分と此処での生活が気に入ったのか、食い下がるな。


「いえ、私は出ませんが、我が空の軍団最強の4人ワルキューレを差し向けます! 彼女達なら私と同等の機動力で空を飛び簡単に勇者パーティを皆殺しにしてくれるでしょう」


此奴、忘れているな。


「アリアよ……殺すつもりなら、ハーデルかゴルバに頼む! 殺したくないからお前に頼むのだ! エルダ姉さんとリヒトくんとの約束を忘れてまいな!」


「あっ……」


此奴忘れていたな。


「間違っても殺すでないぞ! もし、間違えて殺したら余は知らんぞ! 『アリアが勝手に殺しました』と言うからな!」


「魔王様……酷いですよ……エルダ姉さん怒らせたら怖いんですよ?」


そんなの知っておるわ。


「それは良く知っておる。 だからだ。 ワルキューレなら確実に勇者達を倒せよう……だが『あの4人に殺さないで』と言う事が出来るものなのか? 殺戮の赤鎌と呼ばれるあいつ等に……」


「それはどうにかしますから、それじゃそう言う事で」


そう言うと手をヒラヒラさせながら、アリアは去っていった。


「親父、いや魔王様、大丈夫なのか? なんなら今からでも俺の部隊を動かすか? ワルキューレは不味い」


「いや、此処はアリアを信じるとしよう」


「それなら良いですが……俺エルダ姉さんやリヒトに嫌われたくないですよ……」


「あいつ等はアリアの直轄、大丈夫……いや大丈夫な筈だ」



凄く不安だが......


◆◆◆


ワルキューレ。


見た目は羽があり天使の様に美しい、アリア直轄のフレイア ヘルム オルト ラウムの四人組。


天使との大きな違いは羽が白くなく赤い、そして全員が大きな黒い鎌を持っている。


その為、別名『紅蓮の翼』『死神の赤い鎌』『殺戮の赤鎌』とも呼ばれている。


戦場でたった4人で数千からなる部隊を大昔に葬ったという逸話もある、人類の天敵。


通信水晶で私アリアはフレイア達に連絡をとった。


「と言う訳で、フレイア、悪いけど、ワルキューレを率いて勇者パーティ漆黒の風を倒してきてくれないかな? 殺さないように気をつけてね」


「あのアリア様、私達は殺し専門ですよ? 戦場で出会ったら皆殺しにする。それが、私達ワルキューレです! 『勇者達を殺して来い』ならいざ知らず、手加減など出来ませんよ?」


横で三人も頷いている。


ハァ~困ったわ。


此奴ら腕は確かなんですが、殺人狂なのが問題です。


だけど、絶対に今回は殺させるわけにいかないわ。


「そうですか……殺さない約束はエルダお婆ちゃんとの約束なんですが、それでも違えてしまうと言うの? うん、仕方ないな、もし殺してしまったら『フレイアが間違って殺しちゃいました』と報告しますね」


「「「「エルダお婆ちゃん」」」」


「そうなのよね! 殺さない約束をした相手がエルダお婆ちゃんなのよ! しかも、この事は魔王様や他の四天王も知っているのぉ~多分殺しちゃったら大変な事になるわね」


「いや……ですが、勇者達だけならいざ知らず、あのリヒトとか言う奴がまた、絡め手できたら殺すしかないですよ? 」


「あ~それなら大丈夫よ! リヒトならエルダお婆ちゃんと結婚したから勇者パーティに居ないからね」


「「「「えっ」」」」


まぁ、驚くわね。


「と言う訳で、お願いするわね」


これで大丈夫よね……


「え~、だけどアリア様達はタミアで温泉と料理を楽しんでいるんでしょう? それなのに私達だけ仕事なんてズルくないですか? 私達も楽しみたいわ! ねぇ、皆んな」


横で三人も頷いている。


「解ったわ。勇者パーティを殺さずに倒したら、此処に呼んであげるから……お願い」


「「「「解りました」」」」


此奴ら腕は確かなのですが……本当に性格に難がありますね。


まぁ、エルダお婆ちゃんが絡んでいるから、大丈夫でしょうけど……


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