第31話 真っ暗な車窓に映る朔斗
部活終わりの通学路。
いつの間にか自然の流れで、タイミングがあった。
隣には朔斗が歩いている。
梨花は、心中穏やかではいられなかった。
帰る方向が一緒。
たまたま、昇降口で上靴を履き替えていたら、
朔斗も帰る様子を見せて、何も言わずに
現在に至る。
薄暗い道路では街灯がぼんやりと光っていた。
前に会った事件のこと気にしているのかなと
隣をチラチラと見ても無表情のままの朔斗だ。
進む足のスピードが急に早くなり、
数メートル先を
歩いていた。
「ちょ、ちょっと!」
「電車の時間、間に合わないかもしんねぇから。」
突然、隣同士一緒にいることが恥ずかしくなった
朔斗はささっと移動した。
理由は余裕で間に合う時間のはずなのに、
嘘を言った。
乗り遅れたら大変と、梨花の歩くペースも早めた。
「ゆっくりでいいんだぞ。」
「いや、私だって、乗り遅れたくないから。」
「……別に急がなくてもいいんだぞ。」
変にいじわるを言ってくる。
恥ずかしさからだろうか。
面倒になって、梨花はのんびりと歩くことにした。
急にスピードを緩めた梨花の様子が気になって、
後ろを振り返ると、かなり遠いところで
歩いていた。わかっていたが、恥ずかしさが
倍増する。そのまま、梨花の数メートル先を歩いた。
近くを同校生徒が何人か通り過ぎていく。
なんとなく、寂しさを感じた朔斗は、
ピタッと足をとめて、梨花が来るのを待っていた。
数分後、やっとこそ梨花が隣に来たところを
ガッチリと梨花の右手をつかんで歩いた。
「……え?」
「夜道が危ないからな。
おばあちゃんの手を引かないと転んじゃうし。」
「私、おばあちゃんじゃないよ。」
「…知ってるよ。
でもいつかはおばあちゃんだろ。」
「そりゃぁ、
おじいちゃんにはならないと思うけど。」
そう言いながらも骨骨した手が温かかった。
心臓が高まって、緊張してるのを朔斗に
バレたくなかった。明後日の方向を向いて、
ごまかした。
今、朔斗と手を繋いで歩いている。
お互いに好きって伝えなくても、
デートみたいに手を繋いで歩けるんだと
嬉しかった。
薄暗いから周りにはあまり見えない。
このまま時間が止まればいいなとさえ
思ってしまう。
駅舎の中に入ると、朔斗は明るくなったためか、
急に繋いでいた手を離した。
同校生徒の後輩や先輩たちが駅のホームに
ごった返している。
恥ずかしいんだろうなっと感じ取った。
いつになったらその恥ずかしさを打ち消して
堂々と歩けるのだろうかと疑問に思う。
「ねぇ、朔斗。」
駅のホームに続いてる階段で降りていく朔斗に聞く。
「あ?」
ホームに電車が入り、雑音が響く。
「私たちって付き合ってるの?」
ホームのアナウンスで何と言ってるか
聞こえなかった朔斗は、もう一度梨花の方を
振り向いて聞き返す。
「ごめん、今、なんて言った?」
梨花は、朔斗の隣に移動して、車両に乗り込む。
「……聞こえてないなら、いいよ。」
「え、おいって。もう1回言ってよ。」
ささっと行く梨花を追いかけるが、
もう何も話さなかった。
梨花は端っこの座席に座って、
バックからイヤホンを取り出した。
1人の時間を作った。
何度も聞きたくない。
本当のこと聞いたら、傷つくかもしれない。
近くに朔斗が座ってても、気にしない。
シャットアウトした。
朔斗は空気を読んで真っ暗な外の景色を眺めた。
暗くなった車両の窓には
鏡のように映った自分の姿が見えた。
朔斗は、素直になれない自分が良くないのか。
いじわるするのが良くなかったのかと
少し反省していた。
梨花は、本当のことを聞かなくても
付き合えるという話を恵麻と美貴に
聞いていたのに、
先走ってしまったことを後悔していた。
どうしてうまくいかないんだろうと
音楽を聴きながら、ため息をつく。
終点の駅に着くまで沈黙がずっと続いた。
真っ暗な車窓に
タタタンタタタンと車両の走る音が響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます