第34話 勇者SIDE 敗北と色仕掛け
リヒトが居なかった為に……まさかこんな事になるなんて。
「クソっ……ハァハァ痛ぇぇぇーー」
「ううっ、痛いっ痛いっ……痛たみを止めてくれ」
「ううっ、ハァハァ……痛い、痛いわ……」
「ううっグスっ……ううっ」
魔物や魔族だけじゃない、リヒトは全く別の物からも俺達を守ってくれていた。
そんな事にも俺達は気がついていなかった。
俺たちはそれを解っていなかった。
俺たちはオークの集落を潰す為に森に入った。
だが、運悪くそこにキラーワスプの巣があった。
キラーワスプとは大きな蜂だ。
その巣は大きく、数千のキラーワスプが居た。
そんな巣がある事も気がつかず、俺たちは森の中を突き進んだ。
すぐにマリアンヌが気が付いてホーリーウオールで結界を作り、その中に避難したが結界に張り付くようにキラーワスプが止まり離れなかった。
その結果、マリアの魔力切れと共にキラーワスプに襲われ……俺たちは……死にかける事になった。
つまり俺達は『魔物』でも『魔族』でも無い只の虫によって死にかけた訳だ。
『本当に情けない』
リヒトが居れば、恐らく先行してリヒトが先に森に入り、この巣の存在に気が付き回避したはずだ。
もし、そうでなくてもリヒトなら『虫よけ香』位は準備してそうだから最低限の被害で済んだかもしれない。
冒険で必要な物の買い出しをマリアンヌに頼んだが、リヒト程しっかりと用意して無かった。
その結果が、今回のような最悪の事態を引き起こした。
だが……これは誰も責められない。
マリアンヌ以外の者も誰一人『虫よけ香』を用意した物が今迄居なかった。
だから……これは……マリアンヌを責められない。
だが……
「ふざけるなよ! なんで『虫よけ香』を用意してねーんだよ! おかげでこの様だ!」
解っているが許せなかった。
街に着いた時、俺達には沢山の蜂が刺さしながら纏わりついていた
これが普通の人間なら死んでいたかも知れない。
俺達が四職だから、体力がありどうにか刺されながらも街まで逃げ込めたんだ。
倒れ込んだ俺達を見た人間が教会や冒険者ギルドや衛兵の詰め所に走り、教会の人間や冒険者、衛兵が慌てて虫を駆除して助けられ今に至る。
ただ……その為に沢山の人間がキラーワスプに刺された。
勇者パーティの俺達が原因で一般の人間が多数傷ついた。
「ごめんなさい……」
「「……」」
しかし……痛い。
余りに刺された場所が多いからか……治療が済んでヒール迄かけて貰ったのにまだ、激痛に近い痛みがある。
この状態なら2~3日で回復するらしいが……それよりも。
凄く醜い……俺も他の三人も化け物のように醜い。
顏や体も腫れあがり……物凄く醜くなっている。
これ以上責めても仕方が無いな……
「もう良い……」
ハァ~これからが憂鬱だ。
◆◆◆
「勇者、ライト……もう体調がよくなられましたか? 」
「ああっ……」
「今回の事は仕方が無い事ですが、次からは自重して下さい……只の虫と侮らずにしっかりとした準備を怠らないように」
「本当に悪かった」
「これからは気をつけます」
「すみません……私のせいで」
「軽率でした」
「解れば良いんです……では……」
勇者だから文句は言われない。
だが、教会の人間を含み沢山の人間がキラーワスプに刺され怪我をし人によっては重症を負った。
治療中に、老人と小さな子がそれぞれ1人巻き添えで死んだとも聞いた。
確かに文句は言われない。
だが、司祭やシスターの目が笑っていない。
「「「「本当にすみませんでした」」」」
そう謝り教会を立ち去った。
俺たちはこんな事で被害者を出してしまった。
やはり、俺達の旅にはリヒトが必要だったんだ。
『仕方が無い』
「なぁ……俺たちはもう限界なんじゃないか? 誠心誠意謝りリヒトに戻ってきて貰おう」
「……そうだな、被害を出す位ならプライドなんて捨てた方が良い! 土下座でも何でもして戻って貰ったほうが良いな」
「もう体裁なんて構ってられないわ! リメルの言う通りよ! 泣き落としでも何でもして戻って来て貰おう」
「それしかないよ! お金でも地位でも何でも差し出して戻って来て貰おうよ……無理なら教会でもギルドでも国でもお願いして戻ってきて貰わないと駄目だよ」
他の冒険者や騎士や聖職者を仲間に入れる事も考えたが、話をしただけでも、リヒトの代わりは勤まらないのが解った。
「リヒトのカレーは絶品だったな……」
「私はリヒトのピザが食べたい」
「オムライスも卵がとろっとしてて美味かったわ」
「偶に作ってくれるホットケーキも美味しかったね……」
彼奴が居たから快適な生活が出来ていたんだ......
俺達のパーティ『漆黒の風』は彼奴によって回っていたんだな……
本当のリーダーは、悔しいが彼奴だったんだ。
彼奴が居なければこのざまだ。
だが、連れ戻すのにはどうしたらよい?
地位か?
教会や国に……いや、彼奴は元から教会や国に信用されている。
ちゃんと口をきいて国から支援金を貰ってやれば良いのか?
いや、彼奴はA級冒険者、その気になれば金は稼げる。
女?
実情は兎も角、エルダを気にいっているなら無理だ。
この三人が俺の女なのは彼奴も知っているから、差し出しても受け取らない可能性が高い。
それに……聖女 剣聖 賢者 それ以外で考えたら碌な奴じゃねー。
器量は多少良いが……金さえ出せばもっと綺麗な奴隷が買える。
家事も出来ないし、女として終わっている。
それに三職だから避妊紋も刻めねーから『夜の相手も最後の一線は越えられねー』
結局、戦闘や治療以外役に立たない。
金、女、権力……全部無駄だ。
あと、考えられるのは、魔王討伐後に貴族の爵位と領地を貰ってやる約束位だが……彼奴は興味無さそうだ。
『幼馴染』だから解ってしまう。
彼奴は何も欲しがらない。
なら……どうすれば良いんだ?
「なぁ……リヒトはどうしたら戻ってきてくれると思う?」
誰からも建設的な意見は出なかった。
◆◆◆
あれから数日……俺たちは考えも浮かばないままリヒトを追う事にした。
「なぁ、ライト、リヒトに会えたとしてどうするんだ?」
「こうなったら、仕方が無い……悪いが皆には色仕掛けをして貰う」
「「「色仕掛け!?」」」
もうこれしか思い浮かばない。
「中途半端じゃない、ありとあらゆる誘惑をして行きつく所まで行きつけ!」
「ライト……それは私達に一線を越えろ……そう言うのか?」
「それは流石に不味いんじゃない? 教会から問題になるわ」
「貴族や王族にも不味い事になるよ」
確かにそうだ。
映えある三職が傷物になるなんて醜聞だ。
それに万が一、妊娠などしたら魔王討伐が遅れる。
だが……だからこそ価値がある。
そこ迄したら、もう取り返しがつかない。
その状態に陥ったリヒトを許すように懇願する。
これならリヒトは逃げられない。
一応は此奴ら三人は幼馴染だ。
一緒に酒を飲んだり、食事位は誘えばリヒトだって応じるだろう。
そこからつけ込むしかない。
「だからこそだよ、そこまですればリヒトに責任をとえる。悪いが行きつく所まで行きついて完全に男女の関係になってくれ」
もうこれしか俺には思い浮かばなかった。
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