第6話

お腹が膨れたことで、あっという間に計画が完成した。


といっても攻略キャラ達だけはまだ決まっていない。


過去の記憶で見た姿とゲームでプレイしたときに見た姿が違いすぎて、性格を把握しきれなかったからだ。


ある程度知らないと計画を立てて復讐を実行しても、その復讐が彼らにとっては大した意味にならないかもしれない。


それでは困る。


だから復讐するためにも、まずは仲良くなることから始めることにした。


もう二人接触したが、誰から仲良くなるか決めるため攻略キャラ達の知っていることを紙に書いていく。



攻略キャラは全部で五人。


その内二人は昨日会った。


一人は皇太子のルドベキア・カルロス。


もう一人は魔塔主のイレーネ・ブーゲンビリア。


残りは公爵のヘリオトロープ・グライナー、次期大神官のウィステリアと敗戦国の将軍で奴隷として捕まっているレオネル・アコナイト。


ヒロインと会ったときのことや原作のストーリーを思い出し、誰と最初に仲良くするか考えるも、全員個性が強すぎてなかなか決められない。




「……そろそろ昨日のことで公爵に呼ばれる。そうなると当分社交界には出られない」


そうなると選択肢は一つしかない。


「敗戦国の将軍で奴隷の彼を謹慎の間に見つけるしか選択肢ないよな……」


私がそう呟いた瞬間、あの音が鳴り部屋に響く。


ピコン。



[敗戦国の将軍で奴隷のレオネル・アコナイトの情報]


彼が今どこにいるか、これからどうなるのか知りたいですか?


[yes/no]



私は迷わず「yes」を押す。



ピコン。



[情報]


彼は今闇商人に捕まっています。そして一週間後に連れ去られ、オイケン伯爵が彼を匿います。



私はウィンドウを確認するとその内容に驚きを隠せなかった。


「こんな話しゲームにはなかった……」


そう。今まさに目の前でゲームにはなかったことが起ころうとしている。


もしかしたら、その設定はあったのかもしれない。


ただ書かれていなかっただけかもしれない。


レオネルはロベリアと会ったときには皇帝を殺そうと息を潜めて身を隠していた。


たまたま彼女と出会い、その優しさに触れ共に過ごすようになったとしか書かれていなかったが、その前に伯爵家にいたのかもしれない。


そもそも原作にはない話しがこれから起こるのは当たり前だ。


ゲームはどのストーリーも全てヒロイン目線で進められていたが、彼女が知らない、関係ないストーリーがあっても当然だ。


それにこれからその原作をぶち壊そうとしているのだから、今慌てていたら予想外のことが起きたら何も出来なくなる。


私は心を落ち着かせ、どうするかを決める。


「確か、オイケン伯爵ってレイシーを馬鹿にしていた嫌な男だったはず……」


私は復讐リストに名があるか確認する。


「やっぱり。丁度いい。彼の復讐はさっきのをやめて別のにしよう。その方がきっと面白い」


レオネルを手に入れ、伯爵の復讐へと計画を変える。


彼を手に入れ、その後どうするかは後で考えることにした。


何故なら、今この部屋に誰かが近づいてくる気配がするからだ。


これもレイシーの能力なのかと感動する。


私は紙をまとめ、急いでベットの下に隠す。




「お嬢様。旦那様がお呼びです」


言葉は丁寧だが、扉を叩くこともせず、私の許可も得ず勝手に部屋の中に男は入ってきた。


レイシーの過去でこの男はこの屋敷を仕切る執事長のゲイルだとわかる。


今感情に任せてゲイルに復讐しても意味がない。


公爵を怒らせ、計画に支障が出る。


だから、我慢だ。


そう自分に言い聞かせ、目の前の男を殴りたい衝動を必死に抑える。


「お父様が!?わかったわ!すぐに行く!」


中身が違うことに気づかれないよう、呼ばれて嬉しいとぶりっ子の演技をする。


'ぎゃあああー!'


レイシーの演技のフリのせいで全身に鳥肌が立つ。


今すぐ演技をやめて素を出したくなる。




トントントン。


「旦那様。お嬢様をお連れしました」


私のときの態度とはえらい違いように頬が引き攣りそうになる。


「入れ」


公爵がそう言うとゲイルは扉を開け、さっさと入れと私を睨みつける。


'はいはい。睨まれなくても入りますよ'


私はわざとゆっくりと部屋の中に入る。


ほんのちょっとした仕返しのつもりで。


「お父様。おはようございます。私にお話があると聞きました。何でしょうか?」


私は吐きそうになるのを我慢しながら、アイドルに会えて喜ぶ子供みたいな感じで公爵に話しかける。


レイシーは呼ばれるたびに今度こそはと期待して話しかける。


そしてその度にそんな淡い期待を粉々に砕かれた。


「貴様、昨日何をした」


公爵は不愉快なのを隠すことなく態度に出す。


私は公爵の態度にレイシーと話すのがそんなに嫌なのかと思う。


「何をって言われた通りにしていました」


’ウザッ!'


心の中で公爵に中指を立てる。


そんなに言うなら彼女に頼まずに自分でやればいい。


「言う通りにして、これか!昨日、ミューア家の令嬢のドレスにワインをかけたそうだな。そして、そのことを怒ったクラーク侯爵の次男に逆ギレしたそうだな!」


'何言ってんだ、こいつ?'


公爵の言っていることが理解できずに固まる。


前半はその通りだが、後半は違う。


それにあれは事故として終わった。


まぁ、あの男のことだから嘘をついて公爵に報告をすると思っていたが……


勝手にヒーロー気取りして、勝手に恥をかいただけなのに、こうも自分方位に言えるものだなと呆れを通り越して感動してしまう。


それを信じる公爵にもだが。


これまでのレイシーの行動を思い出せば疑うのも無理はないが、人を見る目がないなと公爵にたいして心配になる。


「そんなことしていません!それに、あれは事故です。わざとじゃありません」


「黙れ!」


私が最後まで言い終わらない内に叫んで話を遮る。


公爵は非を認めない私に腹を立てたのか怒鳴り散らす。


'あー、うるさいな。まじで、この男ぶん殴りたいわー'


公爵が何か言っているなと思いながら黙って反省しているフリをする。


公爵に罵声を浴びせられながら30分が経過した。


それでも足らないのかまだ公爵は何かを言っている。


私は公爵の言葉を聞き流しながら、頭の中で公爵をいたぶる。


例えば魔法でボコボコにしたり、体を浮かせ上から落として地面スレスレで止めたりと公爵が泣いて謝る姿を想像した。


公爵の泣き叫ぶ姿は痛快で少しだけスッキリした。


そんな想像を繰り返している内に、公爵は満足したのか声が止まった。


「……お父様。本当に申し訳ありませんでした」


涙を流し、酷く怯えた感じで謝る。


私は自分でも驚くほどに演技が上手いことに感動した。


「もういい。お前には元々期待などしていしな。当分社交界には出さん。勿論、一カ月後に開催される皇宮パーティーには出られないと思え」


「……はい」


「話は終わりだ。出でいけ」


公爵は私の方を見ずに吐き捨てるように言う。


'はい!喜んで!'


私は心の中で返事をして、実際には何も言わずに涙を流しながら走って出て行く。


これは毎回レイシーがそうやって出て行くからである。


元々この男に礼儀を尽くすつもりはなかったので助かった。


使用人達に泣いている姿を見られながら、部屋へと戻る。


途中笑い声が聞こえてきたが、レイシーは毎回相手にしないので、腹は立つが無視する。



「これで心置きなくレオネルの案件に取り掛かれる。とりあえずこの一週間は魔法の練習でもしようかしら」


レイシーはこの国を滅ぼせるほどの絶大な魔力を持つ。


彼女は自殺する一年前にはどんな魔法も使えるようになっていたが、今はどうなのかわからない。


ある程度使えなければ困る。


確認のため右手に力を入れ炎を出すイメージをする。


ボワッ!


予想を遥かに超える大きな炎が出て慌てて魔法を解く。


手のひらに小さな炎を出すつもりだったのに、天井に届くくらいの大きな炎を出してしまう。


「思った以上に難しいわね」


中身は違う人間だとしても体は一緒だし、ある程度は上手く出来ると思っていたが予想が外れた。


これは使い方を間違えれば人を殺してしまう。


それでは駄目だ。


もしそんなことになれば、復讐する前に牢屋に入れられることになる。


「どんな手を使っても絶対にものにしてやろうじゃんか!」


私はその日から一週間、ずっと魔力のコントロールの特訓をした。


魔法を使っているというのに公爵家の人間は誰一人として、そのことに気が付かなかった。


家族も使用人達も誰も魔法は使えないので当然だが、普通の親子なら気づけていたはずだ。


魔法が使えることがバレたら利用されるのわかるので、彼女には悪いが透明人間として扱われていて良かったと思った。




あっという間に一週間がたち、レオネルを手に入れ、伯爵に復讐する日がきた。


ある程度魔法のコントロールできるようになったので自信はある。


後はウィンドウが表示され場所を教えてくれさえすればいい。


朝からずっとウィンドウが表示されるのを今か今かと待つ。


空が暗くなり星が数えきれないくらい出始めて、もしかしてウィンドウは表示されないのではないかと焦り始める。


ゲームだから、お助けシステムがあるとなぜあると勘違いしたのかと自分を責める。


どしたらいいかわからず部屋の中を歩き回っているとあの音が聞こえバッと顔を上げ表示されたウィンドウを見て安心する。



ピコン。



[レオネルが伯爵の仲間に連れ去られました。このままでは、彼は伯爵の手に落ちます。助けますか?]


[yes/no]



「もちろんよ」


私はウィンドウが出てきてくれてホッとし、迷いなく「yes」の方を押す。


押した瞬間、足元に魔法陣が現れた。


前回と同じ魔法陣に、すぐにそれが転移の魔法をするためのものだと気づき抵抗することなく身を任す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る