第24話 2人の距離感

自然の流れで一緒に帰ってきたものの

家の玄関の前で朔斗に手を振られた。


「んじゃぁな。」


 明日テストあるし、勉強するから

 さっぱりさよならってことなんだろうなと

 モヤモヤした気持ちのままドアノブに手をかける。

 母が家にいたため、鍵は開いていた。


「う、うん。んじゃ。」


 急に恥ずかしくなって、家の中に急いで入った。

 朔斗はその様子を見て、不思議に思う。

 

「なんだよ、あいつ。

 変なの。」


 朔斗も何事もなかったようにいつも通りに

 家の中に入る。

 ミャーゴが玄関にお出迎えしてきた。

 可愛い声を出しながら、足元に擦り寄ってくる。


「ヨシヨシ。おやつやるか。」


 朔斗はミャーゴを抱っこして割と

 ご機嫌そうだった。

 慌てて、家の中に入った梨花は、

 リビングのソファの上、バックを持ったまま

 ため息をついて座る。


「あ、梨花。おかえり。

 今日早いね。

 あれ、テスト週間?」


 梨花の母は台所から声をかけた。

 夕飯の支度をしていたようで、

 良い匂いが漂っていた。

 

「お母さん、勉強するから。

 上にいるね。

 今日、ちょっと食欲ないから

 おやついらないよ。」


「え、うん。

 別におやつ準備してないけど、大丈夫。」


 梨花は階段を駆け上がっていく。

 母は、夕飯の支度に戻って、まな板の上で

 野菜を切り始めた。トントントンと包丁が鳴る。

 梨花は、台所から漂う香りで

 今日はからあげかなと推測する。


 勉強机の上にバックを乗せて、

 顔をボフッとその上に乗せた。


 結局、朔斗と交際するのかしないのか

 はっきりと確認せずに終わってる気がした。

 告白らしい告白はしてしまった気がするが、

 それは付き合うとは至ってない気がすると

 ソワソワしてきた。

 朔斗自身に直接好きとも言われてない。

 誘導尋問で頷かれてはいたが。


 梨花は、腑に落ちないこのモヤモヤした気持ちを

 残したまま、バックから教科書ノートを

 取り出して、世界史の内容を確認した。

 モンテスキューやロック革命なんて、

 もうそんなことどうでもいい。

 頭に全然入らない。

 朔斗は隣にいたことしか思い出せない。


 首をブンブン振って、邪念を消そうとしたが、

 消えない。すぐに思い出す。

 

 結論が出ないままの宙ぶらりんのまま、

 テスト勉強なんてできるわけがない。


 ふと、顔に教科書を乗せて、天を仰ぐと

 ベランダでカリカリカリと窓を引っ掻く

 ミャーゴがいた。



「ん?ミャーゴ。どうしたの?

 もしかして、私に会いに来たのかな。

 お前は素直でいいよなぁ。

 好意がある人にはペロペロなめて

 愛情表現するもんなぁ。」


 ミャーゴは梨花に抱っこされると、

 すぐに手をペロペロ舐め始めた。

 ざらざらとした舌の感触が手に伝わる。

 猫の姿は素直で可愛い。

 梨花は朔斗が本当に猫だったらいいのにと

 思ってしまう。


頭をそっと撫でてから、顎を人差し指でなぞる。

ゴロゴロとのどを鳴らして、ご機嫌になっている。


「君のご主人さまは本当に気持ちがわからないよ。

 伝書鳩みたいに教えてくれればいいのにな。」


 ミャぁ。


 クリクリとした目でミャーゴは梨花を見つめる。

 可愛くて、ぎゅーとハグをした。

 むしろミャーゴになって、朔斗の隣に行っても

 良いんだよなぁと変な妄想をかきたてる。


「おい!

 テスト勉強はどうしたんだよ。」


 ベランダの向こうで声をかけたのは朔斗だ。

 焦った梨花は、慌てて、ベランダの方に

 ミャーゴを移動させた。


「ほら、ミャーゴ。

 ご主人様がお呼びだよ。」


「別に呼んでねぇし」


「は?あんたの家の猫でしょう。」


「そうだけど…。

 ミャーゴと一緒にいたいならそのままでも。

 むしろテスト勉強しないで遊んでてくんねぇ?

 俺が勉強に集中できるから。」


「…それはご遠慮します。」


 梨花は少し抵抗するミャーゴを持ち上げて、

 朔斗の家のベランダまで運んだ。


「あ、そう」


 ミャーゴは朔斗の方に行くが、

 名残惜しそうだった。

 カラカラと黙って窓をしめる。


「おい!!!」


 窓の向こう、朔斗が大きな声で話している。

 梨花は、勉強に集中しようと、

 耳にヘッドフォンをつけて、

 教科書を持った。

 朔斗が何度も大きな声で叫んでいたが、

 無視をした。


 今は、勉強に集中しないとと隣の家を

 見ないようにした。



 梨花が見ていないスマホのラインには、

 変な暗号のメッセージが朔斗から届いていた。



 『暗号 たぬきで読み上げろ。

  おたまたえのたこたとたが

  ただたいすたきただ。』


 梨花は、勉強に集中して

 そのメッセージは翌朝になるまで

 見ることはなかった。



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