第27話



『女神様。さっきから話したそうに騒いでるけど、なんかあったのか?』


 『お時間あったら、私の話を聞いてください!』、と女神様はずっと話していた。

 なので、サーシャとの話を区切り、女神様に問いかけた。

 これで、しょうもない話だったら怒ろう。


 俺の心でも読んだのか、女神様は『うひっ!?』と僅かに悲鳴を上げてから、さらに問いかけてきた。


『サーシャさんの治療を行った時のことです』

『俺も聞きたいことがあったんだよ。レベルいくつ上がったんだ?』

『えっと……サーシャさんを治療した時にレベル2上がりましたね』


 今のレベルでそこまで上がるとはな。

 ……これは、思わぬ収穫だったぜ。サンキュー、サーシャ。


『やっぱり、ああいう重傷者の治療はめっちゃ効率いいんだな』

『そ、それが問題なんですよ! この世界の人をあなたの力で無理やり治療するのはよくないです! 色々壊れちゃいます!』

『何かあったのか?』


 女神様が、慌てているということはおそらく何かあったんだろう。


『……さ、サーシャさんのステータスがおかしくなっちゃったんです』

『どういうことだ?』

『サーシャさんの能力を見ていたら、なんだか限界値が【ファイナルクエスト】と同じようになっちゃってるんですよ! この世界のキャラクターのステータスじゃなくなってるんです!』

『……それは、俺が治療した後からか?』

『はい! たぶんですけど、ルーベストさんの回復魔法が原因です!』


 たぶんでもなく、紛れもなくそうなんだろうな。

 ……俺が怪我の治療を行ったのが原因か。


 いや、これまでも騎士たちに回復魔法を使ったことはあるが、女神様がわーわー騒ぐようなことはなかった。


 つまり、原因はサーシャの欠損を治療したからか。

 本来、この世界ではありえない現象を俺が起こしたことで、何かバグが起きたんだろう。

 

『そ、そういうわけで……治療に関しては控えていただけると嬉しいんですけどぉ……』

『……でも、世界で苦しんでいる人たちがいるんだぞ? そういった人たちを治療してあげたいんだ、俺は!』

『もっともらしいこと言ってますけど、経験値がたくさんウハウハ! とかゲスなこと考えてますよね!? 私の仕事が増えちゃうかもしれないんですよぉ!』


 もともと、適当な仕事をしていたのが悪いんだからそんな泣き言言われても俺は知らない。

 そういうわけで、女神様の言うことを聞くつもりはなかった。



 俺の旅について話をすると、家族たちの反応は様々だった。

 父さんは納得していたが、母さんとリアナはそれぞれ反対側から俺をぎゅっと抱きしめてきた。


「私は、反対よ。ルーベストが屋敷から離れるなんて……もしも何かあったら嫌だわ」


 母さんは、俺のことを心配しているようでそう言ってくる。

 リアナもまた、寂しそうに俺の服をぎゅっと掴んでくる。


「にいに……いなくなっちゃうの、やだ」


 もう、旅に出るのやめようかな。

 リアナの泣きそうな目に心が揺れてしまったが、しかし俺は強く首を横に振る。


 ここで旅に出なければ、救える者も救えなくなってしまう。

 父さんはしかし、こほんと咳払いをしてから、こちらをみてくる。


「確かに……オレもルーベストの旅については悩んださ。……だが、ルーベストの今後のことを考えれば、あちこちで脈を作っておくことも大切なことなんだ」


 父さんの言うことも正しい。


 俺はフォータス家の次期当主だ。今回の旅はまだ明確に旅の予定は決まっていないが、父さんの知り合いの貴族の家に向かう予定だ。


 今後のことを考えれば必要なことではあり、母さんもそれは分かっているからか俺を抱きしめる力が少し弱まった。


 ……これは、行けるか?

 しかし、まだ説得できないリアナが、涙をぎゅっと浮かべる。


「にいにと、遊べなくなるの嫌……」


 そうは言うが、すでにこれはほぼ決定事項だ。

 俺だって、リアナと別れるのは嫌だが、他の街に行ってこの世界の状況を確認しておきたい。

 俺は仕方なく、リアナを説得する。


「まあ、誕生日までには戻ってくるから。それまで……の辛抱だと思ってくれないか?」


 ぶっちゃけた話、もう半年もないのだ。

 ……だから、俺としても結構焦っている。せめて、雷魔法も回復魔法も最上級の魔法まで獲得しておきたいのだ。


「……でも……」

「お、お土産も買ってくるから」

「お土産……お菓子、たくさんほしい」

「おう……それじゃあ、旅行ってきていいか?」

「じゃあ、いい。……お菓子、たくさん食べたい」


 あれ?

 俺、もしかしてお菓子に負けた?

 ちょっと寂しい気持ちになりながらも、説得は終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る