第20話 キュピーン
あれは、小学生の高学年……ってとこでしょうか。
同級生にS君という男の子がいました。
普段はあまりしゃべらない無口なS君。一言で言うと、あまり目立たないタイプでした。
そんなS君が一度だけクラスを爆笑の渦に巻き込んだ事件があったのです。
それは社会の時間、先生のこんな質問からでした。
「えー……それでは日本にキリスト教を広めた人物と言えばだれでしょう?」
答えはもちろん「フランシスコ=ザビエル」常識ですよね。
しかも私の地元ではこのザビエルのゆかりの地なる場所もありまして、例え習っていなくとも分かる問題だったわけですよ。
当然答えは分かっているのですが、そこはボケたい盛りの小学生です。
私を含めたお調子者達がふざけはじめるワケですよ。
「えーと……デーブ・スペクター?」
「ウッキィーさん!!」
「マイク・タイソン!!」
まあ……所詮は小学生です。たいしたボケが出るはずもなく、ただ知ってる外人の名前を連ねるのが精一杯でした。
とくに笑いが起きもせず……そんな状況にシビレをきらした先生が「真面目な生徒」に質問しなおします。
そうS君の出番です。
「えーと、じゃあS君。日本にキリスト教を広めたのは誰でしょう?」
真面目な生徒、S君は
「はい」
と答え、静かに立ちます。そして大真面目な顔でこう言い放ったのです。
「キューピー」
ドッ!
ですよ、教室は爆笑の渦ですよ。お調子者がこんなこと言うならまだしも、あの真面目なS君がキリストの伝道師を「キューピー」と真顔でボケたわけですから。
私、爆笑しながら悔しかったのを覚えてますよ。「やられた! 野郎、まさかキューピーでくるとは!」って
しかし、その大爆笑の渦の中……普通なら「どうだ?」って感じで満足気な顔のはずのS君の顔は、みるみる真っ赤に……
そして
「笑うな!!」
教室は一瞬で静まりかえります……
え? マジだったの? と……
そう! この時のS君は大真面目に自信を持って「キューピー」と答えたわけです。
それは、まあショックでしょう。ウケを狙ったわけじゃなかったわけですから。
ましてや、S君はそういう失敗を笑い話として受け流せるキャラじゃなかったワケですから。
こういうのって、人によるわけですよ。
それが『笑い』となるか『辱め』となるかは……
S君本人にしたらイジメられたようなもんなワケですよ。
あの時、私がS君のかもし出す雰囲気を読み取っていれば、彼は辱めを受けずにすんだのかもしれない。
そう……私は昔、空気が読めてないせいで、いたいけな少年を一人知らず知らずのうちに傷つけていたのです。
たとえ自分に身に覚えがなくても、知らず知らずのうちに人は人を傷つけているんだよ? ってことを忘れちゃいけませんよ。
まあ、でも……例え空気を読めていたとしてもですよ? あの場面で
「キューピー」
と答えられたらそんなん誰だって笑うだろう!? と……
言い訳じゃないですが、回避不能な場合な場合もありますから、あくまでも
気を付けようぜ
って話です。
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