第53話 絶望と猫

 夜の帷が空から下りてきて、村全体を真っ黒な闇が満たす。

 昼間から降り続けている雨は一向に止む気配を見せず、分厚い暗雲が空に敷き詰められているせいで天で輝く星々や、太陽の次に大きい月までスッポリと隠れてしまっていた。それらを借りている宿の一室の、カーテンが開かれている窓から見ていた寝巻き姿の僕は、ふと、明日に村を出発するための荷支度を終えて部屋の隅に置かれた、いつも背負っているバックの方に視線を向ける。 

 壁に密着させるように置かれている茶色のバック横には、僕の唯一の武器である鏡面剣が立て掛けられており、その壁に設置されているハンガー掛けには、今日の魔族討伐隊活動中に雨水で濡れてしまった、夏なのに肌身離さず着込んでいる茶色のコートが干すように掛けられていた。


 明日には一週間も寝泊まりを続けていた、この部屋ともお別れなわけなのだが、僕は少しの寂しさと、イカ魔族と対峙してから——いや、もっと前から胸の内にある『あるもの』をジクジクと脈動させて、夜が更けてくる時間だというのに、しみじみと感じ入ってしまっていたのである。その『あるもの』が僕の思考を邪魔するせいで、瞼がパッチリと開いたまま閉じることができず、十二時が過ぎてしまっているにも関わらず、全く寝付けなかったのだ。

  

「……」


 僕が明日訪れるだろう『友との別れ』の寂しさを感じてしまっているのは本当だ。しかし、そんな寂しさよりも、僕の胸の内側で日に日に存在感を増してきている『あるもの』に、僕は気が気ではなくなってしまっていた。

 あるもの——の正体は、破裂してしまいそうなくらい風船のように胸の内側で膨れ上がった『不安』という感情だ。この不安は、僕がこの村に着いてから心に小さく生まれ出たものであり、それが一週間という日々を越してもなお、衰え消えることなく、今でもその存在感を増し放っていた。

 

 イカ魔族は『人を喰らい、その人に化ける』それは正直、誇張創作だと僕は思っている。だって、恐らく帰り際の御者を襲ったのだろう奴は『御者に化けてはいなかった』のだから。もしかしたら、荷物を放り捨てて逃げ出したのかもしれないけれど、馬車に乗って帰っていた訳だし、荷物だけを捨てて逃げるなんて、とても考えられない。だから、イカ魔族が人に化けたというのは単に『人型』を誇張した話なのだろう。人に似た動きをしていたとか、そういう感じだろう。だって、人に化けたところで所詮中身は魔族だ。人語は喋れないだろうし、仮に喰った人に化けれても、その人の癖や行動と言動の『真似』は出来っこないだろう。


 だから、イカ魔族が人に化けるなんて考えられない。

 

 だけど、もし、イカ魔族が都合よく喰らった人の『記憶を知る』ことができたのなら、あるいは……。そんな『空想』じみたことを真剣に考えていた僕は、あり得ないよな——と思考を打ち切ってしまった。

 

 明日は朝の八時に出発だ。村を出たら徒歩で『オルカストラ』との国境を仕切る関所に向かわなくちゃいけない。 もうすぐ午前一時になってしまうし、夜更かしすると、明日の徒歩移動の悪影響になってしまうから、もうそろそろ寝なきゃいけないな。 大丈夫。この胸の内の不安は『杞憂』のはずだ。僕の気のせいのはずなんだ。 


 そう自己暗示してしまった僕は、明日の行動の『結果』に絶望する。 

 明日、僕は未来永劫——後悔することになる……


           * * *

 

 日の出と共に目を覚ました僕は、ベットから上半身を起こし、身体を捻って時計を確認する。現在の時刻は午前六時半。まさかなと今日の深夜に『ドキドキ』と心配していた僕は、自分が寝坊していなかったことに胸を撫で下ろし、ベットから立ち上がる。そして寝巻きの灰色のスウェットを脱ぎ、それを畳んでバックに押し込み、いつもの私服に着替えを済ませた。

 一晩で乾いてくれたコートの匂いを嗅ぎ、大丈夫だなと確認した僕は袖を通し、壁に立てかけていた鏡面剣を腰に差す。そして部屋から出て洗面所で顔を洗い、用意されていた今日で最後になる『独特の隠し味のする料理たち』を腹いっぱいまで平らげた。それから一度部屋に戻り、に支度を終えていたバックを背負って、一週間も世話になった宿から出る去り際に、僕に『恐怖の籠った目』を向けてくる宿屋の女将と、その娘に別れの挨拶を送る。

 

「今まで、お世話になりました!」

「「……」」


 相変わらず無表情のまま一言も返事をしない彼女達に、僕は顔を引き攣らせつつ、軽く会釈をした後、カランカランという音を鳴らして開けて扉から外に出た。


「スゥー……ハァー——……」


 外に出た僕は、腕を鳥の飛翔のように大きく広げて、深く息を吸って——ゆっくりと吐いた。

 この村に来た時から感じていた『どんより』とした風通しの悪い空気は今も変わっておらず、最初は嫌な空気だなって気分が落ち込んでいたんだけれど、流石に八日も滞在してしまうと良い意味で慣れてしまったな。

 そう考えて苦笑してしまった僕は、ニアくんと待ち合わせをしている、村を囲っている柵の出入り口の所へと歩いていく。まだ時刻は七時が過ぎだ頃だから、昨日僕が言っていた時間よりも一時間近く早いんだけど、最後に村を見て歩きたいし、僕が早く出入り口に着いても昨日言っていた通り、友が来るのを待つだけだしな。


 そう思った僕は、村を見て歩くため、建物を縫うように歩いていく。そして、それから三十分ほどが経った頃、僕の視界の先には、目的地の村の出入り口が見えてきていた。

 

「……あ! ソラ兄ちゃん!」


 村の出入り口の横にある柵の柱に背をもたれさせていたニアくんは暇潰しで靴底を地面にザッザッと擦っていたが、片手で手を振りながら近づいて来る僕に気づいた途端、顔をパアッと晴れさせて、大振りで僕に手を振りかえした。

 そして駆け足で彼の前に移動してきた僕は、彼を待たせてしまったのかと思い、申し訳なさそうに眉尻を下げて声を掛ける。

 

「ごめんね、待たせちゃった?」

「ううん。全然だよ」


 僕の問いに、ニアくんは微笑しながら顔を横に振る。


「そっか。それなら良かったよ」

「ふふっ。……あ、えっと朝御飯は何を食べたの?」

「えっとね——」


 それからしばらくは二人して笑顔のまま、まるでお互いに寂しさを紛らわしているかのように、別れを惜しむ感情を胸の内に隠しながら、僕達は軽い会話に花を咲かせた。チュンチュンという鳥の囀りを耳に入れ、夏を感じさせる朝の日差しを肌でジリジリと感じながら、僕達の時間は別れを惜しむ心情とは裏腹に、あっさりと過ぎ去っていく。別れの言葉を言いづらい雰囲気は場にはあったものの、このままじゃいけないと思ってしまった僕の方から、何とか暗い顔をしないようにと我慢していた友に別れの挨拶を切り出した。


「ニアくん。僕は、そろそろ行くよ」

「……歌の国に行くんでしょ?」

「うん」

「……そっか」


 魔族を探していた時とは違うものの、それと似た影を身体に纏ってしまった小さい友を正面から見た僕は、風船のようにはち切れんばかりに膨らんでしまっていた『不安』という感情が、僕の胸の内で『パンッ』と弾けてしまったような感覚に見舞われ、その破裂音を僕は確かに聞いた。

 その大きずぎる不安は僕の胸から瞬く間に全身に広がり渡り、抑えきれない吐瀉物のように喉を流れ通って口から出そうになった不安の塊を、僕は意識的に抑えることができずに、ニアくんに向けて吐き出してしまっていた。

 

「に、ニアくんも……一緒に来る……?」


 無意識に僕の胸の内から吐き出てきた言葉に、口に出してしまった僕と、それを聞かされたニアくんは驚愕した。

 バッと口を抑えた僕は、無言で俯いてしまったニアくんを見る。もしも彼が「うん」と僕の誘い言葉を承諾したら、僕は彼を旅に連れて行ってしまうという『確信』があった。 やってしまったのか——と思い、額に汗を掻いてしまった僕は『もう、どうにでもなれ——!!』と、グッと腹に力を入れて覚悟を決めた。そして俯きながら黙って考えている友の返事を待つ。

 それから数分して、顔を上げた友の目には悲しみと寂しさが込められており、それを見た僕は彼の答えを察した。


「ううん……いい。ありがとう、ソラ兄ちゃん」 


 そう言って、小さき友人は泣き笑いにも見える笑顔を、その顔に浮かべた。それに対し、僕も寂しさを感じさせてしまうような笑顔を向けながら、別れの言葉を口に出そうとして——グッと眉に力を入れた友に先に言われてしまう。   


「——っ! バイバイ! ソラ兄ちゃん!」

「……うん。バイバイ、ニアくん」

「今度は遊びに来てね!」 

「うん! 絶対にまた来るからね!」


 村を出入り口を歩き出て、外の土に足を踏み込んだ僕に向けて手を振る友は、目から透明な涙を流した。それを見た僕は何とか笑顔を作り出し、小さき手を大きく振る友に手を振り返す。

   

 僕は、これが友との『最初で最後』別れだとは知らずに、ニアくんとの別れを終えてしまった——


         + + +


 ソラと別れて小一時間ほどが経った頃、ニアは村長に呼ばれて、彼の家に向かっていた。村の『皆んな』の目が、ソラ兄ちゃんが居なくなってから確実に変わってしまっている。その何とも言えない視線を向けられているニアは、内心怖気付きながらも、それを感じさせないように、まっすぐ前を向いて歩いていく。

 ニアは『どうしようもない』不安を胸の内に抱えながら、村長宅の扉を叩いた。すると『すぐに扉が開き』背の低いメイドが出てきて「入れ」とだけ言って、ニアを逃さないように背後に回った。そして真っ直ぐな廊下を歩いていき、自分で居間へと続くやや重い扉を開け広げる。

 居間に置かれている玉座のような椅子には、赤黒い髪と無精髭を生やした村長が座っており、彼はニアを見た途端、その顔に恐ろしいと感じてしまうほどの笑みを浮かべた。 そして玉座から勢いよく立ち上がり、ニアを歓迎するように両手を広げる。


「おぉ、よく『一人』で来てくれたな、ニア。この時をどれだけ待ち侘びたことか……。やっと居なくなってくれたようで、我等は心底安心しているんだよ」


 やたらめったら仰々しく、まるで劇をする俳優か何かのような仕草をする村長に、ニアは疑問を投げかける。


「何が居なくなったの?」

 

 その問いかけに、村長は『分かっているんだろう?』と伝えているかのように、ニヤリと、恐ろしいほどに暗い笑みを顔に作った。


「化け物に決まっているだろう?」

「化け物って?」

「ギゲゲ。本当は気付いているのだろう? お前は勘がいいからなぁ」

「ソラ兄ちゃんのことを言っているの?」

「当たり前だろう? よくもまあ、あんな化け物を何日も村に縫い止めおってからに。心底肝が冷えたぞ」


 そう言った『村長達』の顔はグニャリと歪んでいき、ソラが頭部を撃ち抜いて殺害した『イカ魔族』にソックリの風貌に変化していく。それを見たニアは一切動じることなく、猫耳を畳み、目を伏せた。

 そして締め切られていた、居間へと続く扉が突然開き、そこからニアの両親の姿が入ってくる。父と母のような者は、こんな絶望的な状況にも関わらず、不気味なほど安心しきったような笑顔をしていた。


「ボクの『パパとママ』はどこ?」

『いるだろう、そこになぁ』

「いないよ」

『ギゲゲゲゲ! お前だけ仲間外れだなぁ。お前の『代わり』はコイツだったんだがなぁ。運悪く殺られてしまったからなぁ……ギゲゲ!』


 村長だったものが見て指差すのは、ソラが頭部を撃ち抜いたイカ魔族の死骸だった。仲間が死んでいるというのに、周りにいるイカ魔族達が気にした様子はない。

 ギゲゲ——という変わった笑い方をしていた村長だったものは、仲間の死体を指差し終わった後、真面目な声音を仲間達に聞かせた。


『あんな化け物とは、もう会いたくないからなぁ、ここはもう捨てる。ニア、最期に何か言うことはあるかぁ?』


 イカの顔をしている村長だったものから身の毛もよだつ加虐に満ちた笑みを向けられたニアは、それを恐れることなく、悲しげな表情で口を開いた。


「ボクの、パパとママは?」

『そんな者、もう死んどるよ?』


 その言葉が合図だったのか、ニアの父親に擬態していた魔族は、背に隠し持っていた『斧』を上げ、固まってしまっているニアの頭部に向けて、振り下ろした——


 ドスっという鈍い音が室内に響き渡り、斧の刃が割って入ったニアの頭部から鮮血の大輪が床に咲き誇る。

 

『死体は喰って処理しろ。早く逃げなければ危ないからなぁ。あの化け物は絶対に帰ってくるからなァア……』


 魔族達はニアの死体を平らげて、最低限の荷を持って村から去っていく。魔族が去った村には『誰一人』も居ない。

 

 これは昼前のこと。

 

 汗を散らすソラが村に走って戻ってきたのは、それから数時間後の『夕方』の頃だった。


           * * *


 足取り重く、ゆっくりとした小さい歩幅で関所の方へと歩き続けていた僕は「うっ」と苦悶の声を漏らして、前のめりになって立ち止まり、鈍痛を発する胸部を片手で押さえた。朝から——村を出てから、破裂してしまったはずの不安がさらに存在感を増してきてしまっており、ザワザワとした嫌な胸騒ぎが一向に止まらずにいる。その胸騒ぎのせいかは分からないけれど、息が思ったようにできなくて、汗が全身から止まらずに湧き出てきてしまっている。

 僕は堪らず膝をつき、片手で倒れ込まないように地面を押さえながら、ゆっくりと息を吸って、吐く。それを何度か繰り返した後、コートを雑に脱ぎ捨てて、張り付くような不快感を感じさせる全身の汗を乾いた布で拭い去った。

「はあ、はあ、はあ……」と歩き疲れを肉体は全く感じていないにも関わらず、疲労困憊のように息を切らしてながら胸を押さえていた僕は、ヒューっと地に吹いた『騒がしさ』を孕んでいる風に顎を持ち上げられたかのように、ふと空を見上げた。


 太陽は真上から少しズレたところに存在しているし、僕の体内時計的に、今の時刻は午後三時過ぎくらいだろう。


 僕が村を出発したのが午前八時前だったから、ここに来るまでに八時間は歩いてきたことになる。道路ですれ違う馬車の数が多くなってきているから、この近くに目的地の関所があるに違いない。やっと関所に到着するというのに、何だこの止まらない胸騒ぎは。何なんだ、この息苦しさは……。

 体力的な疲れは一切ない。そのはずなのに、疲れたように息が切れてしまって、足に重りをつけているかのように、ここまで思ったように先に進むことができなかった。これが何かの病気なのかと頭で考える度に、僕の心が即座にそれを否定してしまう。それなら他の原因があるのではないのかと頭で考えようとする度に『そうじゃない』という心の声が聞こえてきてしまう。だから答えが見つからない。 何も分からない——そのはずなのに。

『戻れ』という心の声が聞こえている気がする。僕のもとに吹いてくる風が、何かを伝えているような気がする。


 それらを出発から『小一時間後』に感じていた僕は、全身を震えさせる恐怖に怖気付き、今の今までそれらを『分からない振り』をしてしまっていた。顔を『まさか』という恐怖に染めてしまった僕の耳に入ってくる「はあ、はあ、はあ」という息を切らしたような音は、最初『疲労から来る息遣い』だと思っていた。しかし、それが本当は『恐怖に震える息遣い』だと気付いた——その瞬間。


 僕は来た道を走り出していた。


「ニアくんっっっ!?」


 弾けたように駆け出した僕は無意識に風の加護の力を使用し、全力で走る身体の前面を風に押さえられる感覚を味わうことなく、逆に追い風のように背を押されながら、僕は尋常ではない速さで走っていく。 

 地を駆ける単馬よりも速いだろう、人間を超えた疾走を持って、僕は数時間掛けて進んできた道を、ものの数十分で戻り切ることができた。

 そして視界の先に見えた今朝に『友と別れた』場所である村を囲う柵の入り口を見て『何も変わっていないじゃないか』と僕はスッと安堵した。そして徐々に走る速さを落として、ゆっくりと村全体を視界に収めていく。

「はあ、はあ、はあ……」と安堵の笑みを浮かべながら息を切らしていた僕が、駆け足で行った先で見たものは——


 人の気配が完全に絶たれてしまっている、誰も居ない廃村のようになってしまった『無人の村』であった。僕は顎が外れんばかりに愕然と口を開け、首を勢いよく動かして村中を見回す。

 

「あ……え? あっ——は? ……ニア、くん……?」


 僕は無我夢中で村を走り回り「誰か!?」と大声を上げながら、村に置いて行ってしまった、小さき友を探した。


「はあ、はあ、はあっ。ニアくん!? どこに居るの!? 返事をしてくれ!? 隠れないでよ——っ!?」


 僕は、鍵の掛かった家の扉を力尽くで壊しながらこじ開けていき、無人となってしまった家屋の中を確認していく。


 家の扉をこじ開けるたびに、呼吸が荒くなる。

 無人の家屋の中を踏み荒らすたびに、視界が歪んでいく。


 はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ…………


 僕は最後に残されていた『村長宅』の扉に手を掛ける。その扉には、態とらしく鍵が掛けられていなかった。扉を開けて家の中に入った僕は目尻から涙を流しながら、やけに長く感じる廊下を歩き、居間へと続く扉を押し開いた。


「————————」


 僕の歪む視界に映されたのは、誰も座っていない玉座と、その下の床に広がっている赤い染み。そして赤い染みの上に置かれていたのは——


 断たれた『猫の尾』と血に濡れた真っ赤な鉄斧だった。


 それを見た瞬間、僕の頭の中からガラスが割れるような甲高い音が鳴った。視界が真っ赤に歪んだ。外れてしまいそうになる程に大きく開かれた口の端から膨大な涎を垂らしてしまった。嫌だ嫌だと首を横に振る僕の視界には非情な現実が映し出されている。嘘だ嘘だと寝言のようにか弱く口ずさむ僕の口からは、酸っぱい何かが一気に吐き出される。食道を焼かれた嫌な臭い嗅ぐ僕の鼻は、床に広がる赤い染みから、ここで失われた小さき命の香りを感じ取ってしまった。


「あえ……? ……あ? はっ!? うぁ…………?」


 何だ、何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ。

 

 壊れる、壊れる。心が壊れる。

 

 視界が赤く捻り切れて暗転し、頭が引き裂かれてしまいそうになるほどの大きすぎる耳鳴りが執拗に響き続け、ソラの心を保っていたか細い糸は、信じたくない絶望を突きつけてくる現実に耐え切れず『プチンッ』という大音を鳴らして千切れてしまった。


「う、うぁ……うぁ——うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアっっっ!?」


 悪意に満ちる魔族が嘲笑うかのように残した絶望は、一人の男を発狂させる。

 

 小さき一人の友の死は、ソラの心を壊してしまった——

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