第24話 真実と過去 4


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 少女は懐かしい夢を見る。

 それは中学生の頃のお話。

 小学生の時から特別仲が良い二人の女子と毎日のように遊んで、勉強して、魔法練習をして充実な毎日を送っていました。そんな理由からいつも笑顔が絶えず、とても明るい女の子と言うのが周りからの印象でした。

 太陽のように明るくて、夏の香りがよく似合う女の子はマジックがとても好きでした。

 仲が良い女の子もマジックが好きなので、テレビで見たマジックを日々空いた時間で練習して友達に披露するなど好奇心旺盛な女の子でもありました。

 毎日のようにテレビやYouTubeでマジックを調べて練習をしていた時、学校である男の子が注目されるようになりました。


「うぉぉぉぉーー、すげーーーー!」


 クラスの男子の異常な盛り上がりに背伸びをしてチラッとなにが行われているのか見てみました。

 そこには一人の男の子が居て。

 マジックをしていたのです。それも魔法を使ったマジック。

 それを見た女の子は目がキラキラと輝き、男の子に強い興味を抱きました。

 でも接点がない女の子からしたら遠い存在。

 そう思い仲良くなる機会がないなーと思っていた時です。

 クラスで第七十七回全国魔法演習組手大会の練習をすることになりました。

 その時クラス担任が決めたペアで練習が行われるのですが、偶然にも女の子は気になっていた男の子とペアになります。


「は、初めまして。と、東城明久です」


 緊張しながら自己紹介をしてくれた男の子の名前は東城明久。


「私大空千里これからよろしくね!」


 のちに親の離婚を機に小柳千里となる大空千里は元気よく挨拶をしました。

 その日をきっかけに大空千里はますます男の子に惹かれていきます。

 目の前で見る座標変更と幻術魔法を組み合わせた攻防は正にマジックみたいで組手で負けても嬉しい気持ちにさせてくれるものでした。

 魔法も上手で優しくて気遣いもできる男の子とは、マジックの話でも盛り上がれて、女の子が得意とする幻術魔法の話でも盛り上がれてと心を許すのに時間はかかりませんでした。

 勢い余って抱きついちゃう日もしばしば。

 そのたびに心臓がぎゅーと締め付けられる感覚に襲われる女の子は恋を次第に自覚していきます。

 それから月日が経ち第七十七回全国魔法演習組手大会の日。


「もし良かったら……大空さんに応援してもらえると頑張れるかも……俺」


 男の子が出場の日そんな言葉を言ってきたので、「うん! 私一生懸命応援するよ、頑張ってね」女の子は男の子の頬っぺたにちゅーをして会場に送り出しました。

 完全に勢いだけでしてしまった女の子は後にはもう引けないと後退のネジを全て外します。

 だけどそれが男の子の魔法使いとしての才能の開花のきっかけとなりました。


「頑張れー!!! 明久くーん!!!」


 その言葉が届いたのか、その日男の子の予選は全て圧勝と周りに格の違いを見せつけました。


「か、カッコよぎる!!」


 ますます惚れていく女の子は応援に気合いが入ります。


 それに合わせて次の日に行われた本選でも男の子の前に多くの同期の実力者が破れていきます。ベスト八が決まり決勝リーグに駒を進めた男の子。


 ここに来て初めての苦戦。

 相手は優勝候補でした。


 ここまでか……と、先生たちも諦めかけた時でした。

 女の子だけは。


「頑張って! まだ負けてないよ!!」


 と、会場全体に響く大きな声で応援の言葉を送ります。

 言葉に想いが乗っていたのか。

 苦しい表情を見せていた男の子が作り笑いをしながら立ち上がります。

 闘気が回復したのです。

 だけど実力差は歴然。勝ち目はない。

 それをひっくり返したのは女の子が教えたミスディレクション。

 マジックで使われる手法の一つで相手の意識を他所に向ける技術です。


「Ladies and gentlemen, Thank you for coming here today!」


 男の子は叫ぶと幻術魔法で作ったハットを宙に投げます。

 対戦相手は勿論。審判、来賓、観客席に居た全員の意識が宙に投げられたハットに意識を向けます。

 その一瞬が勝敗を分けました。

 次の瞬間、ハットが男の子になって投げられるナイフ。

 対戦相手が防御魔法を発動する時にはあら不思議。

 既に対戦者の後ろに居て、手に持ったナイフを対戦者の首元に突き立てたのです。


「チェックメイトです。どうしますか? まだ戦いますか?」


「こ、降参します」


 まさにマジック。

 神出鬼没のマジシャでした。人はそれを表彰して黒魔法使い(ブラック・マジシャン)と呼びます。黒はその日男の子が黒をベースにした衣装で試合に出場していたことから持って来られました。

 それ以降、男の子の魔法にミスディレクションが加わってからは危ない試合はなく優勝を勝ち取りました。


 その後。クラスの女子からも人気が出て危機感を覚えた女の子は勇往邁進の覚悟でひたすらにアプローチをします。手を繋いだり、間接キスしたり、抱きついたりとスキンシップもしました。結果告白されて初恋は見事成就し幸せな学生生活がスタートしました。

 趣味も合う、気も合う、ありのままの自分を好きになってくれた、誕生日にはトパーズのネックレスもくれた、と女の子は幸せな毎日を送りますが、ある日国家公認の魔法使いに男の子がなります。本当に凄い! と泣いて喜びましたが、それは幸せな日々の終わりでもありました。


 日に日に笑顔が消え、元気がなくなる男の子。

 それでも側に入れるだけで愛情を感じられた女の子はこれから支えていくことを決めます。

 ですが、ある日別れを告げられます。

 そのあまりにも下手で初めて見る酷い顔は男の子が男の子である最後の日でした。

 手は震え、目の焦点も合っていない。

 顔色は悪く、魔力の流れも可笑しい。

 他にも沢山の違和感を覚えた女の子は心の声を全て殺して別れ話に頷きました。

 女の子は自分を酷く責めました。

 自分に力がなかったから護れなかったのだと。

 それから女の子は男の子から学んだ幻術魔法に磨きをかけて自分も国家公認の魔法使いになることを選びます。

 初恋をまだ終わらせないと決めた女の子は好きなマジックを捨てて魔法使いとしての成長に全ての時間を捧げました。空いた時間で女子力も磨き、強くなって、可愛いくなって、有名になって、同じ舞台で男の子の隣に再び立つことを目標に頑張りました。

 そして第七十九回全国魔法演習組手大会で他者を誰一人寄せ付けない力で優勝し同じ舞台に立ちました。

 残念ながら観客席に不登校になった男の子はいませんでした。

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