第40話


「……」

「……いきなり、割り込んで悪かった。俺が魔王を倒した後の世界は、混乱するかもしれないからな。各街で戦える人たちが残っていたほうがいいとは思っていたから、俺は今旅をしているんだ」


 俺は言いたいことを話したので、ゴルシュさんに視線を向ける。

 彼はこくりと頷いてから、口を開いた。


「治療は受けていってくれ。魔族と戦うことに関しては、忘れてくれ。ただ治療してもらったこともは、絶対に口外しないでくれ」


 ここで、治療しないという選択肢はそもそもない。

 ゴルシュさんには回復魔法の練習になるから、とは伝えているからな。


 さてさて、今回の経験値はどのくらい入るかね。

 呑気にそんなことを考えながら三人の治療を開始する。

 黒い霧が現れ、それを吹き飛ばすように回復魔法を放つ。


 ……治療は完了だ。

 それぞれ驚いたように自由に動く体や、見えるようになった目に、涙を浮かべたり、喜んでいたりした。


 その中でエルドは、再生した手を確かめるように何度も握っては開いてを繰り返し、それからぎゅっと強く拳を固めた。


「ルーベスト」


 そう言ってきたエルドはそれからにこりと笑った。


「……ありがとな」

「気にしないでくれ」


 ……そう言ってから彼は、拳を自身の胸に当てた。


「魔族のことを考えるとさ。やっぱり……怖いけど、でもさっきのルーベストの言葉、なんかすげぇ胸に響いたわ」


 そりゃあ、他でもないエルドが言った言葉だからな。


「オレは……見知らぬ誰かのために戦えるほどの勇気はまだないけど、さ。ルーベストが、親を助けたいって気持ちはよく分かったんだ。だから――」


 彼は、勇者を逃すために命をかけた時のような表情とともに、俺に宣言した。


「誕生日の日、オレも祝いにいく。どんだけ、力になれるか分からないけど……お前のためになら、今は戦える」

「……エルド。ありがとう」


 ……戦力になるかどうかは分からない。

 それでも、そうやって一緒に戦ってくれるといってくれる人が増えることは純粋に嬉しい。

 それから、エルドは冗談っぽく笑った。


「それにこんだけの魔法つかえるなら、ルーベストの側が一番安全だろうしな」

「あんたねぇ……ま、あたしも、力貸すから」

「……私も」


 ルビーとブルーナも、笑顔とともに親指を立ててきた。

 ステータスは恐らくバグっているので、このまま鍛錬を続けていってくれれば戦力として計算できるかもしれないな。




 その後、エルドたちにはサーシャから色々と話をしてもらった。

 治療した後の人たちは、体の調子がいいから鍛錬の成果が出やすい。日々の訓練を必ず行えば強くなれる、とな。


 これで、エルドたちならば確実に原作開始時点よりも強くなってくれるだろう。


 これで、また少し戦力を底上げすることができただろう。

 治療を終えたところで、一度休憩のため自分の部屋へと戻った。


 ベッドに腰掛け、軽く伸びをしてから、女神様に問いかける。


『さっきので、俺のレベルはいくつあがったんだ?』

『4レベルですね……。久しぶりに、めちゃくちゃ上がりましたね』

『まあ、あんだけやられてたらな』


 ……皆、何かしらの重症を負っていたからな。喜んではいけないのだが、俺としてはいい経験値になってくれた。


 いずれは、魔族によって傷つけられたすべての人たちの傷を治療できるようにしたいものだ。

 そんなことを考えていると、部屋がノックされた。


「ルーベストさん。今よろしいですの?」

「ああ、大丈夫だ」


 アイフィの声がしたので、頷きながら返事をする。

 そちらに視線を向けると、車椅子に乗ったアイフィの姿があった。

 サーシャが彼女の車椅子を押していて、中へと入ってくる。

 この屋敷にきてから、アイフィとサーシャが共に行動していることは多い。

 年齢の近い女性同士ということはもちろん、傷の治療をされた者同士、何かと話題が合うのかもしれない。


 俺と目が合ったアイフィは、嬉しそうに微笑んでいる。

 ……原作では、ここまで笑顔をみせるキャラクターではなかった。どちらかというと、凛々しい表情をしていて……恐らく、この街の領主になってからいくつも大変な経験をしてきたのだろう。


 まあ、アイフィの立場的に、笑うような余裕がなかったんだろう。

 車椅子で部屋に入ったアイフィは、それからゆっくりと立ち上がる。


 傷が治ってから、毎日のようにリハビリをしていてかなり動けるようになったのは知っている。

 初めて立ち上がった時のような不安な様子はなかったが、アイフィがちらとこちらを見てくる。


「少し歩きますわ。もし、倒れそうになったら受け止めてくれますの?」

「ああ」


 そう言って、アイフィはまっすぐにこちらへ向かって歩いてきた。


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