第9話

「なるほどね。地下なら誰も気づかないわね」


レオネルに案内させる。


隠し扉から繋がる道を歩いているといつの間にか地下にきていた。


地下は上とは違い、不気味で気持ち悪い空間だった。


「……ねぇ、この人達が貴方を捉えていた人達?」


倒れている人達を指差す。


「はい。そうです」


レオネルは倒れている者達の顔を見て頷く。


「そう。じゃあ、その剣で死なない程度に傷をつけてくれる。その前に魔法をかけるから待ってね」


私は斬りつけられたときの痛みで目が覚めないよう強力な睡眠魔法をかける。


「……はい」


レオネルは意味がわからないという顔をしながらも黙って指示に従う。


全ての剣で全員に傷をつけ終わると私の方を見て次の指示を仰ぐ。


「終わった?それじゃあ、さっさとこの場から離れよう」


「……」


レオネルはこの先にまだ捕えられている人達を助けたくてその場から動こうとしない。


「レオネル。今は駄目よ。一応これも国から認められた仕事だから。でも、約束するわ。そう遠くない未来で必ず助けると。だから、今は諦めて」


私はそう言い終わると彼の返事も聞かずにきた道を戻る。


レオネルが指示に従わずに助けに行くかもしれないという心配はあったが、そのときはそのときで計画を変えればいいと思った。


そもそも攻略キャラ達の計画は完成していないから、大した問題にはならない……はず。


そう思い歩いていると「ご主人様。ここは危険ですので一人で先に行かないでください」と私の前に立つ。


「確かにそうね」


私はレオネルが戻ってきたことに安堵する。


レオネルは私の言葉を信じたわけではないだろう。


それでも戻ってきたのは、私の方が助けられる可能性が高いからと判断したからだ。


だから、そのためなら例え嫌いな国の人間でも尻尾を振る。





「ご主人様。何故ここに?」


奴隷商人の店から出て、手下達の元に戻り剣を返したのまではわかる。


だいだい何をしようとしているのかもそのときわかった。


だが、何故こんな治安の悪い町に来たのかはわからない。


「そんなに知りたい?」


私はレオネルの顔を下から覗き込み微笑む。


「はい。知りたいです」


騎士が主人のやることに口を出すなど本来ならあり得ないが、さっきから何回聞いても怒られないのでつい聞いてしまう。


「それはね……秘密よ」


「……秘密ですか」


流れてきに教えてくれるものだと思っていたのでガッカリする。


「ええ。どうせ、すぐにはわかるわ。遅くても一週間以内にね」


「そうですか」


レオネルはこのやり取りさっきもしたなと思い出す。


これ以上聞いても、さっきのように教えてもらえないと思い諦める。


「じゃあ私は用事を済ましてくるから、貴方は彼らをこの家の中に入れといてくれる?」


「わかりました……ご主人様。どこに行かれるのですか?」


私がどこかに行くのを見て担いでいた男を放り投げ、一人にするのは危険だと判断しついて行こうとする。


「大丈夫。心配しないで。すぐそこだから」


今いるところから20メートル離れた所にある建物を指差す。


そこは今にも崩れそうなほどだった。


「……」


レオネルは返事をせずその場から離れようとしない。


私はそんな彼の態度にため息を吐きながら突き放すようにこう言った。


「レオネル。言われたことをやりなさい。私は使えない者のために何かするのは嫌いなの。貴方が使えないのなら、私は貴方も他の者も助ける気はないわ」


「……すみません。言われた通りにします」


レオネルは私の元から離れ、男達を次々と建物の中に運んでいく。


この様子だと私が戻ってくるまでは大人しく待つだろう。


今から会う人物に、まだ信用できないレオネルを会わすわけにはいかない。


今から会う相手も知らない男、それも体格のいい男がこんな夜中に会いにきたら怖くて話しをするどころではなくなるかもしれない。


伯爵を陥れるためにも、今回は一人で会う必要がある。




「私よ。開けなさい」


フードを深く被り顔が見えないようにしてから中にいる者に声をかける。


返事はなかったが、扉は開いた。


「4日ぶりね。それで、覚悟はできた?」


扉を開けた女の子に尋ねる。


伯爵の計画を知った3日後に協力者を求めて伯爵の領地まできた。


そのとき、偶然伯爵の手下を見つけアジトを突き止めた。


ここは貧民街で貴族はもちろん平民でさえ近寄らない場所。


レオネルを隠すには丁度いい場所だ。


例え彼を見られたとしても敗戦国の将軍だとはわからない。


上手いことを考えたなと思った。


だけど私はもっと上手い計画を立て、伯爵に復讐する。


そのためにも、目の前の女の子の協力は必要不可欠だ。


「……できた」


「そう。なら、今から私達は共犯になるわね。よろしくね」


女の子の目を見て口角を上げる。


やっぱり、この子を選んで正解だった、と。


「どうぞ。入ってください」


「ありがとう。お邪魔するわ」


外で話す内容ではないので遠慮なく上がらせてもらう。




※※※




「じゃあ、後は頼むわね。報酬はあなたが依頼を達成できた後に払うわ。暫くは大変かもしれないけど耐えなさい。その後は、私が貴方達を守ってあげるから」


建物の外に出て別れる前に女の子に声をかける。


出た瞬間、レオネルからの視線を強く感じるも気づいていないフリをする。


レオネルに女の子の姿は見られないよう扉で隠しつつ建物から出てこないよう気をつける。


「はい。期待に応えられるよう精一杯頑張りますます」


女の子は深く頭を下げる。


私はその女の子の頭を優しく撫でながら「ええ。期待しているわ」と言ってレオネルのいる元へと向かう。




「待たせたわね」


大人しく待っていたレオネルに話しかける。


「いえ。大丈夫です」


「そう。じゃあ、もうここには用はないから行くわよ」


「はい」


レオネルは馬の手綱を掴む。


「ん?何をしてるの?」


レオネルが何故手綱掴んだのかわからず尋ねる。


「馬で帰るのではないのですか?」


「その馬は彼らが貴方を攫うために使ったのよ。一頭でもいなくなれば変に思われるわ。心配しないで。もう家に帰るだけだから魔法を使えばいい。その子は戻してきて」


移動したい場所に行ったことがあれば移動できるが、行ったことない場所には移動できない。


そのため、さっきまでは馬で移動しなくてはならなかった。


「……魔法でですか?」


「ええ。そうよ。ほら、行くわよ」


私は手を出す。


一緒に移動するには触れていないとできないから。


「……はい」


レオネルは今の言葉が信じられなかったが、逆らうことなどできず手を掴む。


どうせ虚勢をはっただけだと内心馬鹿にしていたが、突然足元が光り魔法陣が見えたと思ったその瞬間、気づくとさっきいたところと違って建物の中にいた。


「……ご主人様、ここはどこですか?」


動揺しているのがバレないよう平静を装って尋ねる。


「私の部屋よ。詳しいことは明日話すわ。疲れたからもう寝たいの」


私は靴を脱いでベットにダイブする。


「貴方もきなさい」


隣を叩きくるよう指示をする。


「え……?」


レオネルは自分を夜の相手にするつもりかと目を見開く。


レオネルは奴隷になる前は国の男性たちが羨むくらい、それはもう沢山の女性達からモテた。


英雄であり、ヴェールトゥ国唯一の公爵家の跡継ぎで容姿端麗。


女性達が放っておくはずがない。


選び放題の人生だったが、一度も女性達とそういうことをしたことがないし、そもそも二人っきりで会うこともなかった。


幼馴染と王女は別だったが。


それは親の命令で会っていただけでレオネル自身は別に会いたいとも思っていなかった。


そもそもレオネルは愛という感情が理解できなかった。


だから、結婚するつもりもなかった。


跡継ぎなら弟が産んだ子にさせればいいとさえ思っていたからだ。


だから、今から相手をしろと言われたのかと思うと緊張が走る。


一回も経験がないのに満足してもらえるか。


断りたかったが、もし断って捨てられたらまた奴隷に戻るかも知らない。


そうなれば、みんなを助けることはできなくなる。


レオネルは覚悟を決めベットに近づき、服のボタンを外していく。


「何してんの?」


私は急に服のボタンを外し始めたレオネルに欠伸をしながら尋ねる。


「なにって、服を脱ごうとしています……」


レオネルは何故こんなことを言わすのかと恥ずかしくてボタンを外そうとしていた手に力が入り、服を握りしめる。


「ふーん、そう。貴方、寝るとき全裸になるタイプなの?まぁ、人の寝る格好にどうこういうつもりはないけど、こっちから半分には入ってこないでね」


私はベットの半分のところを手で線を引き、自分の方には入るなと言う。


「……?」


レオネルは何を言われているのか分からず固まる。


部屋の中が暗いせいか、それとも眠たくて瞼が重くて目が半分しか開けられないせいかはわからないが、私はレオネルが今どんな表情をしているか見えなかった。


もう限界。


魔法を沢山使ったせいか、半分夢の世界に意識が飛ぶ。


本当はもう寝たいのに、まだ立ったままのレオネルが気になり早く寝るように言う。


「別にここじゃなくてもいいけど、この部屋で寝る場所はここしかないわよ。後は床で寝るしか。まぁ、好きなところで寝ていいわ。詳しいことは明日言うから。悪いけど、もう限界だから寝るわ……」


私はそう言うとそのまま意識を飛ばし夢の世界へといく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る