40 鳳凰暦2020年8月27日 木曜日夜 国立ヨモツ大学附属高等学校女子寮(1)



「2組の情報は全く入らないわね。メンバーに誰もいないし」

「ま、聞き出そうとしたらこっちの話もって感じになるから無理だろ。あいつらには何も教えたくない」

「そうよね、それはあるわ」

「マジでムカツクやつが多いんだって、2組の女子は」


 高千穂さんと伊勢さんが2組の人への不満を話しています。

 今まで食堂などで見てきた限りでは、完全に同意したいところです。

 おふたりにとっては附中ダン科の頃からのつながりがあるとはいえ……かなり失礼な人たちでしたから。


 今夜はわたし――岡山広子の部屋での情報交換です。

 集まるのがわたしの部屋であることも、2組の人たちへの警戒から、です。

 いろいろと面倒な人たちなのです。


 月曜日から再び学校が始まりましたが、そのタイミングでの校長先生からの爆弾発言が今の校内の雰囲気に大きく影響しています。


 ヨモツ大学附属高等学校ダンジョン科に『特進コース』ができること、です。


 そして、そこに1年生が0年度生として参加できること、も含まれます。

 学年集会でもくわしい説明はありましたし、クラスでも重ねて担任からの説明がありました。

 今週の校内での話題はほとんどが『特進コース』に関するものだったのではないでしょうか。


 直接、誰かと話した訳ではありませんが、聞こえてくる話はだいたいそうだったように思います。


「3組でも……伊勢さんや紅葉さんたちは『特進コース』の選抜に参加しないということは……」

「もちろん、広まってるよ。隠してない」

「でも、理由は言ってないかな。約束通り」


 わたしたちが『特進コース』の選抜に参加しないということは鈴木さんから広めてほしいと言われています。

 わたしたちが参加するという前提で『特進コース』をあきらめてしまう人をなくすためだそうです。


 ……そもそも、わたしたちの場合、特進コース以上のものをすでに得ているので必要がないのですが。


 他のみなさんはわたしたちが『特進コース』以上のことをしているなどと、想像もできないでしょうから……。


「4組だと、申し込むつもりの人も増えてるみたいなのよ。伊集院先生の後押しも強いみたい」


「3組は……どうだろ? 先生はそんなに力は入れてないような? ま、正直なところ、美舞たちと違って、あたしの場合は3組の子とあんまそこまでは仲良くないっていうか……。みんながどうするつもりなのか、情報は入ってこない感じだな」


「あたしもそんなに仲良くはしてないわよ。ちょっとしたあいさつくらいよ」

「うーん、それでも美舞は学級代表だろ? そこの違いだな、たぶん。相談とかもあるんだろ?」


「あるけど……答えにくい部分の質問とかだし……あとはパーティーの変更とかのすごく大変な話とか……」

「マジで大変だな、それは……」


 高千穂さんにはクラスメイトもいろいろと話していますし、4組からは『特進コース』の希望者も多いようです。


 ……鈴木さんの目的としては、『特進コース』による4組からの逆転劇という面があるようなので、そこは順調と思えます。


 ただ、2組や3組の情報が少し足りません。

 伊勢さんたちにはもう少し頑張ってほしいところです。

 これは那智さんや端島さんからも情報を求めた方がいいかもしれません。


 4組から逆転して1組以上になるというのは……実際、わたしたちが体現しているので問題ないはずです。

 4組から『特進コース』の生徒が選抜されてしまえば、です。


 さすがに鈴木さんでも学校が行う選抜に口出しはできないと思いますが……。


「たださー、割と『特進コース』とあたしたちって結び付いてないんだなー、とは思うな」


「まあ、そうよね。そこは……何も言ってないもの。ただ、それでも『かもしれない』くらいは思ってる感じがあるのよね、4組だと」


「ま、そうだろ。『かもしれない』以上はイメージできないって。情報が足りないのももちろんだけど、普通に考えてあの鈴木くんのやってることがイメージできる訳がないんだし」


 それは……そうなのかもしれません。

 鈴木さんは本当に特別ですから。


 おそらく、『かもしれない』と思っている方も……あくまでも学校側が主体で、鈴木さんを含めたわたしたちが協力しているという形を考えているでしょう。


「ヒロちゃんは『鈴木メソッド』を全部確認したんだよね? 隅から隅まで?」

「はい。読ませて頂いてます」


「鈴木先生は『特進コース』でどこまで教えるつもりなのか……そこって教えてもらっても大丈夫な部分、だよね?」

「もちろんです」


 あぶみさんの疑問に答えることに問題はありません。

 なぜなら……。


「……あの時の女子大学生たちと同じです。それが『特進コース』ですから」


 そうなのです。

 わたしも含めて、クランメンバーは全員、それを見ているのです。

 夏休みのはじめにみんなであの女子大学生たちの指導にあたったのですから。


「……つまり、豚ダン7層止まり?」


 矢崎さんの表現がもっとも適切かもしれません。

 鈴木さんは……それでトップクランのベースアタッカーとしては十分だと考えているのです。


 換金額の40%の吸い上げに慣れた状態で、豚ダンジョンの7層格オークの魔石を1日に10個。

 クランに1日28000円、自分自身に1日42000円という計算になります。

 平日……週5日のアタックで20万円を超えるので、月に80万から100万というラインになるでしょう。

 もちろん、いずれは10個以上を目標に頑張るでしょうから……。


 何より、同じ金額を犬ダンジョンで稼ぐ場合と比べて、必要な時間が半分くらいになるところが大きいのです。

 ヨモツ大学附属のダンジョン科が徹底して教えようとしているダンジョンアタッカーのワークライフバランスという意味でも、『特進コース』は素晴らしいものとなっているのです。


 さすがは鈴木さんだと思います。

 自分だけでなく、学校側の理想さえも達成しようとしているのですから。


 ……できれば鈴木さんご本人も、もっとワークライフバランスを意識してわたしとの生活を充実して頂けると嬉しいのですが。


 まあ、わたしの場合は、鈴木さんとのダンジョンライフも幸せなのであまり問題はありません。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る