第46話 ドワブ教1

ゴザリア国の王都奪還戦から1年が経った。


ユニマ国から、大量のミスリル鉱が送られてきた。

エルフ国との約束を保護にしようにも、キメラオーガ軍との敗戦で生じた兵の損失が余りにも大きかったようだ。

国力が戻るには数年かかるだろう。


そのことがエーデリア国に知られれば、今度はユニマ国がエーデリア軍に侵攻されるだろう。

本当に、人族の国王はどうしようもない!


俺にはケレドロ洞窟があるので、もらったミスリル鉱の1/3はエルフ国に、1/3は獣人国に、1/3はシルティ国にプレゼントする。

ミスリル製の武具や武器を作れば、各国ともさらに戦力が向上するだろう。


マーベリックさんたちの商人隊は、ゴザリア国とユニマ国とエーデリア国を相手に、本来の商業活動を再開してもらっている。


商業活動で使っている船は、エルフ国で拿捕した連合国のものだ。

船の色を塗りかえるなどして、ありがたく有効活用しているのだ。

商売は順調のようだ。


サイレント部隊は商人隊を上手く隠れ蓑にしながら、ゴザリア国とユニマ国とエーデリア国の動向や、エルフや獣人の奴隷の所在についての情報を探ってもらっている。

もちろん商人隊の護衛も兼ねている。

現在、サイレント部隊の増員も進めている。


このまま、この世界が平和のままならいいのだが。

そんな訳ないか……


残念ながら、ゴザリア国を見張らせていたサイレント部隊から情報が入った。

ゴザリア国の王都に向けて、キメラオーガが進軍しているそうだ。

キメラオーガの数は3000人、あと数日で王都に到着する見込みとのことだ。


前回の戦闘でキメラオーガ軍は始末したはずなのに、あれから3000体もキメラオーガを製造したのか。

それだけの数のエルフや獣人やスラムの人間を犠牲にしたということか……狂っている。


俺はサイレント部隊に聞いた。

「奴らの本拠地がどこなのか分かるか?」

「城から北西に、馬車で10日かかる場所に作られた神殿のようです。神殿の地下でキメラオーガを製造しているようです」


「本当に狂っているとしか思えないな! 神殿を粉々に破壊してしまおう。レッド、グレーに協力は得られるだろうか?」

「狂った坊主たちを、放置しておけばこの世界がおかしくなる! 母も協力してくれるはずだ」


「アンジェ、エメット! 志願兵を募ってほしい。明日出発するぞ」


翌朝、ゴザリア王都奪還戦で奴隷奪還に参加してくれた40名全員が、再び志願してくれた。

いつものゴンドラに乗り込み、レッドに運んでもらう。

移動の途中で、シルティ城に立ち寄る。

是非参加したいという志願兵60名をゴンドラに乗せる。


俺とアンジェとエメットはグレーの背に乗って神殿に向かい飛行している。

神殿が遠くに見えてきた。

空から地上を眺めていると神殿に向かって、手を縄で縛られた者たちが連行されていくのが見える。


「レッド! あの者たちを神殿に連れて行かせてはダメだ。降りるぞ! グレー! 先頭にいる騎士と兵の列に雷球を叩き込んでくれ」


騎士と兵の列に雷球が撃ち込まれる。

騎士と兵が逃走を始める。


「グレーは攻撃を続けてくれ。ただし情報を聞き出したいから、数名は生かしておいてほしい。レッドは連行されている者たちの横に着地してくれ。志願兵は彼らの保護と、敵の生き残りを捕まえてくれ」


グレーの攻撃で騎士と兵の生き残りが数名になっている。

志願兵が、騎士と兵の生き残りを捕まえに走っていく。

大した抵抗もしなかったため、生き残りの騎士と兵を全員捕まえることができたようだ。


俺は捕まえた騎士に詰問する。


「神殿の中のことを話してもらおうか! エルフや獣人やスラムの人たちは何人ぐらいいるのだ?」

「……まともな奴などもういない……既に全員がキメラオーガにされているはずだ。奴らなんかどうでもいいではないか!」


俺を含め、全員がキレそうになっている。

深呼吸をして冷静さを取り戻して質問を続ける。


「神殿にはキメラオーガはどれくらいの数がいるのだ」

「5000体はいるだろうな。無敵の軍団だ。ドワブ様バンザイ……ハハハ……ハハハ……」


「ドワブとは何だ?」

「ドワブ様は我らが信じる神様だ。呼び捨てになどするな!」


「他にもキメラオーガを作っている場所はあるのか?」

「ユニマ国にもエーデリア国にもあるぞ! 我らを殺しても、この世界はドワブ教が支配することになるのだ」


「殺したければ殺せ。ドワブ教……バンザイ……死ねば……ドワブ様に褒めていただける……」

こいつらふざけるなよ! 

何がドワブ教だ、この狂信者め……


「こいつらを、連行されていた者たちのところに連れていき、彼らの前で始末してくれ。グレー、レッド! この狂った奴らの神殿を粉々にしてくれないか」


「任せておけ、粉々にしてやる!」

グレーとレッドが飛び立つ。


神殿に、特大級の雷と火球が降り注ぐ。数分と経たない間に神殿が粉々になる。

神殿からは誰も出てこない、ひょっとすると首謀者は逃げたかもしれないな。


確かめたいが、キメラオーガがひしめく神殿の地下に入っていくのはさすがに危険だ。


グレーとレッドが上空を旋回していると、神殿近くの河に船が数隻浮かんでいる。

船の中は神官の姿をしている者が乗っている。

上空からも慌てた様子が見て取れる。


グレーとレッドがその船を粉々に破壊する。


連行されていた者たちのところに、捕らえた騎士と兵を連れて行く。

縄を外され解放された者たちから「こいつらだけは、私たちに殺させて下さい! 何人もの家族や友人がこいつらに殺されたのです。無理やりキメラオーガにされました! お願いします、お願いします!」と、頭を下げられる。


連行されていた者たちの前に、ロープで縛られた騎士と兵を転がす。

全員が泣きながら、騎士と兵を殴っている。


「ドワブ教バンザイ……ドワブ教バンザイ……」

何度も叫んでいた声が、数分もしないうちにしなくなる。



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